ローカルグローススタジオは、『地方企業にスタートアップのような成長を』というテーマで、コンテンツ発信と支援サービスを展開しています。この記事では、実践的なビジネスノウハウを、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。
私たちは、家業を継ぐ人(アトツギ)が経営者としていまどの段階にいるかを、代表権を持っているかどうかと、自分が始めた事業が会社の柱として軌道に乗っているかどうかで、3つのフェーズに分けて考えています。
この記事は、家業を継ぐ経営者と経営者候補の方に向けて、フェーズごとの特徴と、その時期の心持ち、準備、頭の整理のしかたをまとめたものです。中小企業白書の調査と、家業を継いだ経営者の事例をもとにしています。
親族ではないが代表を任される方や、M&Aや事業承継で経営に加わる方にとっても、自分がいまどの段階にいて、何に取り組むかを整理する観点として使えます。
- この記事で分かること
- 1. 自分がいまどのフェーズにいるかは、代表権と、自分が始めた事業が柱になっているかで確かめる
- 2. 承継前のフェーズ0では、家業の現場を知り、新しい事業を小さく試しておく
- 3. 承継直後のフェーズ1では、何のために継いだのかを言葉にしてから、売り方と社内の仕組みを見直す
- 4. 事業成長後のフェーズ2では、自分が始めた事業が好調なうちに次の柱と次の代のことを考え、拡大の投資は目的と体力に照らして決める
- ローカルグローススタジオが、フェーズごとに支援できること
- 自分で進められることと、相談したほうが早いこと
- 参考資料
- まとめ:承継前は現場を知って新しい事業を試し、承継直後は何のために継いだかを言葉にし、事業成長後は次の柱と次の代のことを考える
この記事で分かること
- 自分がいまどのフェーズにいるかは、代表権があるかどうかと、自分が始めた事業が会社の柱になっているかどうかで確かめます
代表になる前の方向け(フェーズ0)
- 代表になるまでの準備期間は人によって大きく違い、準備期間がないまま代表になる人もいます。代表になる時期を待たずに、準備を始めておきます
- 家業の現場と数字を自分の目で知り、新しい事業の案を小さく試しておきます。私たちが「先進企業に学ぶ」シリーズのアトツギ編で取り上げた12社のうち7社は、のちに柱になった事業や取り組みを代表になる前に始めていました
- 先代と考えが合わない時の進め方として、自分の担当を広げながら時期を待った例と、反対を受けても進めた例を紹介します
代表になって間もない方向け(フェーズ1)
- 最初に、何のために継いだのかを言葉にします
- 経営者が交代した会社の売上の伸びは、交代から2年ほど、同じ業種の平均をわずかに下回っていました。最初の数年の数字だけで、自分の判断の良し悪しを決めないようにします
- 売り方を変える時は、売上が下がった場合の資金繰りも考えておきます。一人で抱えず、社員に任せられる仕組みを作ります
自分の柱が育ってきた方向け(フェーズ2)
- 自分が始めた事業が好調なうちに、次の柱になる事業を考え始めます
- 人に来てもらう拠点や採用への投資は、何の数字を伸ばすための投資かを先に決めてから判断します。次の代に何を渡すかも、自分が代表のうちに考え始めます
- 拡大の後に大きく落ち込んだ会社もあるので、投資が会社の体力に見合っているかと、1本の柱に頼りすぎていないかを確かめ続けます
1. 自分がいまどのフェーズにいるかは、代表権と、自分が始めた事業が柱になっているかで確かめる
3つのフェーズは、次のとおりです。
| フェーズ | 時期 | 状態 |
|---|---|---|
| フェーズ0 | 承継前 | 代表権や経営権はないが、家業に参画して仕事をしている状態 |
| フェーズ1 | 承継直後 | 代表権や経営権が承継され動き始めたフェーズ。自分が就任してからの新規事業や成長の柱がまだ確立していない状態 |
| フェーズ2 | 事業成長後 | 新規事業や、成長の柱が軌道に乗り、実績に伴う信頼獲得ができた状態。さらなる組織拡大や事業拡大を目指す状態 |
フェーズ0とフェーズ1を分けるのは、代表権があるかどうかです。フェーズ1とフェーズ2を分けるのは、先代から引き継いだ事業とは別に、自分が始めた事業や取り組みが会社の柱になっているかどうかです。代表になる前に自分で始めた事業も、ここでは自分の柱に含めます。
自分が始めた事業が柱として育っているかは、売上に占める割合や販売数を毎年記録して追う
自分が始めた事業が会社の売上に占める割合と販売数を毎年同じ時期に記録しておくと、柱が育っているかを年ごとの変化で確かめられます。家業を継いだ経営者の会社では、次のような数字が残っています。
売上に占める割合では、木村石鹸工業(大阪府八尾市)の自社ブランド事業が、会社全体の売上高の30%(2021年度)から40%(2022年度)になりました(2023年版中小企業白書 事例2-2-3)。能作(富山県高岡市)では、問屋経由の仕事が約4%になり、残りは自社商品になったと、能作克治氏が話しています(能作の記事)。
販売数では、山上木工(北海道津別町)の自社ブランドの椅子「ISU-WORKS」が、立ち上げ当初の年間100脚以下から、2021年には1,400脚になりました(2022年版中小企業白書 事例1-1-2)。
割合や販売数が思うように伸びない時は、問い合わせから受注までのどこで止まっているかを分けて見ると、次に手を打つところが分かります。少人数の会社での進め方は、地方企業におけるファネル分解を考えるで説明しています。
フェーズ1が長く続いても、年数でなく、自分の柱の状態でフェーズを確かめる
フェーズは、入社や就任からの年数では決まりません。承継直後と呼ぶフェーズ1も、自分が始めた事業が柱として育つまで続くので、その長さは人によって違います。いまどのフェーズにいるかは、年数ではなく、そのときの状態で確かめます。
承継前の期間が短い方やない方は、フェーズ0の項目を代表になる前後に確かめる
親族ではないが代表を任される方や、M&Aや事業承継で経営に加わる方は、引き継ぐ会社で働く承継前の期間が短いか、ない場合があります。その場合は、引き継ぐ会社の現場と数字を自分の目で知ることや、何のために引き受けるのかを言葉にすることを、代表になる前後に確かめておきます。
2. 承継前のフェーズ0では、家業の現場を知り、新しい事業を小さく試しておく
承継前の特徴は、準備期間が人によって大きく違い、準備期間がないまま代表になる人もいること
中小企業白書(2021年版)によると、先代経営者の親族が承継した場合、承継の意思を伝えられてから経営者に就くまでの期間は、5年超が43.9%、半年未満が15.1%でした(東京商工リサーチの調査、回答2,795人)。
2023年版の白書に載っている別の調査では、親族内の承継で、承継を決断してから社長に就くまでの準備期間が「5年以上」の企業は29.9%、「準備期間はなかった」企業は14.7%でした(帝国データバンクの調査、回答2,153社)。
2つの調査は起点と回答者が違いますが、どちらの調査でも、承継が決まってから代表になるまでの期間は人によって大きく違います。準備期間がないまま後継者が社長に就いた企業も14.7%あるので、代表になる時期を待たずに、フェーズ0のうちから準備を始めておくことをおすすめします。
外での経験を生かし、家業の現場と数字を自分の目で知っておく
2021年版の白書に載っている調査は、先代の親族が承継した場合に、承継前の5年程度で取り組んだことを尋ねています(複数回答、2,745人)。多かったのは次の取り組みです。
- 先代経営者とともに経営に携わった: 69.1%
- 他社での勤務を経験した: 42.8%
- 自社事業の技術・ノウハウについて学んだ: 40.2%
- 取引先、金融機関との関係を引き継いだ: 34.4%
代表になる前から、家業の採算を管理する仕組みを入れた人もいます。
小柳建設(新潟県三条市)の小柳卓蔵氏は、金融会社に勤めた後、2008年に28歳で入社しました。代表になる前に、チーム単位の独立採算制度を入れ、社員一人ひとりが採算を意識する仕組みを作っています(2023年版中小企業白書 事例2-2-5)。
経営に関わる前に、赤字の部門に自分から入った人もいます。中川政七商店(奈良市)の中川淳氏は、2002年に家業へ戻り、配送の仕事から始めました。週1回顔を出していた、赤字の麻雑貨の部門の管理がうまくいっていないことに気づき、その部門への異動を自分から願い出て、1年か2年で黒字にしています(中川政七商店の記事)。
新しい事業の案を考え、代表になる前から小さく試しておく
2021年版の白書の同じ調査で、承継前の5年程度に社内で新規プロジェクトを遂行した人は13.0%で、少数です。一方で、承継をきっかけに新しい事業に取り組んだ会社に絞ると、検討を始めた時期は承継の前が多くなっています。
2023年版の白書によると、事業承継を契機に事業再構築(新しい製品やサービスの提供など)に取り組み、検討の時期を答えた1,659社のうち、約6割の1,020社は承継の前から検討を始めていました(帝国データバンクの調査)。
事業再構築が売上高の増加に寄与したと答えた企業は、承継の前から検討していた企業で81.2%、承継の後に検討を始めた企業(639社)で69.5%でした。どちらの数字も企業自身の回答なので、この比較は、承継の前に検討すれば売上が伸びるという因果までは示していません。
私たちが「先進企業に学ぶ」シリーズのアトツギ編で取り上げた12社では、中川政七商店、能作、玉川堂、久原本家、黒龍酒造、マルカワみそ、甲子化学工業の7社が、のちに柱になった事業や取り組みを、代表になる前に始めていました。
久原本家(福岡県久山町)の河邉哲司氏が社長になったのは41歳ですが、初めての自社ブランドである辛子明太子の「椒房庵」は、その前の1990年に立ち上げています。黒字になるまでには9年かかりました(久原本家の記事)。
ふくべ鍛冶(石川県能登町)の干場健太朗氏は、2013年の入社と同じ年に、小型トラックで集落を回って刃物を直す「移動鍛冶屋」を始めました。
きっかけは、高齢の顧客が刃物の修理のためにバスで1時間かけて来る姿を見たことでした。干場氏が社長に就いたのは2020年です(2023年版小規模企業白書 事例2-1-9)。
バスで1時間かけて来る姿は、「近くで直してほしい」という困りごとの表れとして読めます。顧客の行動から、本当は何に困っているかをつかむ考え方は、インサイトを理解するで説明しています。
山上木工の山上裕一朗氏が自社ブランドの椅子「ISU-WORKS」を育てたのも、専務の時期でした。販売数が伸びた2021年には、売上高も過去最高になっています(2022年版中小企業白書 事例1-1-2)。
甲子化学工業(大阪市)の南原徹也氏は、代表になる前の2020年に、医療現場の「ドアの取っ手に手を触れないようにしたい」という声から、腕でドアを開ける自社商品の「アームハンドル」を出しました。アームハンドルがヒットし、2020年の売上は過去最高の4億3,000万円になっています(甲子化学工業の記事)。
新しい事業を始める順番は、新サービス開始時のステップをおさらいで4つのステップに整理しています。代表権がなく使えるお金が限られる時期は、この順で小さく試すのが現実的です。限られた資源で試す点はスタートアップと似ており、地方企業(特に代替わりや事業承継企業)と、スタートアップの類似点と相違点で整理しました。
先代と考えが合わない時は、担当を広げて時期を待つ道も、反対を受けても進める道もある
代表になる前に始めたい取り組みが、先代の考えと合わないこともあります。能作の能作克治氏は、婿養子として入社した後、先代から次の言葉を言われ続けました。
「人と違うことをするな。人と違うことをしたいなら、社長になってからやれ」(能作の記事より)
商品開発をやりたかった克治氏は、この言葉の下で、社長になる直前まで自社商品を出しませんでした。その間に職人として現場に立ち、製造、受注、経理、出荷、取引先回りまで自分の担当を広げてから、2002年に社長になっています。初めての自社商品の真鍮の卓上ベルを出したのは、社長になる1年前の2001年です。
中川政七商店の中川淳氏は、直営店を出すことに父から反対されましたが、自分の判断で出店を進めました。
「当時社長だった父からは、少々反対されました。『お店は人件費もかかるし店頭在庫も持たなアカン。やめとけ、基本は卸や』と。(中略)『いや、やります』ということで押し切りました」(中川政七商店の記事より)
克治氏は時間をかけて担当を広げ、中川氏は反対を受けても出店を進めました。どちらが正しいという答えはなく、2人とも、自分で選んだやり方で取り組みを続けました。
3. 承継直後のフェーズ1では、何のために継いだのかを言葉にしてから、売り方と社内の仕組みを見直す
承継直後の特徴は、販路の開拓に取り組む人が最も多く、売上の伸びが交代から2年ほど業種の平均をわずかに下回ること
2021年版の白書に載っている同じ調査は、先代の親族が承継した後の5年程度で、意識的に取り組んだことも尋ねています(複数回答、2,730人)。
- 新たな販路の開拓: 47.6%
- 経営理念の再構築: 35.8%
- 経営を補佐する人材の育成: 34.2%
- 新製品・新サービスの開発: 29.9%
- 社内のIT化促進: 26.0%
- 新事業分野への進出: 25.9%
2023年版の白書は、2008年から2012年に経営者が交代した企業の売上高成長率を、同じ業種の平均と比べています。交代の1年後と2年後はどちらも平均を0.2ポイント下回り、3年後に0.1ポイント上回り、9年後には2.1ポイント上回っていました(帝国データバンクのデータ)。
最初に何のために継いだのかを言葉にする
承継後の5年で経営理念の再構築に取り組んだ人は35.8%でした。会社の理念とは別に、自分が何のために家業を継いだのかを言葉にした経営者もいます。久原本家の河邉氏は、41歳で社長になった後、2年ほどかけて自分の役目を言葉にしました。
「(前略)俺は何のために4代目をするのかなということを考える時期がありました。2年ぐらいかかりましたけど、その時の結論が、創業200年に向けてですね、確実に成長できる方向を示すのが私の役目だと。4代目として思ったんです」(久原本家の記事より)
自分が何のために継いだのかが言葉になると、会社が目指す姿(ビジョン)を決める時の材料になります。ビジョンから事業、商品、営業、組織の順に決める考え方は、間違ってはいけない戦略の順番|ビジョン→事業→商品→営業→組織で説明しています。
最初の数年の数字だけで、自分の判断の良し悪しを決めない
経営者が交代した会社の売上の伸びは、交代から2年ほど、同じ業種の平均を0.2ポイント下回っていました。代表になって間もない時期の数字が平均を下回っても、それだけで自分の判断が間違っていたとは言えません。
新しい事業が黒字になるまでの期間も、長くなることがあります。マルカワみそ(福井県越前市)では、河崎宏氏が代表になる前の1992年に有機の原料づくりを始めてから、有機JAS認定工場になる2001年までの9年間、有機の取り組みは赤字が続きました(マルカワみその記事)。
久原本家の椒房庵も、黒字になるまで9年かかっています。代表になってからの売上も、新しい事業の損益も、最初の数年の数字だけで判断しないことをおすすめします。
売り方を変える時は、売上が下がった場合の資金繰りも考えておく
承継後の5年で最も多かった取り組みは、新たな販路の開拓でした(47.6%)。私たちが取り上げたアトツギ編の12社のうち、玉川堂、久原本家、中川政七商店、黒龍酒造の4社も、代表になる前後に、問屋や卸を通す取引を減らし、直販や直営店、特約店に売り方を変えています。
玉川堂(新潟県燕市)は、玉川基行氏が代表になる前の1996年に問屋を通す流通をやめ、2014年に直営店を開いて百貨店との取引もやめました。玉川氏は、百貨店との取引をやめた年のことを次のように話しています。
「百貨店との取引をやめた年は約30%も売上が落ちました。直販に切り替えると利益率などが良くなるイメージがありますが、そうではありません。直営店は賃料やスタッフの人件費などがかかり、百貨店と取引をしている時と利益率はほとんど変わりませんでした」(玉川堂の記事より)
玉川堂のように、売り方を変えた年に売上が落ちた例があります。売り方を変える時は、売上が下がった場合の資金繰りも考えておくことをおすすめします。
一人で抱えず、社員に任せられる仕組みと、自分の時間を空ける仕組みを作る
社員が自分で動ける仕組みを整えた経営者もいます。木村石鹸工業の木村祥一郎氏は、自分で立ち上げたIT企業から2013年に家業へ入り、2016年に社長になりました。
入社当初に全社員と面談し、情報共有が足りないことと、失敗を恐れて新しい提案をためらう風土に気づきました。社長になってからは、社員が自分で企画を出す取り組みや、自己申告型の給与制度を入れました(2023年版中小企業白書 事例2-2-3)。
いまいる人で仕事を回しながら、人を集める力を上げていく考え方は、マネジメントとは、今のリソースでやりくりすること、リソース調達力を上げることで書いています。
社内のIT化には、承継後の5年で26.0%が取り組んでいます。小柳建設の小柳卓蔵氏は、2014年に社長になった後、業務の効率化と防災の観点から、基幹システムをすべてクラウドに移しました(2023年版中小企業白書 事例2-2-5)。
どの業務を仕組みに移すかを決めることは、代表が自分の時間をどこに使うかを決めることにもつながります。少人数の会社でAIを使って作業の時間を空ける方法は、AI活用の始め方と発注ノウハウにまとめました。
4. 事業成長後のフェーズ2では、自分が始めた事業が好調なうちに次の柱と次の代のことを考え、拡大の投資は目的と体力に照らして決める
事業成長後の特徴は、組織や事業を広げるための投資を決める時期に入ること
自分が始めた事業が柱として軌道に乗った後は、組織や事業を広げるための投資を決める時期です。アトツギ編の12社のうち6社は人に来てもらう拠点に投資し、久原本家は次の柱の検討を、能作と黒龍酒造は次の代への準備を始めていました。一方で、浅野撚糸は進出先での見込み違いとコロナの影響が重なり、石屋製菓はコロナの時期に、大きく落ち込みました。
自分の事業が好調なうちに、次の柱になる事業を考える
自分が始めた事業が軌道に乗った後も、会社を支える事業の数がいまのままでは時代の変化についていけないと考え、好調なうちに次の柱になる事業の検討を始めた経営者がいます。久原本家の河邉氏は、自社ブランドの茅乃舎が育った後に、次のように話しています。
「ですから今言っているのは、三本の矢ではまずいと。今から四本でも五本でも持っておかないと、時代のスピードが速すぎるからもたないだろうという話をしています」(久原本家の記事より)
次の事業として、自分たちが積んだ経験を同じ業界の他社の支援に使う経営者もいます。古屋旅館(静岡県熱海市)の内田宗一郎氏は、旅館経営で得た経験を他の小規模旅館に伝えるため、「旅館経営総合研究所」を立ち上げ、2026年6月に事業を始めました。
「お客様からの支持を一定数頂ける旅館経営ができたからこそ、その経験を地域や業界全体に還元したいと考え(後略)」(古屋旅館の記事より)
拠点や採用への投資は、何の数字を伸ばすための投資かを先に決める
自分が始めた事業が軌道に乗った後、工場見学ができる施設や店舗のような、人に来てもらう拠点に投資した会社もあります(アトツギ編の12社のうち、能作、黒龍酒造、浅野撚糸、玉川堂、久原本家、鈴廣かまぼこの6社)。
能作は工場見学のできる新社屋を2017年に開き、見学者は2016年の年間約1万人から2019年には年間12万人になりました。見学は無料で、見学者がショップとカフェで買い物をし、贈答品に能作を選ぶ流れができています(能作の記事)。拠点に投資する時は、来た人のどんな買い物や注文で回収するのかを先に決めておくと、判断しやすくなります。
黒龍酒造(福井県永平寺町)も、酒蔵を訪ねる人を迎える施設ESHIKOTOを2022年に開いています。来てもらう拠点では、地図の検索で見つけてもらえるかどうかが入口の1つで、その方法は店舗ビジネスはMEO(地図検索最適化)が重要で説明しています。
採用への投資も、どの職種をいつ採るかを、伸ばしたい数字から逆算して決めます。KPIから逆算して必要なポジションを見極める考え方は、ポッドキャスト第16回 求人票をKPIから逆算してつくるで話しています。
次の代に何を渡すかを、自分が代表のうちに考え始める
自分が始めた事業が軌道に乗った後に、次の代に何を渡すかを考え始めた経営者もいます。能作では2023年に克治氏の長女の千春氏が社長に就き、黒龍酒造の水野直人氏は、施設を自分の代で完成させず、娘たちに渡すと話しています。
「私が『なぜここを作り、何を目指したか』という想いのバトンだけはしっかり渡し、具体的な手法は娘たちが時代に合わせて考えていけばいいと思っています」(黒龍酒造の記事より)
次の代に渡す時に起きやすい問題と、その解決の例は、先進企業に学ぶ(課題別編)承継で起きた問題を、16社はどう解決したかで16社分を並べています。
投資が会社の体力に見合うかと、1本の柱に頼りすぎていないかを確かめ続ける
軌道に乗った後に、もう一度大きく落ち込む会社もあります。浅野撚糸(岐阜県安八町)は、福島県双葉町への進出を進める中で、コロナの影響と、帰還者数の見込み違いが重なり、借金が最大26億円まで増えました(浅野撚糸の記事)。
石屋製菓(札幌市)は、コロナの時期に、社長の石水創氏の話では年商が210億円規模から70億円まで落ちました。銀座の直営店や中東への出店など、看板商品の白い恋人に頼る割合を下げる取り組みを続けています。2024年4月期のグループ売上は192億円でした(石屋製菓の記事)。
落ち込む理由は、自分たちで決めた拡大の投資の場合も、外の環境の変化の場合もあります。フェーズ2に入った後も、拡大の投資が会社の体力に見合っているかと、1本の柱に頼りすぎていないかを確かめ続けることをおすすめします。
ローカルグローススタジオが、フェーズごとに支援できること
フェーズごとに、私たちが支援できることは次のとおりです。
- 代表になる前の方(フェーズ0)とは、代表権がないうちに小さく始める事業の売り先と届け方を、一緒に試します
- 代表になって間もない方(フェーズ1)には、売り方を変える時期の問い合わせや販売の数字を、毎月見られる形に整えます
- 自分の柱が育ってきた方(フェーズ2)には、拡大に合わせて必要になる人の採用を、人材紹介のタレントグローススタジオで支援します
自分で進められることと、相談したほうが早いこと
この記事で紹介したことのうち、次のことは外部に頼まなくても自分で進められます。
- 自分がいまどのフェーズにいるかを、代表権と自分の柱の2つで確かめます
- 何のために継いだのかを、自分の言葉で書いてみます
- 先代から引き継いだ事業と、自分が始めた取り組みを分けて書き出します
- 自分の柱について、売上に占める割合や販売数を毎年記録します
一方で、新しい事業の売り先が決めきれないとき、売り方を変える時期の数字の見方が分からないとき、拡大に合わせて採る人を決めかねているときは、外部に相談したほうが早く進みます。よかったらご相談ください。
参考資料
- 中小企業庁「2021年版 中小企業白書」第2-3-31図、第2-3-35図、第2-3-37図(東京商工リサーチ「中小企業の財務・経営及び事業承継に関するアンケート」2020年11月から12月)
- 中小企業庁「2022年版 中小企業白書」事例1-1-2(株式会社山上木工)
- 中小企業庁「2023年版 中小企業白書」第2-2-12図(帝国データバンク「企業概要ファイル」)、第2-2-14図、第2-2-34図(帝国データバンク「中小企業の事業承継・M&Aに関する調査」)、事例2-2-3(木村石鹸工業株式会社)、事例2-2-5(小柳建設株式会社)
- 中小企業庁「2023年版 小規模企業白書」事例2-1-9(株式会社ふくべ鍛冶)
- 先進企業に学ぶ(アトツギ編): 古屋旅館、中川政七商店、甲子化学工業、能作、久原本家、玉川堂、マルカワみそ、黒龍酒造、浅野撚糸、石屋製菓
- アトツギ編の12社: 上の10社に、鈴廣かまぼこと餃子の雪松を加えた12社です
まとめ:承継前は現場を知って新しい事業を試し、承継直後は何のために継いだかを言葉にし、事業成長後は次の柱と次の代のことを考える
代表になる前は、準備期間が人によって大きく違い、準備期間がないまま代表になる人もいる時期です。この時期には、家業の現場と数字を自分の目で知り、新しい事業の案を小さく試しておけます。
私たちが取り上げた12社のうち7社は、のちに柱になった事業や取り組みを、代表になる前に始めていました。先代と考えが合わなかった2人の経営者は、1人は担当を広げて時期を待ち、もう1人は反対を受けても進めるというように、それぞれ自分でやり方を選び、取り組みを続けていました。
代表になって間もない時期は、最初に何のために継いだのかを言葉にし、そのうえで売り方と社内の仕組みを見直します。経営者が交代した会社の売上の伸びは、交代から2年ほど同じ業種の平均をわずかに下回っていたので、最初の数年の数字だけで、自分の判断の良し悪しを決めないことをおすすめします。
売り方を変えた年に売上が約3割落ちた例もあるので、売上が下がった場合の資金繰りも考えておきます。一人で抱えず、社員に任せられる仕組みと、自分の時間を空ける仕組みを作ることも、この時期の準備です。
自分の柱が育ってきたら、好調なうちに次の柱になる事業を考え、拠点や採用への投資は何の数字を伸ばすための投資かを先に決めます。次の代に何を渡すかも、自分が代表のうちに考え始めます。
拡大の後に大きく落ち込んだ会社もあるので、投資が会社の体力に見合っているかと、1本の柱に頼りすぎていないかを確かめ続けることをおすすめします。
「ビジネス知の機会格差をなくす」という私たちのミッションに向けて、これからも実践的で価値ある情報を発信していきます。この記事の内容について、さらに詳しく知りたい方は、ぜひご連絡ください。

執筆者 : 佐久間 一己 (さくま かずき)
つなぐスタジオ株式会社 代表取締役社長 / ローカルグローススタジオ Director
リクルート営業マネージャーを経て、福井県小浜市で道の駅・古民家ホテルの集客支援と行政の産業6次化に4年携わり、その後ユーザベースFORCAS(現Speeda)カスタマーサクセスマネージャー、スタートアップ執行役員、フィンテック事業責任者を務め、2025年に地方企業向けのマーケティング代理店を設立。BtoB事業でWEBメディアを立ち上げオーガニック流入を3か月で20倍に伸ばすなど、知名度や予算が限られる時期に効くマーケティングと採用の手法を、地方企業の規模に合わせて伴走します。


