ローカルグローススタジオは、『地方企業にスタートアップのような成長を』というテーマで、コンテンツ発信と支援サービスを展開しています。この記事では、実践的なビジネスノウハウを、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。
今回取り上げるのは、冷凍餃子の無人販売チェーン「餃子の雪松」を運営する株式会社YES(本社・東京都国分寺市、代表取締役・長谷川保氏)です。ブランド名の由来は、1940年(昭和15年)に群馬県水上町(現在の利根郡みなかみ町)で創業し、3代続いた中華食堂「お食事処 雪松」のレシピにあります。3代目店主の甥にあたる長谷川氏が、後継者が不在となった店の味を残すために、別法人としてレシピを引き継ぎました。2018年9月に埼玉県入間市で1号店を開き、2019年7月からは24時間の無人販売へ切り替え、2023年2月には沖縄県を除く46都道府県で432店舗まで拡大しています。
家業を継ぐ経営者は、引き継ぐ会社を選べません。与えられた会社の中の何を変え、何を守るかの見極めがすべてになります。この事例が特徴的なのは、店そのものを継がず、レシピだけを別の法人で引き受けたという点です。家業を継いだ方、これから継ぐ方に向けた事例として読み解きます。
なお、株式会社YESの取材対応は一貫してマーケティング部長の高野内謙伍氏が担っており、長谷川氏本人の発言は公開資料の範囲では確認できていません。この記事の引用は、断りのない限りすべて高野内氏の発言です。
この記事の要約
先にストーリーの全体像です。群馬県みなかみ町の「お食事処 雪松」は、1940年創業の中華食堂でした。3代目店主の松井茂氏は、4代目を継ぐ予定だった息子と妻を病気で相次いで亡くし、後継者が不在になります。甥にあたる長谷川保氏は飲食業の出身ではなく、1000円カットや不動産の事業を営んでいました。2016年から冷凍生餃子の試作を始め、3代目からレシピを教わって再現します。1号店の開店時に3代目に試食してもらったところ「これなら全く一緒だよ」という言葉をもらいました。2018年9月に埼玉県入間市で1号店を開業。2019年7月の12号店から24時間の無人販売に切り替えます。商品は1パック36個入り1,000円の冷凍生餃子のみ。決済は料金箱に現金を入れる方式です。コロナ禍の需要と重なって出店は加速し、2022年6月に400店を達成、2023年2月には432店になりました。ところがその後、需要の構造が変わり、店舗数は縮小に転じます。2024年11月時点で219店、2026年9月1日時点で公式サイトに掲載されている店舗は91店です。
このストーリーから持ち帰れる観点は、次の6つです。それぞれ本文の章で事実を確認し、最後の6章で説明し直します。
1. 店を継がず、レシピだけを別法人で引き受けている(1章)
2. 業態を削ぎ落とし、商品と立地だけで売上を立てている(2章)
3. 直営を選んだことで、拡大も撤退も本部に集中している(3章)
4. 急拡大した業態が、前提の変化で同じ速さで縮んでいる(4章)
5. 承継の目的が「味を残すこと」に置かれている(全体)
6. 拡大と縮小が、同じ事例の中で起きている(全体)
各章の末尾に、ローカルグローススタジオの分析と「この事例から考えられること」をまとめています。
参考資料一覧
- 餃子の雪松 公式サイト、株式会社YES 会社概要・沿革
- BDS Report「【異業種特集】餃子の雪松(株式会社YES) マーケティング部 高野内謙伍 部長」(2022年7月11日)
- ORICON NEWS「”無人販売所”で万引き横行の最中、なぜ『餃子の雪松』は”性善説”を貫けるのか?」(2022年11月28日)
- 東洋経済オンライン「『餃子の雪松』が全国制覇しても絶対変えない流儀」(2023年2月22日)
- プレジデントオンライン「たった3年で350店以上に大増殖…ギョーザの無人販売が異次元の速度で出店できるワケ」(2022年2月24日、文春オンライン提携配信)
- ビジネスジャーナル 冷凍ラーメン事業に関する記事(2023年6月20日)
- ITmedia ビジネスオンライン 無人販売店の閉店に関する記事(2024年11月)
- 帝国データバンク「餃子無人販売店動向調査」(2023年)
- 肥後ジャーナル 熊本県内店舗の閉店に関する現地取材(2024年11月21日)
- 本庄経済新聞 出店記事(2021年1月28日)
数字で見る餃子の雪松
| 時点 | 数字 | 出典 |
|---|---|---|
| 1940年 | 群馬県水上町で中華食堂「お食事処 雪松」が創業 | 公開報道 |
| 2014年5月1日 | 株式会社YES設立(本社・東京都国分寺市) | 公式サイト |
| 2016年 | 冷凍生餃子の試作を開始 | 公開報道 |
| 2018年9月 | 埼玉県入間市に1号店を開業 | 公式沿革 |
| 2019年7月 | 12号店(東京・大泉学園店)から24時間の無人販売へ切り替え | 公開報道 |
| 2019年4月期 | 売上高 約1億5,000万円 | 東京商工リサーチ調べ(プレジデントオンライン経由) |
| 2020年度 | 売上高 6億円(前年の4倍) | 同上 |
| 2020年7月末 | 42店 | 公開報道 |
| 2021年5月 | 埼玉県入間市に新工場が操業開始(敷地1,700平方メートル超、1日100万個以上の生産能力) | 公式沿革 |
| 2021年8月 | 200店 | 公開報道 |
| 2022年5月末 | 384店 | BDS Report |
| 2022年6月 | 400店を達成 | 公式沿革 |
| 2023年2月2日 | 432店(沖縄県を除く46都道府県、全店直営) | 東洋経済オンライン |
| 2022年度末 | 無人餃子販売店は全国1,282店。雪松ブランドは市場の約3割で最大手 | 帝国データバンク |
| 2023年1〜5月 | 冷凍ラーメンの販売数が累計100万食を突破 | ビジネスジャーナル |
| 2024年6月 | 374店(ピーク比約1割減) | 公式サイトの実測に基づく報道 |
| 2024年11月17日 | 219店(ピーク比約半減) | ITmedia(公式サイトの実測) |
| 2026年9月1日 | 公式サイトの掲載店舗数は91店 | 公式サイトの実測 |
1. 後継者のいない中華食堂と、飲食未経験の甥
ブランドのルーツは、群馬県北部のみなかみ町(旧・水上町)にあります。「お食事処 雪松」は1940年創業の中華食堂で、温泉地である水上の地元客や観光客に長く親しまれてきた店でした。
店を切り盛りしていたのは3代目店主の松井茂氏です。4代目を継ぐ予定だった息子と妻を病気で相次いで亡くし、後継者が不在になっていました。松井氏は2020年に77歳で逝去しています。
ここで登場するのが、松井氏の甥にあたる長谷川保氏です。長谷川氏は飲食業の出身ではなく、それまで不動産や1000円カットなどの事業を営んでいました。
高野内氏は、レシピを引き継ぐことになった経緯をこう説明しています。
「長谷川の叔父さんは、群馬県みなかみ町にある『お食事処 雪松』の3代目。特に餃子は、昭和15(1940)年から受け継がれ、著名人やプロアスリートをはじめ遠方からもわざわざお客さんが訪れるほどの看板メニューでした。最初に相談されたときは、飲食業の経験もない自分たちには難しいだろうと思ったのですが、最終的にはこの”伝統の味”を継承することになりました」
再現までの過程も語られています。
「80年以上前から3代続いた中華食堂『雪松』のレシピを、3代目から教わって完全再現した。1号店オープンのときに3代目に試食してもらい『これなら全く一緒だよ。もう作るのが大変だから、お前のところから仕入れるよ』と言ってもらえた」
再現は簡単ではありませんでした。
「昭和の職人気質の3代目は、経験則での調理法。『焼き方は、パチパチいっているのがチリチリしてから』といった説明を再現するのに苦労した」
そして、時間の制約もありました。
「実は1年前に亡くなったんです(3代目店主のこと)。レシピを教わり同じ味を再現し、冷凍問題などいくつもの案件をクリアし販売形態を決めてオープンするまでに2年掛かりました。ホント、ギリギリだったと思います」
なお、株式会社YESの取材対応を担う高野内謙伍氏は、長谷川氏の同級生にあたります。
この承継の形は、家業の本体を血縁の後継者が引き継ぐ場合とも、ゼロから新しく創業する場合とも違います。本店は群馬・水上に残したまま、レシピを別の法人が引き受け、製造と販売は埼玉の自社工場と東京の運営会社が担っています。老舗のレシピだけを、別法人で世に出した承継です。
なお、株式会社YES自体は2014年5月1日の設立で、餃子事業を始める前から存在していた会社です。飲食の会社がレシピを引き継いだのではなく、別業種の会社が新しい事業として引き受けた形になります。
ローカルグローススタジオの分析:何のためにやるかが、事業の形を決めている
私たちは間違ってはいけない戦略の順番|ビジョン→事業→商品→営業→組織という記事で、戦略には順番があり、最初に「何のために事業をやるか」を決めるという考え方を書きました。手元の資源から考え始めると、できることの範囲でしか事業が決まりません。
餃子の雪松を読み解くと、最初に決められたのは「雪松の味を残す」という一点で、私たちが記事に書いた順番と同じ考えが表れています。この目的が先にあるため、飲食業の経験がないという条件は、事業を諦める理由ではなく、業態を工夫する理由になりました。接客も調理もしない業態を選んだのは、経験がない部分を事業から外したからです。
同じ記事では、「何のために」が決まっていれば日々の判断も迷わない、とも書きました。ニンニクなし餃子やシソ餃子を作ってほしいという要望をすべて断り、加盟の申し出もすべて断ってきたのは、この目的に照らして判断しているからです。ただし後の4章で見るとおり、変えないという判断は、需要が変わったときの対応を難しくする側面も持っています。
この事例から考えられること
照らし合わせてみる項目
- 後継者がいない場合に、廃業以外の選択肢を検討したか
- 技術や製法が、経験則のままになっていないか
- 先代が元気なうちに、味や品質を判定してもらっているか
- 事業のうち、どこまでが移せるものかを整理しているか
- 承継の相談先が、親族の外にもあるか
事例から読み取れること
1. 店とレシピが、分けて引き継がれている
店舗と従業員と屋号をまとめて引き継ぐのは難しくても、製法だけなら移せる場合があります。この事例では、その分離が実際に行われました。何が移せて何が移せないかを分けて整理する余地は、他の会社にもありそうです。
2. 経験則を、再現できる形に翻訳している
「パチパチいっているのがチリチリしてから」という説明を、誰でも再現できる形にする作業がありました。感覚で伝えている工程を数字や時間に置き換える作業だと言えます。
3. 完成の判定ができたのは、先代だけだった
「これなら全く一緒だよ」という一言が、再現の完了を意味しました。この判定ができる人がいるうちにという時間の制約が、この種の承継にはついて回ります。
2. 商品1種類、24時間無人、料金箱
餃子の雪松の業態は、徹底して削ぎ落とされています。
- 商品は1種類のみ: 1パック36個入り、1,000円(税込)の冷凍生餃子。別売りの特製タレはありますが、それ以外のサイドメニューも飲料もありません
- 24時間営業の無人販売: 2019年7月に開業した12号店(東京・大泉学園店)から無人化に切り替え、以降の新規出店はすべて無人モデル
- 決済は料金箱に現金を入れる方式: 電子決済もタッチパネルもなく、料金箱は神社の賽銭箱に近い形
- 店舗運営は補充と清掃のみ: 各店舗にパートスタッフが数名いて、商品の補充、清掃、備品の発注、棚卸しを担当
店内の設備は、冷凍ストッカー、防犯カメラ、料金箱、看板だけです。初期投資が軽く、撤退のコストも低い構造になっています。
防犯についても、最小限の構成が採られています。店舗をガラス張りにして中が見えるようにし、防犯カメラを設置し、料金箱を賽銭箱に近い形にしています。この3つ以外に、電子的な仕組みは入れていません。現金での支払いを前提にした設計です。
無人という発想の出どころも語られています。
「無人販売という発想の原点は。──野菜の無人直売所をイメージしました。これが原点です。ヒントにしたのは『オフィスグリコ』ですね。代金回収率を調べたら、その頃は98%ほどでした。これなら行ける、そう思いました。(中略)結局、昔ながらの方法に落ち着きました。結局、革新的なことは何もなかった(笑)」
「80年以上にわたって受け継がれてきた歴代の店主の思いを、より手軽に全国に届けるためにはどうしたらいいか。そう考えたとき、浮かんだのが野菜の無人直売所でした」
技術で解く選択肢も、検討されたうえで見送られています。
「無人店舗の展開前は、電子決済でピッとやればドアが開くようなテクノロジー系も検討しました。でも、すべての人が気軽に使えるやり方ではありません。自動販売機も検討しましたが、伝統の餃子をそんなふうに扱うべきではない、という思いが勝りました」
盗難への考え方も、明確です。
「大前提として”性善説”であることは間違いないです。(中略)『日本人は勝手に盗ったりしない』という思いもありました。本当に盗まれて仕方がなかったら、次の日から有人にすればいいわけだし、小さい会社なので、それくらいラフに、とりあえず試してみたかったんです」
「店舗は無人販売ですが、おそらく誰もが思うのは、盗難被害はあるのか、ということだと思います。──よく聞かれるのですが、いままで盗難はほとんどないんです」
商品を増やさない方針も、繰り返し語られています。
「創業時からメニューは餃子のみですが、新商品の開発は。──最初の頃は、社内で何度も話し合いしましたし、お客さんからも要望がありました。例えば、ニンニクなし餃子やシソ餃子を作って欲しい、といったものです。でも、すべてご意見を『封印』しました。80年以上続いている餃子の味の完全再現というのが雪松の始まりです」
「受け継がれてきた雪松の餃子に自分たちの思いつきで手を加えることは考えられません。クセが強い餃子であることは認識しています。でも、ガンコなオヤジが作り上げたそこが持ち味だし、変えたら雪松ではなくなってしまいますからね」
品質管理では、失敗も経験しています。
「以前、膨大な量の廃棄を出したことがありました。だから、1日に1回では追いつかないんです」
品質チェックの頻度を1日1回から1時間に1回へ引き上げた経緯として語られたものです。製造は自社工場で行い、2021年5月には埼玉県入間市に敷地面積1,700平方メートル超の新工場を稼働させ、1日100万個以上の生産能力を持つ体制を整えました。
ローカルグローススタジオの分析:自社が戦う場所を、極端に絞っている
地方企業やスタートアップに共通する、低リソース・ブランド無しの戦わない戦略で、私たちは、資源の限られる企業が大手と同じ土俵で競わない方法を書きました。同じ品揃えで同じ立地に出れば、資本の差がそのまま結果になります。
餃子の雪松の業態を読み解くと、私たちが記事に書いた考え方と同じ考えが、極端な形で表れています。飲食業の経験がない会社が、接客も調理も在庫管理もやらない業態を選びました。残したのは、商品の味と立地だけです。競争の要素を減らせば、経験の不足が結果に響く場面も減ります。
同じ記事では、戦略とはやらないことを決めることだとも書きました。ただし、この絞り込みには裏側があります。商品が1種類しかない以上、その商品が選ばれなくなったときに、店舗側で吸収する手段がありません。接客も品揃えも持たないということは、売上が落ちたときに打てる手も持たないということです。後の4章で見るとおり、この構造がそのまま縮小の速さにもつながっています。
この事例から考えられること
1. 削ぎ落とした後に、商品と立地だけが残っている
接客も調理場もない業態で売上が立つかどうかは、残ったものの強さで決まります。この事例では商品と立地の2つが残りました。
2. 技術で解ける課題を、あえて解いていない
電子決済も自動販売機も検討したうえで、料金箱が選ばれました。新しい仕組みが常に良いとは限らないという判断です。
3. 品質チェックの頻度が、起きた損失から決まっている
1日1回では追いつかなかったため、1時間に1回に変えています。頻度が理屈からではなく、実際に起きた損失から逆算された例です。
3. 加盟の申し出を、すべて断っている
無人販売で初期投資が軽いという業態は、フランチャイズと相性が良さそうに見えます。実際、申し出は多く来ていました。
「スーパーや料理店から、ウチに卸してくれないか、ウチで取り扱わせてほしい、FCやらせてくれないか、といった問い合わせが毎日のようにあるのですが、すべてお断りしています。(中略)私たちのなかでは、『伝説の餃子』なので、その考えはありません」
すべての店舗が直営です。株式会社YESが土地建物を借り、自社で内装と冷凍ストッカーと看板を入れ、自社のスタッフを配置する形になっています。直営にこだわる理由も語られています。
「お客様の手元に渡るところまでを自分たちで対応しよう、と考えているため、直営にこだわっています。非合理的であることは理解していますが、それだけこの餃子を大切にしていきたい、という思いが強いのです」
出店の速度も、この体制で作られました。
「少し前までは2名でした。最近は、月に30店ほどのペースで出店しているので、選定にさほど時間は掛けません。担当者は日本全国を回り、次々と候補地を確定していくので、1度、出張に出ると3か月ほど戻ってこないこともあります。まるでロックバンドのツアー(笑)。意外な場所の店が一定期間内の売上トップだったりします」
目指した状態も語られています。
「うどんチェーンの丸亀製麺さんのように”気がつけば身近にあった”という店舗展開にしたい」
ただし、直営を選ぶということは、拡大の負担も撤退の判断も、すべて本部が抱えるということでもあります。加盟金や開発の負担を分散させない代わりに、需要が縮んだときの撤退の責任も本部に集中します。
もう1つ、直営では出店の速度が本部の人員に直結します。加盟方式なら、加盟する側が土地を探し、資金を出し、人を雇います。直営なら、そのすべてを本部が担うことになります。月30店というペースが、専任の担当が3か月出張し続けるという話とセットで語られているのは、この構造の表れです。人を増やさなければ速度は上がらず、その人員は縮小の局面では余剰になります。
「気がつけば身近にあった」という出店の考え方にも、前提があります。商品が1種類しかない業態では、立地ごとの売上のばらつきを店舗側の工夫で吸収できません。つまり、商品そのものが選ばれ続けることが、出店戦略の成立条件になります。立地の戦略だけを真似ても同じ結果にならないのは、この前提が違うためです。
この事例から考えられること
1. 加盟方式を断る理由が、言葉になっている
「お客様の手元に渡るところまでを自分たちで対応しよう」という理由が示されています。断る理由が明確だと、毎回の判断が揺れにくくなります。
2. 出店の判断が、専任の体制で回っている
月30店のペースは、専任の担当が全国を回る体制で成り立っていました。速度と体制がセットになっている例です。
3. 直営の速度と、縮小時の負担が同じところにある
拡大の速度を自社で握れる代わりに、撤退のコストもすべて自社にかかります。実際に店舗数が減った局面で、その両面が現れました。
4. 432店から91店へ
急拡大の後、状況は変わりました。
帝国データバンクの調査によれば、無人餃子販売店の総店舗数は2020年度末の約131店から、2022年度末には全国1,282店へと急増し、2023年度の7月時点では約1,400店に達しています。3年で10倍という規模です。雪松ブランドは市場の約3割を占める最大手でしたが、後発の参入も相次ぎました。同調査では、無人餃子の1個あたりの平均単価は約30円(2023年7月末時点、67ブランドの平均)とされています。雪松の36個入り1,000円は、この水準に沿った価格です。
つまり、価格でも業態でも差がつきにくい市場に、短期間で1,000店以上が現れたことになります。設備投資が軽いという業態の特徴は、自社にとっての参入のしやすさであると同時に、他社にとっての参入のしやすさでもありました。
そして、店舗数は縮小に転じます。2024年6月時点で374店、2024年11月17日時点で219店。2026年9月1日時点で公式サイトに掲載されている店舗は91店です。熊本県内の7店舗はすべて閉店し、北海道からも撤退が報じられています。
なお、これらの店舗数は公式サイトの掲載情報を報道機関や調査者が実測したものです。株式会社YESからは公式の店舗数の推移は公表されていません。掲載ページの総数であるため、実際の営業状況とは必ずしも一致しない可能性もあります。
背景として複数のメディアが挙げているのは、次の点です。
- コロナ禍の収束で、外食とテイクアウトの需要の構造が変わったこと
- スーパーや冷凍食品メーカーの家庭用冷凍餃子が、品質と価格の両面で競争力を高めたこと
- 雪松の成功を見た同業者が乱立し、市場全体が過剰な供給になったこと
- ニンニクを効かせた味の強い餃子が、マスクの着用が求められなくなった後に選ばれにくくなったこと(一部メディアの分析)
商品を1種類に絞り、接客も品揃えも持たない業態は、出店の速度を最大化する構造でした。同時に、需要が変わったときに調整する手段を持たない構造でもあります。
ローカルグローススタジオの分析:立地への投資は、需要の前提が変わると回収できない
顧客獲得コストを下げるには「ストック>フロー」を意識しようで、私たちは、一度作れば効き続けるストック型の資産と、止めれば消えるフロー型の施策を分けて考えるという考え方を書きました。店舗はストック型の代表です。
ただし、店舗がストックとして効き続けるには、前提があります。そこに来る理由が残っていることです。餃子の雪松の店舗は、商品1種類と立地だけで成立していました。商品が選ばれる理由が弱まると、店舗に残る資産は立地だけになります。しかも、その立地は借りているものです。
同記事では、ストック型の施策は効果が出るまで時間がかかるとも書きました。逆に言えば、短期間で大量に作ったものは、積み上げというより在庫に近い性質を持ちます。3年で400店を超える速度で出したものが、同じ速度で減っていったのは、その表れとも読めます。店舗を出す速度が上がるほど、1店あたりの回収期間をどう見積もるかが重くなります。
この事例から考えられること
1. 需要の前提が、複数の要因で変わっている
この事例では、コロナ禍の収束、競合の参入、味の嗜好の変化という、前提が変わる要因が同時に動きました。投資を判断する前に、前提が変わる要因をどこまで挙げられるかが問われます。
2. 出店の速度と、1店あたりの回収は別に動く
出店の速度が上がっても、1店あたりの回収の計算は変わりません。総店舗数の伸びが、1店あたりの数字を覆い隠しうるという読み方ができます。
3. 商品1種類の業態は、その1種類に結果が集まる
絞り込んだ業態では、その商品が選ばれなくなったときの余地が小さくなります。絞ることの効果と、その裏側が同時に現れた事例です。
5. 同じ店舗網の上に、次の商品を乗せる
株式会社YESは2023年から、雪松の無人販売所の中や全国のイオングループの店舗に、冷凍ラーメンブランド「日本ラーメン科学研究所」の自動販売機を設置する事業を始めました。商品は2食入り1,000円の冷凍ラーメンで、「醤油の黄金比」「豚骨の黄金比」「味噌の黄金比」「魚介だし醤油の黄金比」の4種類です。
2023年1月から5月の累計で販売数は100万食を超え、同年6月時点で291店、8月末から9月時点では沖縄県を除く46都道府県の468店に広がっています。自社の店舗網に加えて、イオンディライトを通じたイオングループの店舗にも自動販売機を設置しました。
餃子の店舗数がピークを迎えた時期と、冷凍ラーメンの展開が始まった時期は重なっています。餃子1品での出店を続けるフェーズから、既にある店舗網の上に別の商品を重ねるフェーズへ、戦略が切り替わった局面と読めます。
新しい業態を新しい店舗で立ち上げるのではなく、既にある店舗網の上に商品を重ねる形です。立地と補充の仕組みが固定費として残る以上、その固定費で回収できる商品を増やすという発想になります。
なお、株式会社YESは餃子と冷凍ラーメン以外にも、完全個室のシミュレーションゴルフ「G-GOLF」(2021年10月に1号店)、「もつ煮込みみつ子」(2021年12月に1号店)などを展開しています。
この事例から考えられること
1. 既存の拠点に、もう1つの商品を乗せている
新しい場所を借りるのではなく、いまある店舗網の稼働を上げる方向です。投資の重さが違ってきます。
2. 固定費が、商品数によらず同じようにかかっている
立地と補充の人件費は、商品が1つでも2つでも同じようにかかります。固定費あたりの売上という見方が成り立つ構造です。
3. 餃子は1種類のまま、店舗網には別の商品を乗せている
餃子そのものは1種類のままで、店舗網に別の商品を乗せました。餃子の味を変えないという方針と、売上を増やすという方針を、この分け方で両立させています。
6. ローカルグローススタジオの視点
冒頭に挙げた6つの観点を、本文で確認した事実で説明し直します。
1. 店を継がず、レシピだけを別法人で引き受けている
本店は群馬・水上に残したまま、レシピを甥が東京の別法人で引き受けました。店舗も従業員も引き継がず、製法だけを移した形です。後継者が不在で廃業しか選択肢がないと見える場面でも、移せるものだけを移す方法があります。
2. 業態を削ぎ落とし、商品と立地だけで売上を立てている
商品1種類、24時間無人、料金箱という、接客も調理も在庫管理も持たない業態にしたことで、飲食業の経験がない会社でも運営できました。技術で解ける部分も、あえて解いていません。
3. 直営を選んだことで、拡大も撤退も本部に集中している
加盟の申し出はすべて断り、全店を直営で運営しました。月30店の出店速度を本部が握れる代わりに、需要が縮んだときの撤退判断も本部に集中します。
4. 急拡大した業態が、前提の変化で同じ速さで縮んでいる
2023年2月に432店だった店舗数は、2024年11月に219店、2026年9月時点の公式サイト掲載は91店です。商品1種類の業態は、その商品が選ばれなくなったときに調整する手段を持ちません。
5. 承継の目的が「味を残すこと」に置かれている
「変えたら雪松ではなくなってしまいますからね」という言葉のとおり、商品への要望はすべて断ってきました。事業を大きくすることと、味を残すことは、別の目的です。この事例では後者が優先されています。ただし、変えないという判断が、需要の変化に対応しにくい構造も同時に作りました。
6. 拡大と縮小が、同じ事例の中で起きている
400店を超えるまでの速度と、その後の縮小は、同じ業態設計から出た結果です。設備投資が軽いから速く出せて、軽いから他社も速く出せました。商品が1種類だから運営が簡単で、1種類だから需要が変わったときに手がありませんでした。成功の理由と縮小の理由が、同じ場所にあります。うまくいった期間だけでなく、その後まで含めて見ることで、見え方が変わる事例です。
そして、この事例の中心にある「味を残す」という目的そのものは、店舗数の増減とは別のことです。3代目が「これなら全く一緒だよ」と認めた餃子は、いまも作られています。事業の規模と承継の成否は、分けて見る必要があります。
本事例から見える経営とマーケティングの学び
餃子の雪松の物語は、後継者が不在になった地方の中華食堂のレシピを、飲食業の経験がない甥が別法人で引き受け、無人販売という業態で全国へ広げ、その後に縮小の局面へ入った事例として読めます。重要なのは、店舗も従業員も屋号も引き継がず、レシピという移せるものだけを移したことです。廃業しか選択肢がないように見える場面でも、事業を分解すれば残せる部分があります。
同時に、この事例は業態を絞ることの両面を示しています。商品1種類、無人、直営という割り切りが出店の速度を作り、その同じ構造が、需要が変わったときの調整の手段を奪いました。ブランドやリソースが薄い状態から成長を作る経営者にとって、雪松の歩みは「何を残し、何を捨てるか」を考えるための学びになります。
「ビジネス知の機会格差をなくす」という私たちのミッションに向けて、これからも実践的で価値ある情報を発信していきます。この記事の内容について、さらに詳しく知りたい方は、ぜひご連絡ください。

執筆者 : 佐久間 一己 (さくま かずき)
つなぐスタジオ株式会社 代表取締役社長 / ローカルグローススタジオ Director
リクルート営業マネージャーを経て、福井県小浜市で道の駅・古民家ホテルの集客支援と行政の産業6次化に4年携わり、その後ユーザベースFORCAS(現Speeda)カスタマーサクセスマネージャー、スタートアップ執行役員、フィンテック事業責任者を務め、2025年に地方企業向けのマーケティング代理店を設立。BtoB事業でWEBメディアを立ち上げオーガニック流入を3か月で20倍に伸ばすなど、知名度や予算が限られる時期に効くマーケティングと採用の手法を、地方企業の規模に合わせて伴走します。


