先進企業に学ぶ(地域連携編) – NPO法人グリーンバレー(徳島県神山町)|過疎を止めるのではなく受け入れ、来てほしい職種を逆指名した

ローカルグローススタジオは、『地方企業にスタートアップのような成長を』というテーマで、コンテンツ発信と支援サービスを展開しています。この記事では、実践的なビジネスノウハウを、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。

今回取り上げるのは、徳島県名西郡神山町のNPO法人グリーンバレーです。アーティストを招く事業から始まり、移住してくる職種を町の側から指定する「ワーク・イン・レジデンス」、サテライトオフィスの誘致へと広がりました。「創造的過疎」という言葉でも知られています。

この記事は、地域の複数の担い手が組んで成果を出した事例を扱う「地域連携編」の1本です。誰が最初に動き、参加する側の取り分をどう設計し、続ける仕組みをどこに置いたかという観点で、1社では成立しない取り組みがどうやって回るようになったのかを読み解きます。

この記事の要約

先にストーリーの全体像です。始まりは1990年、地元の神領小学校の廊下に置かれていた人形でした。1927年にアメリカから日本の小学校へ贈られた1万2,739体の「青い目の人形」の1つです。大南信也氏はこの人形を送り主のもとへ返す計画を立て、1991年に「アリス里帰り推進委員会」を作り、仲間およそ30名で訪米します。ここから神山町国際交流協会が生まれ、後のグリーンバレーにつながりました。2004年にNPO法人となります。同じ2004年から2005年にかけて、神山町の全域に光ファイバー網が敷かれました。この条件があったことで、2010年代のサテライトオフィス誘致が成り立ちます。もう1つの仕組みが「ワーク・イン・レジデンス」です。移住者を待つのではなく、町に足りない職種を指定して募集する形で、カフェやベーカリー、歯科医、靴屋などが生まれました。2023年4月には神山まるごと高等専門学校が開校しています。一方で、神山町の総人口は1955年の2万502人から2026年9月時点の4,542人まで、一貫して減り続けています。

このストーリーから持ち帰れる観点は、次の7つです。それぞれ本文の章で事実を確認し、最後の7章で説明し直します。

1. 起点が、小学校の廊下に置かれていた人形だった(1章)

2. 条件で競うのではなく、雰囲気を作ると決めている(1章)

3. 過疎を止めるのではなく、受け入れることから始めている(2章)

4. 移住してくる職種を、町の側から指定している(3章)

5. 光ファイバー網という前提条件が、先にあった(4章)

6. 法人の形を分けて、並走させている(5章)

7. 社会動態がプラスの年はあるが、総人口は減り続けている(6章)

各章の末尾に、ローカルグローススタジオの分析と「この事例から考えられること」をまとめています。

参考資料一覧

数字で見る神山町とグリーンバレー

時点数字出典
1927年アメリカから日本の小学校へ「青い目の人形」1万2,739体が贈られるWirelessWire News
1990年大南信也氏が神領小学校で人形と出会うWirelessWire News
1991年「アリス里帰り推進委員会」発足。仲間およそ30名で訪米WirelessWire News
昭和30年度末(1955年)神山町の人口 2万502人、3,772世帯神山町公式
平成17年度末(2005年)神山町の人口 7,395人、2,700世帯神山町公式
2004年NPO法人グリーンバレー 設立。神山町全域への光ファイバー網の整備が進む公式、WirelessWire News
平成23年度(2011年度)転入151人・転出139人で社会動態プラス12人。町として初の社会増総務省提出資料
2016年3月時点高齢化率47%徳島県公式インタビュー
令和元年度末(2020年3月)神山町の人口 5,173人、2,455世帯神山町公式
2021年度以降高齢化率50%超神山町「過疎地域持続的発展計画」
2018年5月26日通常総会で理事長が大南信也氏から中山竜二氏へ交代イン神山 日記帳
2023年4月神山まるごと高等専門学校が開校公表資料
令和6年度末(2025年3月)神山町の人口 4,594人。第2期人口ビジョンの目標「2025年4,663人」を69人下回る神山町公式
令和7年度(2025年度)転入169人・転出128人で社会動態プラス41人。一方、出生9人・死亡116人で自然動態マイナス107人。年間はマイナス65人神山町公式
2026年9月1日時点神山町の人口 4,542人(日本人4,458人・外国人84人)、2,443世帯神山町公式

数字の読み方を、先に3点断っておきます。1つは、人口です。神山町の総人口は1955年から現在まで一貫して減り続けています。転入が転出を上回った年度は複数ありますが、高齢化にともなう死亡が出生を大きく上回るため、総人口が前年より増えた年度はありません。この記事では、社会動態と自然動態を分けて書いています。2つ目は、サテライトオフィスの社数です。2012年に9社、2017年から2018年に16社、2019年に10社と、資料によって増減があります。累計の誘致数か、その時点で残っている拠点かによっても変わります。この記事では、時点を添えた数字だけを使います。3つ目は、理事長です。2018年5月の総会で大南信也氏から中山竜二氏へ交代したことは確認できましたが、2026年時点の現職を示す資料は今回の調査では確認できませんでした。

1. 小学校の廊下にあった人形から

1927年に贈られた人形が、廊下に置かれていた

グリーンバレーの活動は、地域振興の計画からは始まっていません。始まりは1つの人形でした。

「1979年に神山町で家業の建設会社を継ぐために留学から戻った大南氏。そんな同氏が、後に気心の知れた仲間たちとグリーンバレーを立ち上げる伏線となる出来事が起きたのは、いまを遡ること約30年前、1990年のことだ。当時、地元の神領小学校の廊下にポツンと置いてあった外国人の女子の人形との出会いが始まりだった」

この人形の背景も説明されています。

「この人形は、1927年に米国から日本の小学校に贈られた12,739体の『青い目の人形』の1つだった。世界大恐慌が始まる少し前に、米国で日本移民の排斥運動が起き、日米関係は悪化の一途をたどっていた。それに心を痛めた親日家の宣教師が親善の証に、この人形を日本に送ろうと呼び掛けて実現したものだ」

大南氏は、この人形を送り主のもとへ返す計画を立てます。

「この経緯を知った大南氏は、人形の里帰り計画を練った。人形に付帯してあった送り主のパスポートを手掛かりに、米国の親族までたどり着いた。そこで1991年に『アリス里帰り推進委員会』を立ち上げ、仲間ら30名の訪問団と人形を返しに行ったという」

この委員会が、後の組織の元になりました。

「戦前にアメリカから神山の小学校に送られた青い目の人形の『アリス』を送り主に届ける、いわゆる”里帰り”させたのがきっかけで、神山は世界に目を向けた地域づくりに舵をきり、神山町国際交流協会が発足します。これがグリーンバレーの前身です」

条件で競わないと決めている

なぜアートだったのかについても、説明が残っています。

「補助金などの支援策で人をまちに呼び込もうとすると失敗してしまうでしょう。なぜなら、移住希望者は各自治体で提示される”条件”で選んでしまうから。条件に惹かれて移住してきたとしても、それがまちの力になるかといったらそうではない。”まちの空気が好き””まちと相性がいい”と言ってもらえるようなまちの雰囲気づくりが大切。アートはその雰囲気づくりの力を持っていると思いました」

補助金の額で競う道を、意図して外しています。条件で選ばれた人は条件で去る、という見立てです。代わりに置いたのが「雰囲気」でした。

ローカルグローススタジオの分析:何で選ばれたいかを、先に決めている

私たちは間違ってはいけない戦略の順番|ビジョン→事業→商品→営業→組織という記事で、戦略には順番があり、「何のために事業をやるか」が先に決まっていれば、その下の判断(何を売るか、どう売るか)が決まりやすいと書きました。

グリーンバレーを読み解くと、最初に決められたのは「条件ではなく相性で選ばれる町にする」ことで、私たちが記事に書いた順番と同じ考えが表れています。この「何のために」が決まっていると、補助金を増やすという打ち手は後に回ります。代わりにアート、そして後の章で見る職種の指定という打ち手が出てきます。

同記事では、「何のために」が決まっていないと、その下の判断が場当たりになると書きました。移住の施策は、条件を競う方向に流れやすい領域です。他の自治体が支援金を出せば、こちらも出す形になります。神山町の事例で特徴的なのは、その競争を最初から外していることです。何で選ばれたいかを先に決めたことが、施策の並びを変えているように読めます。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 自地域の取り組みが、何をきっかけに始まったかを説明できるか
  • 条件の額で競う道に、乗っていないか
  • 条件で来た人が、条件で去る可能性を考えているか
  • 選ばれたい理由を、言葉にできているか
  • 最初の動きが、計画からではなく個人の関心から始まっていないか

事例から読み取れること

1. 起点が、小学校の廊下に置かれていた人形だった

地域振興の計画ではなく、1990年に見つけた1体の人形から始まっています。1991年の訪米が、後の組織につながりました。

2. 条件で競うのではなく、雰囲気を作ると決めている

「移住希望者は各自治体で提示される”条件”で選んでしまう」という見立てから、補助金で競う道を外しています。

3. 「何のために」の判断が、施策の並びを決めている

条件ではなく相性で選ばれるという目的があるため、打ち手がアートや職種の指定という形になっています。

2. 「創造的過疎」という言葉

過疎を止めるのではなく、受け入れる

グリーンバレーの活動を説明するときに使われるのが「創造的過疎」という言葉です。大南氏が総務省へ提出した資料には、次のように定義されています。

「【1】創造的過疎とは? 過疎化の現状を受け入れ、外部から若者やクリエイティブな人材を誘致することによって『人口構成の健全化』を図るとともに、多様な働き方が可能な『ビジネスの場』としての価値を高め、農林業だけに頼らない、バランスの取れた、持続可能な地域を目指す」

最初に来るのが「過疎化の現状を受け入れ」です。人口を元に戻すことを目標にしていません。目標として置かれているのは、人口の構成と、働く場としての価値です。

インタビューでも、同じ考え方が説明されています。

「徳島県東部の中山間地域に位置する神山町は、ほかの地域と同じく過疎化・少子高齢化が進んでいます。2004年に町内全域に光ファイバー網を整備したことをきっかけに注目を集めた結果”ITのまち”という先進的なイメージが強い神山町ですが、それでも高齢化率は47パーセント。『二人に一人は高齢者である』という厳しい現実があります。地方における問題点は『若者が故郷へ帰ってくることができない』に始まり『移住者を呼び込むことができない』や『地域を担う後継人材が育たない』という点が挙げられますが、まずはこの現状を直視して受け入れるところから始めるべきだと考えています。特定非営利活動法人(NPO)グリーンバレーが設立されてから10年以上が経過した今、私たちは農林業のみに頼らない”創造的過疎”をキーワードに、持続可能な地域づくりの第二段階に入りました」

先進的なイメージがある一方で高齢化率は47%だと、自分から書いています。

ビジョンとして掲げられている3つ

公式サイトには、ビジョンが3つ並んでいます。

「ビジョン ・『人』をコンテンツにしたクリエイティブな田舎づくり ・多様な人の知恵が融合する場『せかいのかみやま』づくり ・『創造的過疎』による持続可能な地域づくり」

3つのうち2つに「人」が入っています。産業でも施設でもなく、誰が来るかを中心にした書き方です。

なお、「創造的過疎」という言葉がいつ最初に使われたかについては、今回の調査で年を特定できる資料を確認できませんでした。この記事では、初出の年を書いていません。

ローカルグローススタジオの分析:達成できない目標を、目標から外している

私たちはターゲットと便益を5-10パターンに整理するという記事で、同じサービスでも相手によって得られる価値が違うため、誰に、何を、どんな独自性で届けるかを相手ごとに整理するという考え方を書きました。

「創造的過疎」の定義で目を引くのは、人口を増やすことが目標に入っていない点です。代わりに「人口構成の健全化」と「ビジネスの場としての価値」が置かれています。

同じ記事では、相手ごとに価値を言葉にすると、訴求や施策を出し分けられるとも書きました。この事例では、目標の置き方が相手を決めています。人口全体を増やすことが目標であれば、相手はすべての移住希望者になります。人口構成を変えることが目標なら、相手は若い世代とクリエイティブな職種の人に絞られます。次の章で見る職種の指定は、この絞り込みから出てくる打ち手です。

同時に、この目標の置き方には注意も要ります。人口が減り続けていても、目標には反しないことになります。6章で見るとおり、実際に総人口は減り続けています。何を目標から外すかは、何を成果と呼ぶかを決めることでもあります。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 達成が難しい目標を、目標から外す判断をしたことがあるか
  • 代わりに置いた目標が、打ち手を絞れているか
  • 自地域や自社の厳しい数字を、自分から出しているか
  • 掲げているビジョンに、誰が来るかが入っているか
  • 目標から外したものが、成果の見え方をどう変えるかを把握しているか

事例から読み取れること

1. 過疎を止めるのではなく、受け入れることから始めている

定義の最初が「過疎化の現状を受け入れ」です。人口を元に戻すことは目標に入っていません。

2. 目標が、人口の量ではなく構成に置かれている

「人口構成の健全化」と「ビジネスの場としての価値」が目標です。相手が絞られる形になっています。

3. 厳しい数字を、自分から出している

「先進的なイメージが強い」と書いたうえで、高齢化率47%という数字を自分で並べています。

3. 移住してくる職種を、指定する

「逆指名」という仕組み

グリーンバレーの取り組みで特徴的なのが「ワーク・イン・レジデンス」です。移住してくる人を待つのではなく、町に必要な職種を指定して募集します。

「特定の物件についてですが、将来まちにとって必要な働き手を呼び込むために、”逆指名権”をグリーンバレーが持ちます。例えば、”神山でIT企業を起こしませんか?””パン屋を開業する人はいませんか?”と、特定の職種を逆指名するんです」

物件ごとに、来てほしい職種が決まっている形です。

双方に取り分がある形として説明されている

この仕組みの意味も、本人から説明されています。

「一言でいえば、神山町の将来にとって必要と思われる業種・職種の働き手を『逆指名』するというシステムになります。地域に足りない業種や職種の人を募集すれば、移住してくる人、受け入れる地域の人、どちらにもメリットがあるでしょう。町に足りない職能を持つ人を呼び込むことで、能動的に地域のデザインをすることができるわけです。この試みからカフェやベーカリー、歯科医や靴屋などが誕生したおかげで、地域にも活気が出てきたと感じています」

移住する側にとっての利点は、競合が少ない場所で開業できることです。町の側にとっての利点は、足りない機能が埋まることです。どちらにもメリットがあると、明示されています。

生まれた業種として、カフェ、ベーカリー、歯科医、靴屋が挙げられています。

ローカルグローススタジオの分析:参加する側の取り分が、先に見えている

私たちは前の章でも触れたターゲットと便益の記事で、相手ごとに価値を言葉にすることについて書きました。

移住の施策では、来てもらうこと自体が目的になりやすい領域です。この事例では、来た人が何で食べていくかが先に設計されています。パン屋がいない町にパン屋として来れば、競合はいません。歯科医も同じです。

同じ記事では、相手ごとに価値を言葉にすると、訴求や施策を出し分けられるとも書きました。逆指名の仕組みは、町の側の必要と、来る側の商売の成立を同じ場所で満たしています。地域の連携が続かなくなる理由の多くは、参加する側の取り分が見えないことにあります。この仕組みでは、取り分が「その職種の需要を独り占めできる状態」として、来る前から見えています。

一方で、この形は募集する側に判断が求められます。何が足りないかを決めるのは町の側です。決め方が公開されている資料は、今回の調査では見つかりませんでした。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 来てほしい人の職種を、こちらから指定できているか
  • 来た人が何で食べていくかを、先に設計しているか
  • 参加する側の取り分が、来る前から見えているか
  • 足りない機能を、把握できているか
  • 誰がその判断をするかが、決まっているか

事例から読み取れること

1. 移住してくる職種を、町の側から指定している

物件ごとに「パン屋を開業する人はいませんか?」といった形で募集します。待つ形ではありません。

2. 双方に取り分がある形として説明されている

移住する側は競合の少ない場所で開業でき、町の側は足りない機能が埋まります。両方が明示されています。

3. 実際に、複数の業種が生まれている

カフェ、ベーカリー、歯科医、靴屋が例として挙げられています。

4. 光ファイバーと、サテライトオフィス

前提条件が、先にあった

神山町がサテライトオフィスの誘致で知られるようになった背景には、通信の環境があります。

「その少し前の2005年9月に、神山町全域に光ファイバー網が敷設されることになり、これをチャンスと捉えた大南氏は、神山町のアートプログラムを発信するWebサイト『イン神山』を作る計画を練っていたという」

この条件がどう効いたかも語られています。

「ネットインフラは万全の状態で整えています。神山では、全世帯高速光通信が使用でき、しかも都会みたいに回線が混雑することもない。”こんな山のなかで光通信が使えるの!?”というプラスの意外性は感動につながるんです」

回線が混雑しないという点まで、価値として説明されています。人が少ないことが、この文脈では不利ではありません。

進出する側の理由

企業の側の理由も、公表されています。

「サテライトオフィス設立のきっかけは『事業継続計画』です。東京に一極集中する放送事業関係者がリスク管理のために取り組んでおり、東日本大震災により、業界全体の危機感は一層増しました。(中略)そのため、2008年ごろから、東京から離れた場所にオフィスを構えられないかと場所探しを始めていました」

地方への貢献ではなく、自社の事業継続が理由として挙げられています。町の側の狙いと、企業の側の理由が別だったことになります。

サテライトオフィスの社数は、資料によって異なります。2012年に9社、2017年から2018年に16社、2019年に10社という数字が見られます。累計の誘致数か、その時点で残っている拠点かによっても変わるため、この記事では時点を添えています。

ローカルグローススタジオの分析:環境が、相手にとっての加算になっている

私たちはマネジメントとは、今のリソースでやりくりすること、リソース調達力を上げること。バフ人材とデバフ人材を見極める。という記事で、地方が人を引きつけるには報酬や条件だけでなく、地方ならではの魅力とビジョンを言葉にして伝え続けることが要ると書きました。

神山町の場合、光ファイバー網という条件が先にありました。この条件は、グリーンバレーが作ったものではありません。町全域の整備という別の動きです。ただ、その条件があったことで、後の誘致が成り立っています。

同じ記事では、ビジョンを一貫して発信し続けることで共感する人が集まるとも書きました。2005年の整備から、サテライトオフィスの誘致が広く知られるまでには数年があります。その間に、アートの事業と、ウェブサイトによる発信と、逆指名の仕組みが動いていました。条件だけがあっても、それを伝える側の動きがなければ効いてこない、という順序が読み取れます。

一方で、進出した企業の理由は事業継続計画でした。町の側が用意した条件と、企業の側の理由は、必ずしも同じではありません。連携が成立するときに、双方の理由が一致している必要はない、という点も見えます。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 自地域にすでにある条件を、把握できているか
  • その条件が、誰にとっての加算になるかを言えるか
  • 条件を使う側の動きが、あるか
  • 相手が来る理由と、こちらの狙いが違っていないか
  • 数字を出すときに、累計と現存を分けているか

事例から読み取れること

1. 光ファイバー網という前提条件が、先にあった

2005年に町全域への整備が進み、その条件の上で後の誘致が成り立っています。

2. 人が少ないことが、この文脈では不利になっていない

「回線が混雑することもない」という点が、価値として説明されています。

3. 進出する側の理由が、地域貢献ではなかった

事業継続計画が理由として挙げられています。双方の理由が違っていても、連携は成立しています。

5. 法人の形を分けて、並走させる

NPOから始まり、法人が増えていった

グリーンバレーは、1991年の委員会から始まり、神山町国際交流協会を経て、2004年にNPO法人となりました。

その後、町の中には別の法人も生まれています。神山つなぐ公社は、神山町と住民主導の実行組織として設立された一般社団法人です。フードハブ・プロジェクトは、神山町、神山つなぐ公社、株式会社モノサスの3者が共同で出資した会社です。2023年4月には、神山まるごと高等専門学校が開校しました。

グリーンバレーがすべての出資者になっているわけではありません。それぞれの取り組みに、それぞれの法人の形と出資者があります。

理事長は交代している

グリーンバレー自身の運営も変わっています。2018年5月26日の通常総会で、設立期から長く理事長を務めた大南信也氏が退任し、中山竜二氏が新しい理事長になりました。

「今月5/26(土)は、グリーンバレーの通常総会でした。2004年にNPO法人化されてから14年、1991年の『アリス里帰り推進委員会』発足まで遡れば、27年にわたる活動を常にリードしてきた大南さんが、前年度をもって理事長を退任されました。新理事長には、中山竜二さん(粟カフェ代表)が就任されました」

なお、2026年時点で誰が理事長かを示す資料は、今回の調査では確認できませんでした。

「日本初」という表現について

グリーンバレーや関連する取り組みの説明には、「日本初」を冠する記述が複数見られます。道路の清掃を住民が担う仕組みの導入や、高専の奨学金の仕組みなどです。

これらはいずれも当事者による説明であり、第三者が検証した認定ではありません。この記事では、そうした表現を使っていません。

ローカルグローススタジオの分析:続ける場が、複数に分かれている

私たちは顧客獲得コストを下げるには「ストック>フロー」を意識しようという記事で、広告のように止めれば効果が消えるフロー型と、一度作れば効き続けるストック型を分けて考えるという考え方を書きました。

神山町の場合、積み上げたものが1つの組織に集まっていません。NPO、一般社団法人、株式会社、学校法人と、形の違う法人が並んでいます。それぞれ、できることと資金の入り方が違います。

同じ記事では、ストック型は一度作れば効き続けるとも書きました。この事例では、積み上げそのものが分散して置かれています。1つの法人がすべてを担うと、その法人の状況で全体が止まります。形を分けておくと、片方が止まってももう片方が動きます。

一方で、分かれていることは調整の手間が増えることでもあります。出資関係も一様ではありません。この事例では、どの取り組みがどの法人のものかが、それぞれ違っています。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 地域の取り組みが、1つの組織に集まりすぎていないか
  • 取り組みごとに、適した法人の形を選べているか
  • 出資や資金の入り方を、取り組みごとに把握しているか
  • 中心人物が代わっても、続く形になっているか
  • 「日本初」といった表現を、そのまま使っていないか

事例から読み取れること

1. 法人の形を分けて、並走させている

NPO、一般社団法人、株式会社、学校法人が町の中で並んでいます。出資関係もそれぞれ違います。

2. 中心人物の交代が、記録されている

2018年5月の総会で、27年にわたり活動をリードした大南信也氏が退任しました。

3. 「日本初」は、当事者による説明である

第三者が検証した認定ではありません。この記事では使っていません。

6. 人口の数字を、どう読むか

総人口は、一貫して減っている

神山町の人口は、住民基本台帳で確認できます。昭和30年度末(1955年)に2万502人、昭和55年度末(1980年)に1万1,773人、平成17年度末(2005年)に7,395人、令和元年度末(2020年3月)に5,173人、そして2026年9月1日時点で4,542人です。

一貫して減り続けており、総人口が前年より増えた年度はありません。

社会動態は、プラスの年がある

一方で、転入から転出を引いた社会動態には、プラスの年があります。

平成23年度(2011年度)は、転入151人・転出139人でプラス12人でした。町として初の社会増と、総務省へ提出された資料に記載されています。

令和7年度(2025年度)も、転入169人・転出128人でプラス41人です。ただし同じ年度の自然動態は、出生9人・死亡116人でマイナス107人でした。合わせると、年間でマイナス65人になります。

社会動態がプラスでも、自然動態のマイナスがそれを上回るため、総人口は減ります。この構造が、長く続いています。

目標との差もある

神山町の第2期人口ビジョン(2020年12月策定)では、2025年の目標人口が4,663人とされていました。実際の令和6年度末(2025年3月)の人口は4,594人で、69人下回っています。

高齢化率は、2016年3月の取材時点で47%、2021年度以降は50%を超えています。

ローカルグローススタジオの分析:成果の言い方を、数字に合わせる

私たちは2章でも触れたターゲットと便益の記事で、相手ごとに価値を整理することについて書きました。

神山町は、地方創生の成功例として紹介されることが多い地域です。その説明の根拠になっているのは、社会動態が転入超過に転じた年があること、減少のカーブが当初の見通しより緩やかになったこと、サテライトオフィスの誘致や高専の開校といった具体的な打ち手が実現したことです。

人口そのものが増えたという意味ではありません。実数を見ると、1955年から現在まで減り続けています。

この違いは、2章で見た「創造的過疎」という目標の置き方とつながっています。人口を増やすことを目標にしていないため、人口が減っていることは目標への未達を意味しません。ただし、外から「人口が増えた」と読まれると、実際とは違ってきます。何を目標に置いたかと、何が成果として語られるかを、分けて見る必要がある事例です。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 人口の数字を、社会動態と自然動態に分けて見ているか
  • 総人口と、その内訳を混同していないか
  • 目標として置いた数字と、実績を並べられるか
  • 成功例として語られる内容が、実数と一致しているか
  • 自分たちが目標にしていないことを、成果として語っていないか

事例から読み取れること

1. 社会動態がプラスの年はあるが、総人口は減り続けている

令和7年度は社会動態がプラス41人でしたが、自然動態がマイナス107人で、年間はマイナス65人です。

2. 目標人口との差もある

第2期人口ビジョンの2025年目標4,663人に対し、実績は4,594人で69人下回りました。

3. 成功例として語られる根拠は、人口増ではない

社会動態の転入超過、減少カーブの変化、具体的な打ち手の実現が根拠になっています。

7. ローカルグローススタジオの視点

冒頭に挙げた7つの観点を、本文で確認した事実で説明し直します。

1. 起点が、小学校の廊下に置かれていた人形だった

1990年、大南信也氏は神領小学校の廊下で「青い目の人形」を見つけました。1927年にアメリカから贈られた1万2,739体のうちの1つです。翌1991年、送り主のもとへ返すために委員会を作り、仲間およそ30名で訪米しました。

地域振興の計画から始まっていません。1人の関心と、それに乗った30人の動きが起点です。地域連携の事例として読むときに押さえておきたいのは、この順序です。

2. 条件で競うのではなく、雰囲気を作ると決めている

「移住希望者は各自治体で提示される”条件”で選んでしまう。条件に惹かれて移住してきたとしても、それがまちの力になるかといったらそうではない」という見立てが語られています。

補助金の額で競う道を、最初から外しています。何で選ばれたいかを先に決めたことが、その後の打ち手の並びを変えていると読めます。アートも、次に見る職種の指定も、この目的から出てきた手段です。

3. 過疎を止めるのではなく、受け入れることから始めている

「創造的過疎」の定義は「過疎化の現状を受け入れ」から始まります。目標として置かれているのは、人口の量ではなく「人口構成の健全化」と「ビジネスの場としての価値」です。

高齢化率47%という数字を、自分から並べる書き方もしています。この目標の置き方が、相手を若い世代とクリエイティブな職種の人に絞り込み、次の観点である逆指名につながっています。

4. 移住してくる職種を、町の側から指定している

「神山でIT企業を起こしませんか?」「パン屋を開業する人はいませんか?」という形で、物件ごとに来てほしい職種を指定します。実際に、カフェ、ベーカリー、歯科医、靴屋が生まれました。

この仕組みでは、参加する側の取り分が来る前から見えています。パン屋がいない町にパン屋として来れば、競合はいません。町の側は足りない機能が埋まります。「移住してくる人、受け入れる地域の人、どちらにもメリットがあるでしょう」と説明されているとおりです。

5. 光ファイバー網という前提条件が、先にあった

2005年、神山町の全域に光ファイバー網が敷かれました。グリーンバレーが作った条件ではありませんが、この上で後の誘致が成り立っています。「回線が混雑することもない」という点まで、価値として説明されています。

一方、進出した企業の理由は事業継続計画でした。町の側の狙いと、企業の側の理由は違っています。連携が成立するときに、双方の理由が一致している必要はない、という読み方ができます。

6. 法人の形を分けて、並走させている

NPO法人グリーンバレー、一般社団法人の神山つなぐ公社、3者が共同出資したフードハブ・プロジェクト、そして2023年開校の神山まるごと高等専門学校と、形の違う法人が町の中に並んでいます。

グリーンバレーがすべての出資者ではありません。1つの組織にすべてを集めない形は、片方が止まってももう片方が動く構造になります。同時に、調整の手間は増えます。2018年5月には、27年にわたり活動をリードした大南信也氏が理事長を退任しました。中心人物が代わっても続く形になっています。

7. 社会動態がプラスの年はあるが、総人口は減り続けている

神山町の人口は、1955年の2万502人から2026年9月時点の4,542人まで一貫して減っています。転入が転出を上回った年度は複数ありますが、自然動態のマイナスがそれを上回るため、総人口が増えた年度はありません。

令和7年度は社会動態がプラス41人、自然動態がマイナス107人で、合計マイナス65人でした。第2期人口ビジョンの2025年目標4,663人に対しても、実績は69人下回っています。成功例として語られる根拠は、社会動態の転入超過や具体的な打ち手の実現であり、人口そのものが増えたという意味ではありません。目標に置いたものと、外から語られる成果を分けて読む必要がある事例です。

本事例から見える経営とマーケティングの学び

グリーンバレーと神山町の物語は、1人の関心から始まった動きが、町の仕組みになった事例として読めます。順序をたどると、次の並びになります。

  • 1体の人形から訪米の委員会が生まれた
  • 条件で競わないと決めた
  • 過疎を受け入れる目標を置いた
  • 来てほしい職種を指定する仕組みを作った
  • 先にあった光ファイバー網の上で誘致が成り立った
  • 法人の形を分けて並走させた

上の分析で触れたとおり、この事例には4つの見方が重なっています。何で選ばれたいかを先に決めたこと、達成できない目標を目標から外したこと、参加する側の取り分が来る前から見えていること、そして続ける場が複数の法人に分かれていることです。

同時に、この事例は成果の言い方を数字に合わせて読む必要がある対象でもあります。総人口は減り続けており、社会動態がプラスの年があるだけです。サテライトオフィスの社数も資料によって増減し、「日本初」とされる事柄は当事者の説明にとどまります。地域の連携を読むときには、掲げた目標と、外から語られる成果と、実数の3つを分けて見る必要がある、という点も持ち帰れる部分です。

「ビジネス知の機会格差をなくす」という私たちのミッションに向けて、これからも実践的で価値ある情報を発信していきます。この記事の内容について、さらに詳しく知りたい方は、ぜひご連絡ください。