先進企業に学ぶ(起業編) – 株式会社雨風太陽|1万人を集めた雑誌の形を自分で否定し、岩手から上場まで進んだ

ローカルグローススタジオは、『地方企業にスタートアップのような成長を』というテーマで、コンテンツ発信と支援サービスを展開しています。この記事では、実践的なビジネスノウハウを、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。

今回取り上げるのは、岩手県花巻市の株式会社雨風太陽です。高橋博之氏が「東北食べる通信」から始め、産直アプリ「ポケットマルシェ」を運営し、2023年12月に東証グロース市場へ上場しました(証券コード5616)。掲げているミッションは「都市と地方をかきまぜる」です。

この記事は、地方でゼロから会社を作った事例を扱う「起業編」の1本です。何を見て始め、最初にお金を払ってくれる相手をどこに置き、その後どの順で資産を積んだかを、継ぐ会社も買う会社もない状態から事業を作った人の判断で読み解きます。

この記事の要約

先にストーリーの全体像です。高橋博之氏は岩手県議を経て、東日本大震災の後にNPO法人を立ち上げました。始めたのは「東北食べる通信」という、食材の付く月刊誌です。読者は2年半で1万人を超えます。ところが高橋氏は、その形では足りないと判断しました。雑誌はコストがかかり、紹介できる生産者の数にも限りがあるためです。次に始めたのが、生産者が自分で発信し、消費者と直接やり取りする産直アプリ「ポケットマルシェ」でした。運営会社が情報を出すのではなく、生産者が出すという設計です。2023年12月、東証グロース市場へ上場します。高橋氏は上場を目指して始めたわけではないと述べたうえで、「経済性と社会性は両立できる」ことを証明する場だと説明しました。業績は2023年12月期の売上高9億5,600万円・営業損失2億2,900万円から、2025年12月期は売上高10億2,700万円・営業損失700万円・経常利益2,000万円へと動いています。2026年12月期は、通期で営業利益2,500万円の見通しが示されました。

このストーリーから持ち帰れる観点は、次の7つです。それぞれ本文の章で事実を確認し、最後の7章で説明し直します。

1. 起点が、県議としての経験と震災の現場にある(1章)

2. 1万人を集めた雑誌の形を、自分で否定している(2章)

3. 生産者との関係を、足で作った数として説明している(2章)

4. 発信の主体を、運営会社ではなく生産者に置いている(3章)

5. 倉庫を持たない形が、急な需要増に効いている(3章)

6. 上場を目指して始めたわけではないと、明言している(4章)

7. 同じ期の業績が、参照する資料によって違う(5章)

各章の末尾に、ローカルグローススタジオの分析と「この事例から考えられること」をまとめています。

参考資料一覧

数字で見る雨風太陽

時点数字出典
2023年12月期(第9期)売上高9億5,600万円(前期比50.4%増)、営業損失2億2,900万円決算短信(2024年2月14日)
2023年9月30日現在従業員39名(臨時雇用者22名は外数)、平均年齢35.0歳上場申請時の有価証券報告書
2023年12月東証グロース市場へ上場(証券コード5616)上場会見の報道
2024年1月時点提携する生産者 7,900人STARTUP DB Media
2024年10月1日IBJと協働し、地方婚活支援「ちほ婚!」を開設PR TIMES
2024年12月期(第10期)売上高10億1,600万円、営業損失1億6,100万円決算短信(2025年2月14日)
2024年12月期(遡及修正後)売上高10億2,100万円、営業損失1億5,500万円決算短信(2026年2月13日)の比較欄
2025年12月期(第11期)売上高10億2,700万円(前期比0.6%増)、営業損失700万円、経常利益2,000万円、当期純損失400万円決算短信(2026年2月13日)
2025年12月31日現在従業員37名(臨時雇用者19名は外数)、平均年齢38.8歳、平均勤続年数3.5年、平均年間給与542万1,000円有価証券報告書 第11期
2025年12月31日現在資本金3億4,799万2,000円(前期は6億2,585万3,000円)有価証券報告書 第11期
2026年2月25日本店を花巻駅構内から花巻市仲町のHANAMAKI BASEへ移転有価証券報告書 第11期
2026年12月期 通期予想売上高10億9,400万円(前期比6.4%増)、営業利益2,500万円、経常利益2,800万円、当期純利益3,000万円決算短信(2026年2月13日)
2026年12月期 中間期売上高3億9,700万円(前年同期比2.1%減)、営業損失6,000万円中間決算短信(2026年8月14日)
2026年6月から8月時点ポケットマルシェのユーザー 約92万人2026年12月期第2四半期 決算説明資料

数字の読み方を、先に3点断っておきます。1つは、2024年12月期の業績です。2025年2月に開示された原本では売上高10億1,600万円・営業損失1億6,100万円ですが、2026年2月の決算短信では表示方法の変更が遡及して適用され、同じ期が10億2,100万円・営業損失1億5,500万円になっています。どちらも公式の数字で、どちらを見ているかによって値が変わります。2つ目は、従業員数です。有価証券報告書の就業人員は2025年12月末で37名、臨時雇用者19名は外数です。紹介記事で見かける「約66名」という数字は、この就業人員とは一致しません。3つ目は、高橋氏が岩手県議に当選した年です。上場申請時の資料では2005年3月、直近の有価証券報告書では2006年3月と、自社の開示資料の間でも表記が分かれています。この記事では年を断定していません。

1. 県議から、震災の現場へ

政治の側から見ていた課題

高橋博之氏は、起業の前に岩手県議を務めていました。当選した年については、自社の開示資料の間でも表記が分かれているため、この記事では年を書きません。

その後、東日本大震災が起きます。震災の現場から生まれたのがNPO法人であり、後の株式会社雨風太陽です。上場会見では、事業を続ける理由が次のように語られました。

「手をこまねいていると日本中のあらゆる場の可能性が萎んでしまい、続いていけない地域が出てしまう。それをなんとか回避したい」

地域が続かなくなることを避けたい、という言い方です。特定の産業や商品ではなく、場そのものが対象になっています。

「都市と地方をかきまぜる」

会社のミッションは、有価証券報告書にも書かれています。公式noteでは、その理由が説明されています。

「なぜ、かきまぜる必要があるのか? それは、シンプルに『これからもずっと、美味しいものを食べ続けたいから』であり、『都市と地方、双方がもっと豊かになれる』と信じているからです」

地方を助けるという一方向の言い方になっていません。都市と地方の双方が豊かになる、という形です。

高橋氏自身が書いた記事にも、同じ考え方が出ています。

「都市と地方はそれぞれに課題を抱え疲弊しているが、都市と地方をかきまぜることで、都市の人は生産現場で自然やコミュニティを満喫し、生産者は自分の農作物のファンを増やせるなど、双方の課題を解決する糸口を見つけることができる。それが現代社会の閉塞感を打ち破る道なのではないか」

都市の側にも課題があるという前提に立っています。この前提があることで、都市の人が地方に関わる理由が、支援ではなく自分のためになります。

ローカルグローススタジオの分析:最初に掲げた言葉が、事業の形を決めている

私たちは間違ってはいけない戦略の順番|ビジョン→事業→商品→営業→組織という記事で、戦略には順番があり、最初に「何のために事業をやるか」を決めるという考え方を書きました。

雨風太陽を読み解くと、最初に決まっているのは「都市と地方をかきまぜる」ことで、私たちが記事に書いた順番と同じ考えが表れています。雑誌も、産直アプリも、後に始まる婚活の事業も、この目的からの手段になっています。事業の種類は大きく違いますが、扱っている問いは1つのままです。

同記事では、「何のために」が決まっていれば、その下の判断が変わると書きました。この事例で注目したいのは、最初に掲げた言葉が「地方を助ける」ではなく「かきまぜる」だったことです。助けるという言葉であれば、事業の形は支援に寄ります。かきまぜるという言葉だと、双方が動く形になります。言葉の選び方が、その後に作れる事業の幅を変えている例として読めるかもしれません。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 自社のミッションが、一方向の助けになっていないか
  • 相手の側にも課題があるという前提を置けているか
  • その前提が、相手が動く理由になっているか
  • 掲げている言葉が、事業の幅を狭めていないか
  • 創業前の経験が、課題の見え方に影響していないか

事例から読み取れること

1. 起点が、県議としての経験と震災の現場にある

政治の側から地域を見ていた経験と、震災後の現場が、事業の出発点として語られています。市場の観察からではありません。

2. ミッションの言葉が、双方向になっている

「かきまぜる」という言葉で、都市と地方の両方が動く形が示されています。支援という言葉が使われていません。

3. 都市の側にも課題があるという前提を置いている

都市の人が地方に関わる理由が、支援ではなく自分の課題の解決として説明されています。

2. 1万人を集めた雑誌の形を、自分で否定した

「東北食べる通信」は2年半で1万人に届いた

最初に始めた事業は、食材の付く月刊誌「東北食べる通信」でした。読者は生産者の物語を読み、同時にその生産者が作った食材を受け取ります。最初にお金を払う相手は、都市に住む読者でした。

読者は2年半で1万人を超えます。数字としては伸びていました。ところが高橋氏は、その形を続ける選択をしていません。

「2年半で読者は1万人を突破したが、雑誌モデルはコストもかかり、紹介できる生産者の数にも限りがある。このスピードでは社会課題の解決には程遠い」

理由として挙げられているのは、コストと、紹介できる生産者の数の上限です。雑誌という形では、1号で扱える生産者が限られます。読者が増えても、関われる生産者の数は増えません。

目的から見たときに、手段の側の上限が問題になった、という説明です。

「足で稼いだ7,900人」

その後に始まったのが、産直アプリ「ポケットマルシェ」です。生産者が登録し、自分で商品を出し、消費者と直接やり取りします。

生産者の数について、高橋氏は次のように語っています。

「ただの7,900人ではない。日本中を行脚して、膝づめで対話して、繰り返し作業の現場を歩き、足で稼いだ7,900人だ。このネットワークが一番の強み」

2024年1月時点の数字です。数そのものではなく、その数がどう集まったかを強みとして説明しています。雑誌の時代から続く、現場を回る作業の積み重ねがここに含まれています。

ローカルグローススタジオの分析:積み上げたものが、次の会社へ引き継がれた

私たちは顧客獲得コストを下げるには「ストック>フロー」を意識しようという記事で、広告のように止めれば効果が消えるフロー型と、一度作れば効き続けるストック型を分けて考えるという考え方を書きました。

雨風太陽が積み上げてきたのは、生産者との関係です。雑誌の時代に現場を回って作った関係が、産直アプリの生産者ネットワークになりました。事業の形は変わりましたが、積み上げたものは引き継がれています。

同じ記事では、ストック型は積み上がるまで時間がかかる分、積み上がれば効き続けるとも書きました。この事例では、日本中を回り、対話し、現場を歩いた結果として集まった数だと本人が説明しています。数字だけを見れば同じ7,900でも、集め方によって次に何ができるかが変わる、という読み方ができます。

一方で、雑誌という事業の形そのものは残りませんでした。積み上げたものと、積み上げたものが入っていた事業の形を分けて考えたことが、次の事業へ移る判断を可能にしたとも読めます。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 伸びている事業の形に、上限が見えていないか
  • その上限が、目的の達成にとって問題になっていないか
  • 積み上げているものと、それが入っている事業の形を分けて考えられるか
  • 数字そのものではなく、その集まり方を説明できるか
  • 事業の形を変えるときに、積み上げたものを引き継げる形になっているか

事例から読み取れること

1. 1万人を集めた雑誌の形を、自分で否定している

読者が伸びている状態で、コストと生産者数の上限を理由に形を変えています。数字が悪化したことが理由ではありません。

2. 生産者との関係を、足で作った数として説明している

「日本中を行脚して、膝づめで対話して」という集め方が、そのまま強みの説明になっています。

3. 積み上げたものが、次の事業の形へ引き継がれている

雑誌の時代に作った生産者との関係が、産直アプリのネットワークになりました。事業の形が変わっても中身が残った形です。

3. 生産者が発信する仕組みと、倉庫を持たない形

発信の主体を、運営会社から生産者へ移した

ポケットマルシェの設計で特徴的なのが、誰が発信するかです。

「生産者と直接のやりとりできる点が他の食品系ECとの決定的な違いだ。例えば『枝豆の旬が2週間早まったけど、今年も美味しいよ』という情報は、我々(運営会社)ではなく生産者が送った方が、コンバージョンレート(購買転換率)は50倍近く高くなる」

同じ内容の情報でも、誰が言うかで結果が変わるという説明です。運営会社が「旬が早まりました」と伝えるのと、作っている本人が伝えるのとでは、受け取られ方が違います。

この設計は、運営側の手間を増やす面もあります。生産者一人ひとりが発信できる状態を作る必要があるためです。前の章で見た「足で稼いだ」という言い方は、この部分にも関わっています。

倉庫を持たない形

もう1つの特徴が、在庫を持たない構造です。商品は生産者から直接、消費者へ送られます。運営会社は物流センターを持ちません。

この形が効いた場面について、上場会見で説明がありました。

「物流センターを持つ倉庫モデルではありませんので、コロナ禍中、(中略)我々は受注の急増に対応ができた」

倉庫を持つ形であれば、処理できる量が設備の能力で決まります。倉庫を持たない形では、その制約がありません。急に注文が増えたときに、受け止められる幅が違ったという説明です。

一方で、この構造は在庫を自社で管理できないことも意味します。品質や配送のばらつきは、生産者ごとに変わります。何を持たないかを選ぶことは、何を制御できないかを選ぶことでもあります。

ローカルグローススタジオの分析:相手にとっての価値が、設計に表れている

私たちはターゲットと便益を5-10パターンに整理するという記事で、同じサービスでも相手によって得られる価値が違うため、誰に、何を、どんな独自性で届けるかを相手ごとに整理するという考え方を書きました。

ポケットマルシェには、相手が2種類います。生産者と、消費者です。生産者が自分で発信する設計は、両方に効いています。生産者にとっては自分のファンができることであり、消費者にとっては作っている本人から買えることです。

同じ記事では、相手にとっての価値を言葉にすることが、訴求や施策を決める出発点になるとも書きました。この事例では、その価値が購買転換率という数字にも表れています。作り手が発信したほうが結果が変わるという事実が、設計を裏づけている形です。ただし「50倍近く」という数字は本人の説明であり、算出の条件までは公開されていません。傾向として読める範囲にとどめておきます。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 自社の発信を、誰が出すのが最も効くかを考えたことがあるか
  • 取引先が自分で発信できる状態を、作れているか
  • 在庫や設備を持たない形を、検討したことがあるか
  • 持たないことで、何を制御できなくなるかを把握しているか
  • 数字で示された効果の、算出条件を確認しているか

事例から読み取れること

1. 発信の主体を、運営会社ではなく生産者に置いている

同じ情報でも、作っている本人が出したほうが結果が変わるという説明です。誰が言うかを設計に組み込んでいます。

2. 倉庫を持たない形が、急な需要増に効いている

処理できる量が設備の能力で決まらないため、受注の急増に対応できたと説明されています。

3. 持たないことの裏側も、あわせて見る必要がある

在庫を自社で管理しない形は、品質や配送のばらつきを自社で制御しにくいことも意味します。

4. 上場と、「経済性と社会性」

上場を目指して始めたわけではない

2023年12月、雨風太陽は東証グロース市場へ上場しました。上場会見での発言が残っています。

「最初から株式会社になって上場することを目指していたかといえば、答えはノーだ。その時々でベストな選択をしてここに辿り着いた」

NPO法人として始まり、株式会社になり、上場へ至った経緯が、事前の計画ではなかったと述べられています。

上場の意味づけについても、説明があります。

「経済性と社会性は両立できるということを、株主の皆さんやさまざまなステークホルダーの皆さんとともに証明をしていくのが、我々が今回上場する意味です」

上場した時点で、業績は赤字でした。2023年12月期は売上高9億5,600万円に対して営業損失2億2,900万円です。証明すると述べているのは、これからのことになります。

追いかける指標と、期間

短期に追う指標についても、説明がされています。

「これを追いかければ追いかけるほど地方と都市の分断は解消されていくので、短期的にはこれらの指標を追いかけていきます。2050年に日本の人口は1億人を切り、約2000万人が地方を中心にいなくなります。その時に、2000万人が都市と地方を往来している社会になっていたら、人口が減っても活力を維持できる。そんな持続可能な社会を目指していきたいと思っています」

2050年という時点を置き、そこから現在の指標を説明しています。短期に追う数字と、長期に置く状態が、同じ説明の中に並んでいます。

個人のファン株主を増やしたい

株主についての考え方も、公に述べられています。

「地域も会社も持続可能にしていく。ここに共感いただく個人株主に裾野広く支えて頂くことが大事だ。株主は基本的に選べないが、明確にこの指を掲げるほど、そうではない(理念に共感しない)人はこちらを向きにくくなる。丁寧に情報発信をしながら個人のファン株主を増やしていきたい」

株主は選べないという前提を認めたうえで、掲げる旗を明確にするほど、合わない相手が離れるという説明です。誰かを選ぶのではなく、選ばれ方を変えるという考え方になっています。

なお、2025年12月末時点の大株主は、PNB-INSPiRE Ethical Fund1投資事業有限責任組合が13.09%、小橋正次郎氏が12.13%(実質所有)、高橋博之氏が8.11%、大塚泰造氏が5.53%、株式会社丸井グループが5.50%です。

ローカルグローススタジオの分析:掲げることが、集まる相手を変える

私たちは前の章でも触れたターゲットと便益の記事で、相手ごとに価値を整理することについて書きました。上の分析で触れたとおり、雨風太陽には生産者と消費者という2種類の相手がいます。

株主についての発言は、この考え方が3番目の相手にも適用された例として読めます。株主を直接選ぶことはできませんが、掲げるものを明確にすることで、集まる相手が変わるという説明です。相手を絞るのではなく、絞られる状態を作る形になっています。

同じ記事では、相手ごとに価値を言葉にすると、訴求や施策を出し分けられるとも書きました。この事例では、打ち手として「丁寧に情報発信をしながら」という方法が挙げられています。掲げるだけでなく、伝え続けることが条件になっている点も読み取れます。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 上場や資金調達を、目的として見ているか、経緯として見ているか
  • 掲げているものが、集まる相手を変えているか
  • 短期に追う指標と、長期に置く状態を、分けて説明できるか
  • 相手を選べない場面で、選ばれ方を変える方法を考えたことがあるか
  • 掲げた内容を、伝え続ける手段を持っているか

事例から読み取れること

1. 上場を目指して始めたわけではないと、明言している

NPO法人から株式会社、上場へ至った経緯が、事前の計画ではなかったと述べられています。

2. 短期の指標と、2050年という時点が並べられている

追いかける指標の説明の中に、長期の社会像が入っています。時間軸が2つ示されています。

3. 株主については、選ぶのではなく選ばれ方を変えるという考え方をとっている

掲げる旗を明確にするほど、合わない相手が離れるという説明です。方法として、丁寧な情報発信が挙げられています。

5. 業績の数字を、どう読むか

赤字が縮み、営業損益が均衡に近づいた

上場後の業績を並べると、次のようになります。

2023年12月期は売上高9億5,600万円(前期比50.4%増)、営業損失2億2,900万円でした。2024年12月期は売上高10億1,600万円、営業損失1億6,100万円です。そして2025年12月期は売上高10億2,700万円(前期比0.6%増)、営業損失700万円、経常利益2,000万円、当期純損失400万円となりました。

売上高の伸びは2025年12月期で0.6%と小さくなっている一方、営業損失は2億2,900万円から700万円まで縮んでいます。売上を伸ばす局面から、損益を合わせる局面へ移った形が読み取れます。

2026年12月期の通期予想は、売上高10億9,400万円(前期比6.4%増)、営業利益2,500万円、経常利益2,800万円、当期純利益3,000万円です。営業利益の段階で黒字を見込む予想になっています。

ただし、同年の中間期(1月から6月)は売上高3億9,700万円(前年同期比2.1%減)、営業損失6,000万円でした。通期の予想に対して、前半は減収です。この事業には季節性がある可能性がありますが、今回の資料では確認できませんでした。

同じ期の数字が、資料によって違う

注意が必要な点があります。2024年12月期の業績は、参照する資料によって値が変わります。

2025年2月に開示された決算短信では、売上高10億1,600万円、営業損失1億6,100万円です。ところが2026年2月に開示された決算短信の比較欄では、同じ期が売上高10億2,100万円、営業損失1億5,500万円になっています。表示方法の変更が遡及して適用されたためです。

どちらも公式の数字であり、片方が誤りというわけではありません。いつ時点の開示を見ているかによって値が変わる、ということになります。

従業員数の数え方

従業員数の数え方も、資料によって分かれます。有価証券報告書の就業人員は、2025年12月末時点で37名です。臨時雇用者19名は外数として記載されています。上場申請時の2023年9月末時点では、就業人員39名、臨時雇用者22名でした。

紹介記事などで見かける「約66名」という数字は、この就業人員とは一致しません。最も近いのは、上場申請時の就業人員39名と臨時雇用者22名を足した61名です。数える範囲が違う数字が並んでいることになります。

平均年齢は38.8歳、平均勤続年数は3.5年、平均年間給与は542万1,000円です(2025年12月末時点)。

確認できなかった数字

今回の調査では、次の点を一次資料で確認できませんでした。

コロナ禍で登録ユーザーや生産者が急増したとされる2020年の具体的な数字は、今回参照したIR資料(2023年以降の開示が中心)からは確認できませんでした。販売手数料の料率が変更されたとする記述についても、一次資料を特定できていません。上場前に生産者へ株式を優先的に割り当てたとされる仕組みについても、対象人数や条件を示す資料は見つかりませんでした。この記事では、いずれも数字を書いていません。

ローカルグローススタジオの分析:開示が多い会社にも、読み方の手順が要る

私たちは2章でも触れたストックの記事で、一度作ったものが効き続けることを書きました。

雨風太陽は上場企業であり、決算短信も有価証券報告書も公開されています。数字の材料は多い会社です。それでも、同じ期の数字が資料によって違ったり、紹介記事の数字と開示の数字が一致しなかったりします。

開示が多いことと、数字が1つに定まることは別だ、という点がこの事例から読み取れます。読む側としては、どの資料の、いつ時点の数字かを添えて扱うことになります。この記事で数字に時点と出典を添えているのは、この理由によります。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 過去の期の数字が、後から修正されていないか
  • 修正がある場合、どちらを使うかを決めているか
  • 従業員数を、どの範囲で数えているかを明示しているか
  • 紹介記事の数字と、自社の開示が一致しているか
  • 数字に時点と出典を添えているか

事例から読み取れること

1. 同じ期の業績が、参照する資料によって違う

2024年12月期は、2025年2月開示と2026年2月開示で値が異なります。表示方法の変更が遡及して適用されたためです。

2. 従業員数の数え方が、資料によって違う

有価証券報告書の就業人員は37名から39名で、臨時雇用者は外数です。紹介記事の「約66名」とは範囲が違います。

3. 上場企業でも、確認できない数字がある

コロナ禍の急増を示す具体的な数字や、手数料の変更、生産者への株式割当の条件は、今回の調査では確認できませんでした。

6. 2026年の現在地

事業は広がっている

2024年10月、雨風太陽はIBJと協働し、地方の婚活を支援する結婚相談所「ちほ婚!」を開設しました。開設にあたっての説明が残っています。

「地方から都市への若者の流出に歯止めがかからず、大きな社会課題となっています。一方、ゆとりをなくした都市生活から、自然ゆたかで情緒あふれる地方の暮らしに魅せられ、移住し、結婚し、自分の得意なことを活かして地方の課題解決に貢献し、自分らしく幸せに生きている人たちもいます。…都市から地方への人流創出を促進させるべく、国内婚活事業最大手の株式会社IBJと連携し、地方婚活支援事業『ちほ婚!』をスタートし、弊社のミッション『都市と地方をかきまぜる』の実現を目指していきたいと思います」

食材の流通から、人の移動へと事業の対象が広がっています。ミッションから見れば、どちらも同じ目的の下にあります。

ポケットマルシェのユーザーは、2026年の第2四半期決算説明資料で約92万人とされています。自治体向けの取り組みに関する文脈で示された数字です。

体制と場所も変わっている

2025年1月、高橋博之氏が代表取締役社長、権藤裕樹氏が代表取締役副社長となる体制になりました。有価証券報告書の役員略歴から確認できます。

2026年2月25日には、本店を花巻駅構内から花巻市仲町のHANAMAKI BASEへ移しています。資本金も、2024年12月末の6億2,585万3,000円から、2025年12月末には3億4,799万2,000円になりました。

東アジアへの視線

高橋氏は、2018年に自身が書いた記事の中で、次のように述べています。

「先日、ある人から『早く行きたいなら一人で行け。遠くに行きたいならみんなで行け』という言葉を教えられた。私たちが目指す“生産者と消費者が連帯する社会”は、はるか彼方にあるように見える。だからこそ、同じ課題に向き合う仲間を東アジアにも増やし、ビジョンをともにする仲間たちと進んで行きたいと考えている」

国内の事業を進めながら、範囲を国外にも置いた発言です。この時点から現在までの間に、事業は上場を経て広がっています。

ローカルグローススタジオの分析:目的が同じなら、事業は入れ替えられる

私たちは1章でも触れた戦略の順番の記事で、「何のために」が決まっていればその下の判断が変わることを書きました。

雨風太陽の事業は、雑誌、産直アプリ、婚活と、見た目が大きく違います。それでも「都市と地方をかきまぜる」という目的から見れば、いずれも人と場所の関わりを増やす手段です。「何のために」が抽象的であることが、事業の幅を広げています。

一方で、抽象的な目的は、何をやってもよいことにもなりかねません。この事例で歯止めになっているのは、追いかける指標を短期で置いていることと、業績が公開されていることかもしれません。前の章で見たとおり、営業損失は縮んできています。目的の広さと、数字の厳しさが同時にある状態として読めます。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 見た目の違う事業が、同じ目的から説明できるか
  • 「何のために」が抽象的なとき、歯止めになるものがあるか
  • 短期に追う指標を、決めているか
  • 体制や拠点の変更を、記録に残しているか
  • 事業の範囲を、国内に限っているか

事例から読み取れること

1. 食材から人の移動へ、事業の対象が広がっている

2024年10月に地方婚活の事業が始まりました。ミッションから見れば同じ目的の下にあります。

2. 目的の広さと、数字の厳しさが同時にある

事業の幅が広がる一方で、営業損失は2億2,900万円から700万円へ縮んでいます。

3. 体制と拠点が、直近で変わっている

2025年1月に代表体制が変わり、2026年2月に本店が移転しています。資本金も減少しています。

7. ローカルグローススタジオの視点

冒頭に挙げた7つの観点を、本文で確認した事実で説明し直します。

1. 起点が、県議としての経験と震災の現場にある

高橋博之氏は岩手県議を経て、東日本大震災の後にNPO法人を立ち上げました。「手をこまねいていると日本中のあらゆる場の可能性が萎んでしまい、続いていけない地域が出てしまう」という言葉が、上場会見で語られています。

掲げられたミッションは「都市と地方をかきまぜる」です。地方を助けるという一方向の言葉ではありません。都市の側にも課題があるという前提が置かれているため、都市の人が地方に関わる理由が支援ではなく自分のためになります。言葉の選び方が、その後に作れる事業の幅を変えたと読めるかもしれません。

2. 1万人を集めた雑誌の形を、自分で否定している

「東北食べる通信」の読者は2年半で1万人を超えました。数字としては伸びている状態です。それでも「雑誌モデルはコストもかかり、紹介できる生産者の数にも限りがある。このスピードでは社会課題の解決には程遠い」として、形を変えています。

判断の材料になったのは、事業の悪化ではなく、目的から見たときの上限でした。手段の側に天井が見えたときに、手段を替えるという順序です。

3. 生産者との関係を、足で作った数として説明している

2024年1月時点の生産者は7,900人です。この数について「日本中を行脚して、膝づめで対話して、繰り返し作業の現場を歩き、足で稼いだ7,900人だ」と語られています。

雑誌の時代に作った関係が、産直アプリのネットワークになりました。事業の形は変わりましたが、積み上げたものは引き継がれています。積み上げたものと、それが入っていた事業の形を分けて考えたことが、事業を移す判断を可能にしたとも読めます。

4. 発信の主体を、運営会社ではなく生産者に置いている

「『枝豆の旬が2週間早まったけど、今年も美味しいよ』という情報は、我々(運営会社)ではなく生産者が送った方が、コンバージョンレート(購買転換率)は50倍近く高くなる」という説明です。

同じ内容でも、誰が言うかで結果が変わるという設計になっています。生産者にとっては自分のファンができ、消費者にとっては作っている本人から買える形です。なお「50倍近く」は本人の説明で、算出の条件は公開されていません。

5. 倉庫を持たない形が、急な需要増に効いている

商品は生産者から消費者へ直接送られ、運営会社は物流センターを持ちません。この形について「物流センターを持つ倉庫モデルではありませんので、コロナ禍中、我々は受注の急増に対応ができた」と説明されています。

処理できる量が設備の能力で決まらない形です。同時に、在庫を自社で管理しないため、品質や配送のばらつきを制御しにくいことも意味します。何を持たないかを選ぶことは、何を制御できないかを選ぶことでもある、という読み方ができます。

6. 上場を目指して始めたわけではないと、明言している

「最初から株式会社になって上場することを目指していたかといえば、答えはノーだ。その時々でベストな選択をしてここに辿り着いた」という発言が残っています。

上場の意味づけは「経済性と社会性は両立できるということを…証明していく」ことに置かれました。上場時点では赤字であり、証明はこれからのことになります。株主についても「掲げるほど、そうではない人はこちらを向きにくくなる」と述べ、選ぶのではなく選ばれ方を変えるという考え方が示されています。

7. 同じ期の業績が、参照する資料によって違う

2024年12月期は、2025年2月開示では売上高10億1,600万円・営業損失1億6,100万円、2026年2月開示の比較欄では10億2,100万円・営業損失1億5,500万円です。表示方法の変更が遡及して適用されたためで、どちらも公式の数字です。

従業員数も、有価証券報告書の就業人員は37名(臨時雇用者19名は外数)で、紹介記事の「約66名」とは範囲が違います。上場企業で開示の材料が多い会社でも、どの資料の、いつ時点の数字かを添えて扱う必要がある、という点が読み取れます。

本事例から見える経営とマーケティングの学び

雨風太陽の物語は、継ぐ会社も買う会社もない状態から、岩手に本社を置いて事業を作った事例として読めます。順序をたどると、次の並びになります。

  • 県議と震災の現場を起点にした
  • 雑誌で読者と生産者との関係を作った
  • その形の上限を理由に産直アプリへ移った
  • 生産者が自分で発信する設計と倉庫を持たない構造を組んだ
  • 上場を経て損益を合わせる局面へ入った
  • 食材から人の移動へ事業を広げた

上の分析で触れたとおり、この事例には3つの見方が重なっています。最初に掲げた言葉の選び方が事業の幅を決めたこと、積み上げと事業の形を分けて考えたことで事業を移せたこと、そして掲げることが集まる相手を変えるという考え方です。

同時に、この事例は数字の扱いに手順が要る対象でもあります。上場企業で開示は多い一方、同じ期の数字が資料によって違い、紹介記事の数字は開示と範囲が異なります。開示が多いことと、数字が1つに定まることは別だという点も、持ち帰れる部分です。

「ビジネス知の機会格差をなくす」という私たちのミッションに向けて、これからも実践的で価値ある情報を発信していきます。この記事の内容について、さらに詳しく知りたい方は、ぜひご連絡ください。