ローカルグローススタジオは、『地方企業にスタートアップのような成長を』というテーマで、コンテンツ発信と支援サービスを展開しています。この記事では、実践的なビジネスノウハウを、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。
今回取り上げるのは、熊本市の株式会社ライフスタイルアクセントが運営するアパレルブランド「ファクトリエ」です。代表の山田敏夫氏が2012年1月に設立し、国内の縫製工場と直接提携して、工場名を明かした商品をオンライン中心に販売しています。実家は熊本で100年続く洋品店です。
この記事は、地方でゼロから会社を作った事例を扱う「起業編」の1本です。何を見て始め、最初にお金を払ってくれる相手をどこに置き、その後どの順で資産を積んだかを、継ぐ会社も買う会社もない状態から事業を作った人の判断で読み解きます。
この記事の要約
先にストーリーの全体像です。山田敏夫氏は熊本の老舗洋品店に生まれ、20歳でフランスへ留学し、パリのGUCCI店でアルバイトをしました。そこで、日本のアパレルの国産比率の低さを知ります。帰国後、国内の縫製工場を回りますが、断られ続けました。提携に至ったのは100軒目に会った工場でした。2012年1月、資本金50万円で会社を設立します。自分への給料は月4万円、週3日は倉庫でアルバイトをしながら、スーツケースにシャツを詰めて行商もしました。初めて借入をしたのは創業から2年後です。事業の特徴は、価格を工場側に決めてもらい、その約2倍で販売する形にしたことです。提携工場は2016年に34社、2026年1月に61社、同年8月には63社になりました。2016年に開いた名古屋の店舗は黒字でしたが、2022年8月に閉じています。2026年1月に公表した報告書では、提携工場の約6割が黒字である一方、そのうち23%は前年より悪化していることも示しました。
このストーリーから持ち帰れる観点は、次の7つです。それぞれ本文の章で事実を確認し、最後の7章で説明し直します。
1. 工場を回り続けて、100軒目で最初の提携先に行き着いている(1章)
2. 販売価格ではなく、工場が決めた価格を起点にしている(2章)
3. 資本金50万円で始め、借入は創業2年後だった(3章)
4. クラウドファンディングで集まった金額を、需要の証拠と取り違えている(3章)
5. 黒字だった店舗を、将来を示せないという理由で閉じている(4章)
6. 提携工場の経営状態を、悪い部分も含めて公表している(5章)
7. 紹介記事で流通している数字に、出典を確認できないものがある(6章)
各章の末尾に、ローカルグローススタジオの分析と「この事例から考えられること」をまとめています。
参考資料一覧
- 株式会社ライフスタイルアクセント 公式サイト(会社概要、設立日、本社所在地)
- ファクトリエ 公式サイト(提携工場、商品)
- 山田敏夫氏 note(創業期の資金、名古屋店の閉店、提携工場数、対談記事)
- 山田敏夫氏 note「名古屋店の閉店について」(2022年7月30日)
- 山田敏夫氏 note「ほんものづくりのほんものがたり」第1話(2026年2月9日。フランス留学、国産比率)
- colocal「工場直結ファッションブランド〈ファクトリエ〉が挑戦する『希望工場価格』とは」(2018年8月10日。価格の決め方、原価率)
- CommercePick「FACTELIER IMPACT REPORT 2025」報道(2026年1月20日。提携工場の経営状況、課題の内訳)
- 日本繊維輸入組合 公表資料(2025年6月13日。国産アパレル比率1.4%)
- テレビ東京「カンブリア宮殿」紹介記事(2016年4月。提携工場34社、年商の規模)
- WWDJAPAN(2017年1月24日。台湾出店)
数字で見るファクトリエ
| 時点 | 数字 | 出典 |
|---|---|---|
| 2012年1月20日 | 株式会社ライフスタイルアクセント 設立(熊本市中央区手取本町) | 公式サイト |
| 創業時 | 資本金50万円。代表の給料は月4万円 | 山田氏note |
| 創業初期 | クラウドファンディングで100万円を調達 | 山田氏note |
| 創業2年後 | 日本政策金融公庫から700万円を借入(初めての借入) | 山田氏note |
| 2016年4月時点 | 提携工場34社 | カンブリア宮殿 紹介記事 |
| 2016年10月22日 | 名古屋・星が丘テラス店 開業 | 山田氏note |
| 2017年1月 | 台湾のツタヤブックストア信義店に出店 | WWDJAPAN |
| 2018年時点 | 原価率 約50% | colocal |
| 2022年時点 | 原価率 60%近い | 山田氏note |
| 2022年8月26日 | 名古屋・星が丘テラス店 閉店(約6年) | 山田氏note |
| 2025年1月時点 | 提携工場60社、販売アイテム366点、累計1,000点超 | IMPACT REPORT 2024 |
| 2025年6月13日 | 国産アパレル比率 1.4% | 日本繊維輸入組合 |
| 2026年1月時点 | 提携工場61社。累計アイテム1,500点超 | IMPACT REPORT 2025 |
| 2025年調査 | 提携工場の約6割が黒字。うち23%は前年より悪化。赤字2社 | IMPACT REPORT 2025(対象21社) |
| 2026年8月9日時点 | 提携工場63社 | 山田氏note |
数字の読み方を、先に3点断っておきます。1つは、原価率です。2018年の取材では約50%、2022年の本人の説明では60%近いとなっています。時点によって違う数字が使われているため、この記事では両方に時点を添えています。2つ目は、提携工場の経営状況の調査です。2025年の調査対象は21社で、提携している61社すべてではありません。3つ目は、創業初期の数字です。紹介記事で見かける「創業1年目の売上」や、クラウドファンディングの支援者数といった数字のうち、一次資料で確認できなかったものがあります。この記事では、本人の発信で確認できた数字だけを使います。
1. パリで知った比率と、100軒目の工場
実家は100年続く洋品店だった
山田敏夫氏の実家は、熊本で100年続く洋品店「マルタ號」です。現在のライフスタイルアクセントの本社も、この実家の中に置かれています。
山田氏は20歳でフランスへ留学します。パリでの経験は、本人の発信でこう並べられています。
「日本全国61の工場と提携/実家は100年続く老舗洋品店/『あなたから買いたい』という付加価値/20歳で決意したフランス留学/パリ初日にスリに遭う災難からの一歩/GUCCIパリ店でのアルバイト経験/メイドインジャパンの国産比率3%の衝撃」
パリのGUCCI店でアルバイトをする中で、日本のアパレルの国産比率の低さを知ったと語られています。当時の受け止めとして「3%」という数字が挙げられています。なお、日本繊維輸入組合が2025年6月に公表した資料では、国産比率は1.4%です。この10年ほどでさらに下がっています。
100軒回って、100軒目だった
帰国後、山田氏は国内の縫製工場を回ります。工場が自社の名前を出して直接販売する形は、当時の業界では一般的ではありませんでした。断られ続けたことが、本人の発信に残っています。
「100軒目でお会いできたのが、HITOYOSHIさんでした」
99軒に断られたうえでの1軒です。この数字は、事業の始まりが説得の積み重ねだったことを示しています。工場を持たない立場で、工場に新しい売り方を提案する形だったため、実績のない段階では受け入れられにくい提案でした。
ローカルグローススタジオの分析:相手が2種類いる事業の始め方
私たちはターゲットと便益を5-10パターンに整理するという記事で、同じサービスでも相手によって得られる価値が違うため、誰に、何を、どんな独自性で届けるかを相手ごとに整理するという考え方を書きました。
ファクトリエには、相手が2種類います。商品を作る工場と、商品を買う個人です。事業を始めるには、まず工場側を説得する必要がありました。買う人がいることを示せない段階で、作る側に協力してもらう順序です。100軒という数字は、この順序の難しさを表しています。
同じ記事では、相手にとっての価値を言葉にすることが、訴求や施策を決める出発点になるとも書きました。この事例で工場側に示された価値は、次の章で見る価格の決め方です。工場が価格を決められるという条件が、他の取引先との違いになっています。相手が2種類いる事業では、どちらの相手にも別の価値を用意する必要がある、という点が読み取れます。
この事例から考えられること
照らし合わせてみる項目
- 自社の事業に、相手が何種類いるか
- それぞれの相手に、別の価値を用意できているか
- 実績がない段階で、最初の取引先をどう説得したか
- 断られた回数を、記録に残しているか
- 自分の経歴や家業が、事業の説明に結びついているか
事例から読み取れること
1. 工場を回り続けて、100軒目で最初の提携先に行き着いている
99軒に断られた後の1軒です。実績のない段階で、作る側に新しい売り方を提案する順序の難しさが表れています。
2. 起点になった数字が、海外で知った比率だった
パリでのアルバイト中に知った国産比率が、事業の動機として語られています。市場調査ではなく、現場で知った数字が起点になっています。
3. 家業と事業が、説明の中でつながっている
100年続く洋品店という実家の背景が、本人の発信で繰り返し語られています。本社も実家の中に置かれています。
2. 価格を、工場に決めてもらう
「希望工場価格」という決め方
ファクトリエの特徴として繰り返し説明されるのが、価格の決め方です。
「工場に決めてもらった価格で買い取り、約2倍の価格で販売する。原価率がなんと約50%。ビジネスの常識ではあり得ない設定である。これによって、工場側は通常よりはるかに高い利益を得ることができる」
通常のアパレルでは、販売価格から逆算して原価が決まります。ファクトリエは、その順序を反対にしました。工場が「この価格なら作れる」という金額を出し、それを買い取り、約2倍で売ります。
この設定は、粗利率が下がることを意味します。同じ販売価格でも、原価率が高いぶん手元に残る額は少なくなります。2018年の取材時点で約50%、2022年の本人の説明では60%近いとされています。時点によって数字は動いていますが、一般的なアパレルの水準より高い状態が続いていることが読み取れます。
工場名を出す
もう1つの特徴が、どの工場が作ったかを商品ごとに明示していることです。工場が匿名の下請けではなく、名前の出る作り手になります。
工場側から見ると、この形には2つの意味があります。価格を自分で決められることと、名前が表に出ることです。取引条件と、外から見える立場の両方が変わります。
ローカルグローススタジオの分析:価格では競わないと、決めている
私たちは地方企業やスタートアップに共通する、低リソース・ブランド無しの戦わない戦略という記事で、資源で劣る側が正面から競わない方法について書きました。
アパレルの多くは、いかに原価を下げるかを競います。生産量が多いほど有利な競争です。ファクトリエは、その基準に乗っていません。原価率を高く保ち、その分を工場の利益に回す形にしています。価格の安さでは勝てない構造を、あらかじめ選んでいます。
同じ記事では、大手と直接ぶつかる場所を避けたうえで、自社の強みを活かせる市場や手法を選ぶと書きました。この事例で選ばれた強みは、どこで誰が作ったかが分かることと、その工場に利益が残ることです。買う人にとっての理由と、作る人にとっての理由が、同じ設計から出ています。ただし、粗利が薄い構造を選んだことは、自社の資金繰りにそのまま効きます。次の章で見る創業期の状況は、この設計と無関係ではありません。
この事例から考えられること
照らし合わせてみる項目
- 自社の価格が、どこから逆算して決まっているか
- 仕入れ先が価格を決める形を、検討したことがあるか
- 粗利率を下げる代わりに、何を得ているか
- 作り手の名前を、商品に出しているか
- 価格の安さ以外の基準を、言葉にできているか
事例から読み取れること
1. 販売価格ではなく、工場が決めた価格を起点にしている
工場が出した金額で買い取り、約2倍で売る形です。価格が決まる順序が、一般的なアパレルと逆になっています。
2. 原価率の高さを、そのまま公開している
2018年時点で約50%、2022年の説明では60%近いとされています。粗利が薄い構造を隠さずに説明しています。
3. 工場名を出すことが、取引条件の一部になっている
価格を決められることと、名前が出ることの2つが、工場側にとっての違いになっています。
3. 資本金50万円と、行商の日々
給料は月4万円、食事は食パンとスープ
創業時の状況は、本人が具体的に書いています。
「資本金50万円でスタート。預金額は資本金と同額でしたので、自分への給料は月4万円に設定(=家賃)。さらに週3は倉庫でアルバイトをしていました。少しでも節約したかったので、一日の食事は食パン一斤とスープ缶詰をひとつ。(中略)初めてお金を借りたのは起業して2年後で、政策金融公庫さんから700万円。それまでは、貧乏生活をして、なんとかやり繰りしていました」
資本金50万円、給料は家賃と同額の月4万円、週3日は別の仕事。借入をしたのは創業から2年後です。始まりの時点では、外部からの資金を入れていません。
クラウドファンディングの100万円を、読み違えた
創業初期に、当時できたばかりのクラウドファンディングで100万円を集めています。その受け止め方について、本人の振り返りが残っています。
「当時出来たばかりのクラウドファウンディングサイト『CAMPFIRE』で100万円集めていたことも見通しの甘さに拍車をかけました。100万円も集まったんだから上手くいくはずだと。でも、蓋を開けてみると、クラウドファンディングでお金を出してくれていたのはほとんど私の友達でした(笑)」
集まった金額を、市場に需要があることの証拠と受け取っていた、という説明です。実際には、支援していたのは友人が中心でした。資金は集まりましたが、その資金が示していたものは、想定と違っていました。
その後の売り方も、生々しく語られています。
「まずは片っ端から友達に電話したんですが、既に『CAMPFIRE』で投資してくれているので買ってくれない。そこでスーツケースにシャツを詰め込み、喫煙スペースに行って個人の方に『シャツ買いませんか』と行商したりもしました。(中略)すごい勢いで拒絶反応を受けましたね(笑)」
最初にお金を払ってくれる相手を探す作業が、この段階では手渡しの営業になっています。オンライン中心のブランドですが、始まりは1人ずつの声かけでした。
ローカルグローススタジオの分析:集まった資金が、需要とは限らない
私たちは前の章でも触れたターゲットと便益の記事で、相手ごとに価値を整理することについて書きました。
クラウドファンディングで集まった100万円は、資金としては本物です。ただし、その資金が誰から来たかによって、示している意味が変わります。この事例では、支援者の多くが友人でした。金額は集まっても、想定していた相手からの反応ではなかったことになります。
同じ記事では、相手ごとに価値を言葉にすると、訴求や施策を出し分けられるとも書きました。この事例からは、その手前の確認も読み取れます。反応があったとき、それが想定した相手からのものかどうかを分けて見ないと、次の判断を誤りやすくなります。本人が「見通しの甘さに拍車をかけました」と書いているのは、この点についてです。
この事例から考えられること
照らし合わせてみる項目
- 集まった反応が、想定した相手からのものか確認しているか
- 知人からの支援と、そうでない支援を分けて数えているか
- 創業時に、外部資金を入れる時期をどう決めたか
- 最初の売上を、どうやって作ったか
- 資金と需要を、別のものとして見ているか
事例から読み取れること
1. 資本金50万円で始め、借入は創業2年後だった
給料は月4万円、週3日は別の仕事という状態から始まっています。外部資金を入れたのは2年後でした。
2. クラウドファンディングで集まった金額を、需要の証拠と取り違えている
支援者の多くが友人だったことが、後から分かったと語られています。金額と需要を分けて見ることの難しさが表れています。
3. 最初の売上を、手渡しの営業で作っている
スーツケースにシャツを詰めて声をかける形です。オンライン中心のブランドの始まりが、対面の営業だったことが記録されています。
4. 黒字の店を閉じた判断
名古屋の店は黒字だった
2016年10月、名古屋の星が丘テラスに店舗を開きます。約6年後の2022年8月26日に閉店しました。閉店の理由について、本人の説明が残っています。
「名古屋のお店を8月末で閉店させていただきます。約6年間、本当にありがとうございました。(中略)なんとか名古屋店は黒字でした。それでも閉める決断をしたのは、将来のビジョンを示せなかったことに尽きます。(中略)経営者の先輩方に相談しても、『非情になれない経営者は失格』とのアドバイスばかりで、自分の未熟さと後ろ髪を引かれる思いに、考えていました」
赤字だから閉じたのではありません。黒字であることを明かしたうえで、将来を示せなかったことを理由に挙げています。
判断に迷った過程も、そのまま書かれています。相談した相手からのアドバイスと、自分の受け止めの違いまで含めて残されています。閉店の告知としては、成果だけを並べる形とは違う書き方です。
台湾への出店もあった
2017年1月には、台湾のツタヤブックストア信義店に出店しています。国内外で売り場を持つ動きが、この時期にありました。
現在のファクトリエはオンラインが中心です。物理的な売り場を増やす方向から、別の形へ移っていったことになります。
ローカルグローススタジオの分析:判断の理由が、記録として残っている
私たちは顧客獲得コストを下げるには「ストック>フロー」を意識しようという記事で、広告のように止めれば効果が消えるフロー型と、一度作れば効き続けるストック型を分けて考えるという考え方を書きました。
ファクトリエが積み上げているものの1つが、提携工場の数です。2016年に34社、2026年1月に61社、同年8月に63社と増えています。この数字は、1年で大きく動くものではありません。
もう1つが、判断の記録です。名古屋店の閉店について、黒字だったこと、理由が将来を示せなかったことであること、迷った過程まで書かれています。こうした記録は、後から読む人にとって判断の材料になります。同時に、書いた本人にとっても、次の判断の基準として残ります。成果だけを並べる発信では、この種の記録は積み上がりません。
この事例から考えられること
照らし合わせてみる項目
- 撤退や閉店の判断を、赤字以外の理由で下したことがあるか
- その理由を、外に説明できる形にしているか
- 迷った過程を、記録に残しているか
- 売り場を増やす方向と、別の方向を比べたことがあるか
- 判断の記録が、次の判断の材料になっているか
事例から読み取れること
1. 黒字だった店舗を、将来を示せないという理由で閉じている
赤字ではないことを明かしたうえで、閉じる理由を別に挙げています。判断の基準が数字だけではない例です。
2. 迷った過程が、そのまま書かれている
相談したアドバイスと、自分の受け止めの違いまで記録されています。結論だけを伝える形ではありません。
3. 売り場の形が、時期によって変わっている
2016年に名古屋、2017年に台湾へ出店し、2022年に名古屋を閉じています。方向が一定ではないことが記録から分かります。
5. 提携工場の現在を、数字で出している
約6割が黒字、そのうち23%は悪化
2026年1月に公表された「FACTELIER IMPACT REPORT 2025」では、提携工場の経営状況が数字で示されました。
「これまでに累計1,500を超えるアイテムを展開してきた(中略)提携工場の約6割が黒字と回答しています。しかしながら、そのうち『黒字であるが前年より悪化している』という工場が23%存在しており、楽観視できる状況ではないことが明らかになりました」
約6割が黒字という数字だけを出す形もあり得ましたが、そのうち23%が悪化していることも同時に示されています。赤字の工場も2社あり、うち1社は悪化が続いていると記載されています。
課題の内訳にも変化がありました。材料価格の上昇を挙げた工場が19.7%(前年28.21%)と減った一方、若手人材の採用を挙げた工場が16.7%(前年2.56%)と大きく増えています。技能実習生の制度への対応も、2025年から新しい調査項目として加わりました。
なお、この調査の対象は21社です。提携している61社すべてではありません。
報告書の締めくくりも公開されています。
「ファクトリエでは、これからも工場の皆さまとともに、日本の技術と誇りを未来へつなぐ『ほんものづくり』を進めていくとしています。(中略)2026年のレポートでは、さらにポジティブな報告ができるよう、引き続き、誠実に、丁寧に、歩んでいく方針です」
発信は続いている
2026年からは、Podcast「ほんものづくりのほんものがたり」が始まっています。noteと連動し、毎週日曜に配信される形です。創業期の資本金や、クラウドファンディングの読み違い、工場を回った話も、改めて音声で発信されています。
同じ2026年には、他の地方製造業の後継者との対談企画も進んでいます。石川樹脂工業の石川勤氏との対談では、次のような発言が引き出されています。
「儲かっていない会社なのにデザイナーさんへのフィーはお支払いし続けないといけない。『この費用は将来に繋がるのか』という焦りと葛藤を持ちながらの1年でした」
自社の事例を語るだけでなく、他社の経営者に聞く側に回る発信が加わっています。
ローカルグローススタジオの分析:相手の状態を数字で出すという形
私たちは3章でも触れたターゲットと便益の記事で、相手ごとに価値を言葉にすることについて書きました。上の分析で触れたとおり、ファクトリエには工場と個人という2種類の相手がいます。
報告書は、このうち工場側の状態を数字にしたものです。約6割が黒字という結果は成果として読めますが、23%が悪化していること、人材難が急に増えたことも同じ資料に入っています。取引先の状態を良い面だけで示さない形になっています。
工場が黒字であることは、ファクトリエにとって事業の前提でもあります。作れる工場がなくなれば、商品も作れません。取引先の経営状態を継続して調べ、公表することは、自社の前提を点検する作業と重なっています。ただし、調査対象は21社で、提携先すべてではありません。数字を読むときの範囲として、この点も併せて見ておきたい部分です。
この事例から考えられること
照らし合わせてみる項目
- 取引先の経営状態を、定期的に確認しているか
- その結果を、良い面だけで示していないか
- 調査の対象範囲を、数字と一緒に出しているか
- 課題の内訳が、年によってどう変わったかを見ているか
- 取引先が続けられることが、自社の前提になっていないか
事例から読み取れること
1. 提携工場の経営状態を、悪い部分も含めて公表している
約6割が黒字という結果と並べて、そのうち23%が悪化していること、赤字が2社あることも示されています。
2. 課題の内訳が、年によって変わっている
材料価格の上昇を挙げる工場が減り、若手人材の採用を挙げる工場が2.56%から16.7%へ増えています。
3. 調査の対象が、提携先の一部である
対象は21社で、提携している61社すべてではありません。数字の範囲が明示されています。
6. 確認できる数字と、確認できない数字
出典を確認できなかった数字
ファクトリエは紹介されることの多い事業です。その分、記事によって数字が異なる場合があります。今回の調査では、次の点が確認できませんでした。
「創業1年目の売上は約1,500万円」「1年目の約66倍」といった数字は、一次資料の中に見当たりませんでした。「創業4年目で年商10億円の勢い」という記述は2016年の番組紹介記事で確認できましたが、対になる1年目の数字の根拠は見つかりませんでした。この記事では、倍率の計算を使っていません。
クラウドファンディングの調達額も、本人の発信では100万円です。「約110万円」「約70名から」という記述も見かけますが、本人の証言と一致しません。この記事では100万円としています。
創業資金についても、注意が必要でした。政策金融公庫からの借入を創業資金とする記述がありますが、本人の説明では資本金50万円で始め、借入は創業2年後です。順序が逆になっています。この記事では本人の説明に合わせています。
銀座のフィッティングスペースの開業日や、「1年で100人の雇用創出」といった記述についても、元の記事本文を確認できませんでした。この記事では使っていません。
「日本初」という表現について
創業当時の記事には「日本初のファクトリーブランド専門オンラインコマース」という表現があります。これは媒体の見出しによる評価で、業界を網羅した資料にもとづくものではありません。この記事では使っていません。
ローカルグローススタジオの分析:紹介が増えるほど、数字が独り歩きする
私たちは4章でも触れたストックの記事で、一度作ったものが効き続けることを書きました。
ファクトリエの場合、本人による発信は多く残っています。noteには創業期の金額から閉店の判断まで書かれており、報告書も毎年公表されています。一方で、第三者による紹介記事の中には、本人の発信と食い違う数字が混じっています。紹介が増えるほど、元をたどれない数字が広がりやすくなります。
読む側としてできるのは、本人が出している資料と、紹介記事を分けて見ることです。この事例では、本人の発信が多く残っているため、突き合わせができました。事例を読むときの手順として、確認しやすい対象と、そうでない対象があるという点も見えてきます。
この事例から考えられること
照らし合わせてみる項目
- 自社について書かれた記事の数字を、確認しているか
- 本人が出した数字と、紹介記事の数字が一致しているか
- 創業資金の順序を、正確に説明できるか
- 「日本初」といった評価語を、そのまま使っていないか
- 元をたどれる資料を、自社で出しているか
事例から読み取れること
1. 紹介記事で流通している数字に、出典を確認できないものがある
創業1年目の売上や倍率、クラウドファンディングの支援者数などが該当します。本人の発信と一致しないものもあります。
2. 創業資金の順序が、記述によって逆になっている
本人の説明では資本金50万円で始め、借入は2年後です。借入を創業資金とする記述とは順序が違います。
3. 本人の発信が多く残っているため、突き合わせができる
noteと報告書に、金額や判断の理由が書かれています。確認できる対象であることが、この事例の特徴です。
7. ローカルグローススタジオの視点
冒頭に挙げた7つの観点を、本文で確認した事実で説明し直します。
1. 工場を回り続けて、100軒目で最初の提携先に行き着いている
「100軒目でお会いできたのが、HITOYOSHIさんでした」という言葉が残っています。99軒に断られた後の1軒です。
工場が自社の名前を出して直接販売する形は、当時の業界では一般的ではありませんでした。買う人がいることを示せない段階で、作る側に協力を求める順序になります。相手が2種類いる事業の始め方として、どちらを先に説得するかという判断が表れています。
2. 販売価格ではなく、工場が決めた価格を起点にしている
「工場に決めてもらった価格で買い取り、約2倍の価格で販売する」という形です。販売価格から原価を逆算する一般的な順序と、反対になっています。
この設定は、粗利が薄くなることを意味します。原価率は2018年時点で約50%、2022年の説明では60%近いとされています。価格の安さで競うことをやめた代わりに、どこで誰が作ったかが分かることと、工場に利益が残ることを強みにしました。買う人の理由と作る人の理由が、同じ設計から出ている形です。
3. 資本金50万円で始め、借入は創業2年後だった
給料は家賃と同額の月4万円、週3日は倉庫でアルバイト、食事は食パンとスープ缶詰という状態から始まっています。初めての借入は700万円で、創業から2年後でした。
粗利の薄い設計を選んだことと、この創業期の状況は無関係ではないと考えられます。原価率が高い構造では、同じ売上でも手元に残る額が少なくなります。設計上の選択が、資金繰りに直接効いた例として読めるかもしれません。
4. クラウドファンディングで集まった金額を、需要の証拠と取り違えている
100万円が集まったことで「上手くいくはずだ」と考えたものの、支援していたのは主に友人でした。その後、友人に電話しても、すでに支援しているために買ってもらえなかったと語られています。
資金が集まったことと、需要があることは別だという点が、本人の言葉で残っています。反応があったときに、それが想定した相手からのものかを分けて見る必要がある、という材料になります。
5. 黒字だった店舗を、将来を示せないという理由で閉じている
2016年に開いた名古屋の店舗は、2022年8月に閉店しました。「なんとか名古屋店は黒字でした。それでも閉める決断をしたのは、将来のビジョンを示せなかったことに尽きます」と説明されています。
赤字だから閉じたのではありません。判断に迷った過程や、相談した相手からのアドバイスと自分の受け止めの違いまで書かれています。撤退の告知として、成果だけを並べる形とは違う書き方になっています。
6. 提携工場の経営状態を、悪い部分も含めて公表している
2026年1月の報告書では、提携工場の約6割が黒字である一方、そのうち23%が前年より悪化していること、赤字が2社あることも示されています。課題として若手人材の採用を挙げた工場が、前年の2.56%から16.7%へ増えたことも記載されています。
工場が続けられることは、ファクトリエにとって事業の前提でもあります。取引先の状態を調べて公表することは、自社の前提を点検する作業と重なっています。なお、この調査の対象は21社で、提携している61社すべてではありません。
7. 紹介記事で流通している数字に、出典を確認できないものがある
創業1年目の売上や、その倍率、クラウドファンディングの支援者数などが該当します。創業資金についても、本人の説明では資本金50万円で始めて借入は2年後ですが、借入を創業資金とする記述が見られます。
一方で、本人の発信は多く残っています。noteには創業期の金額も閉店の判断も書かれており、報告書も毎年出ています。突き合わせができる事例であることが、この記事の材料の性質でもあります。
本事例から見える経営とマーケティングの学び
ファクトリエの物語は、継ぐ会社も買う会社もない状態から、熊本に本社を置いて事業を作った事例として読めます。順序をたどると、次の並びになります。
- パリで知った国産比率を起点にした
- 工場を100軒回って最初の提携先を得た
- 価格を工場に決めてもらう形で取引条件を作った
- 資本金50万円と行商で最初の売上を作った
- 店舗を持ち、黒字のまま閉じる判断をした
- 提携工場の状態を毎年数字で公表した
上の分析で触れたとおり、この事例には4つの見方が重なっています。相手が2種類いる事業では両方に別の価値が要ること、価格の安さという基準から降りたこと、集まった資金が需要とは限らないこと、そして判断の理由が記録として残っていることです。
同時に、この事例は数字の扱いに注意が要る対象でもあります。紹介記事で流通している創業期の数字には、本人の発信と一致しないものがあります。その一方で、本人が出しているnoteと報告書が多いため、突き合わせができます。発信の量が多い事例ほど、どの資料を根拠にするかを先に決めておく必要がある、という点も持ち帰れる部分です。
「ビジネス知の機会格差をなくす」という私たちのミッションに向けて、これからも実践的で価値ある情報を発信していきます。この記事の内容について、さらに詳しく知りたい方は、ぜひご連絡ください。

執筆者 : 佐久間 一己 (さくま かずき)
つなぐスタジオ株式会社 代表取締役社長 / ローカルグローススタジオ Director
リクルート営業マネージャーを経て、福井県小浜市で道の駅・古民家ホテルの集客支援と行政の産業6次化に4年携わり、その後ユーザベースFORCAS(現Speeda)カスタマーサクセスマネージャー、スタートアップ執行役員、フィンテック事業責任者を務め、2025年に地方企業向けのマーケティング代理店を設立。BtoB事業でWEBメディアを立ち上げオーガニック流入を3か月で20倍に伸ばすなど、知名度や予算が限られる時期に効くマーケティングと採用の手法を、地方企業の規模に合わせて伴走します。



