先進企業に学ぶ(起業編) – 面白法人カヤック|「何をするか」を決めずに3人で始め、鎌倉から上場まで進んだ会社

ローカルグローススタジオは、『地方企業にスタートアップのような成長を』というテーマで、コンテンツ発信と支援サービスを展開しています。この記事では、実践的なビジネスノウハウを、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。

今回取り上げるのは、神奈川県鎌倉市の株式会社カヤックです。1998年に学生時代の友人3人が合資会社として設立し、2002年に鎌倉へ本社を移し、2014年に東証マザーズへ上場しました。「面白法人」を名乗り、サイコロ給やぜんいん人事部といった制度を自ら発信してきた会社として知られています。

この記事は、地方でゼロから会社を作った事例を扱う「起業編」の1本です。何を見て始め、最初にお金を払ってくれる相手をどこに置き、その後どの順で資産を積んだかを、継ぐ会社も買う会社もない状態から事業を作った人の判断で読み解きます。

この記事の要約

先にストーリーの全体像です。カヤックは1998年8月3日、資本金3万3,000円の合資会社として始まりました。創業したのは貝畑政徳氏、柳澤大輔氏、久場智喜氏の3人です。大学卒業時にあみだくじで進路を分け、2年後に再び集まって会社を作りました。公式サイトには「そもそもカヤックを設立したとき、『何をするか』は一切決まっていませんでした」と書かれています。決まっていたのは、この3人でやるということだけでした。Web制作の受託で稼ぎながら「面白法人」を名乗り、サイコロ給やぜんいん人事部化計画といった制度を作り、その制度自体をニュースとして発信していきます。2002年には鎌倉へ本社を移しました。2014年12月に東証マザーズへ上場し、現在はグロース市場です。2013年に地域団体「カマコン」、2017年に「鎌倉資本主義」の考え方、その後にコミュニティ通貨「まちのコイン」と移住スカウト「スマウト」と、地域の活動が順に事業になっていきます。2025年12月期の売上高は200億9,468万円、そのうち「ちいき資本主義」区分は14億5,129万円で前期比プラス61.3%でした。創業から27年を過ぎた現在も、貝畑氏・柳澤氏・久場氏の3人が代表取締役を務めています。

このストーリーから持ち帰れる観点は、次の7つです。それぞれ本文の章で事実を確認し、最後の7章で説明し直します。

1. 「何をするか」より「誰とするか」を、創業の起点に置いている(1章)

2. 3人が対等な代表取締役のまま、20年以上続いている(1章)

3. 受託で稼ぎながら、自社の制度を発信物にしている(2章、3章)

4. 経済合理性では選ばない場所を、意図して本社にしている(4章)

5. 上場の理由を「関わってくれる人が増えるから」と説明している(5章)

6. 地域での活動が、後から事業になっている(6章)

7. なくなった事業を、沿革に残したままにしている(5章)

各章の末尾に、ローカルグローススタジオの分析と「この事例から考えられること」をまとめています。

参考資料一覧

数字で見るカヤック

時点数字出典
1998年8月3日合資会社カヤック設立。学生時代の友人3人、資本金3万3,000円公式沿革
2002年5月31日「旅する支社」開始(1回目はイタリア・フィレンツェ)公式沿革
2002年9月1日鎌倉・由比ガ浜へ本社移転公式沿革
2005年1月21日株式会社カヤックとして再スタート公式会社概要
2006年スマイル給の導入公式「制度・行事」
2014年7月7日ぜんいん人事部化計画。採用コストが25%下がったと発表公式沿革
2014年12月25日東証マザーズ上場公式沿革
2018年11月26日鎌倉市御成町へ本社移転(現在地)公式沿革
2022年4月市場区分の再編により東証グロース市場へ移行公式会社概要
2025年8月28日ハイパーカジュアルゲームの累計ダウンロードが15億件を突破公式沿革
2025年12月期売上高200億9,468万円(前期比プラス20.1%)、営業利益10億7,117万円決算短信
2025年12月期「ちいき資本主義」区分の売上高14億5,129万円(前期比プラス61.3%)決算短信
2025年12月末従業員数 連結618名・単体222名公式会社概要
2025年12月末スマウト累計登録ユーザー約8.4万人、導入地域1,164地域決算短信
2025年12月末まちのコイン累計登録ユーザー21.5万人決算短信
2026年9月時点まちのコイン導入エリア17地域まちのコイン公式サイト

数字の読み方を、先に2点断っておきます。1つは、事業区分が変わることです。カヤックはこれまで単一セグメントで開示しながら、参考情報として「ゲームエンタメ」「面白プロデュース」「eスポーツ」「ちいき資本主義」「その他」の5区分で売上高を出してきました。2026年12月期からは「ブランド&マーケティング」「ゲーム・アニメ」「ちいき資本主義」「その他」の4セグメントによる正式開示に変わります。この記事で使う区分別の数字は、2025年12月期までの5区分によるものです。2つ目は、地域事業の導入エリアが入れ替わることです。まちのコインは累計登録ユーザーが伸びる一方、導入エリアの顔ぶれは年ごとに変わっています。右肩上がりの1本の線としては読めない部分があります。

1. 「何をするか」は、決まっていなかった

あみだくじで進路を分け、2年後に集まった

カヤックの創業者は、貝畑政徳氏、柳澤大輔氏、久場智喜氏の3人です。3人は学生時代の友人でした。柳澤氏は自身のブログで、創業までの経緯をこう書いています。

「カヤックの創業者で現・代表取締役の3人(貝畑・久場・柳澤)が、大学卒業時、あみだくじで卒業後の進路を決定します。就職・大学院進学・海外放浪の3つの進路です。その結果、僕が就職担当になりました(貝畑が大学院進学担当になり、久場が海外放浪の旅に出ました)。そして、卒業後2年後に再び集まって創業。そんなストーリーで会社がスタートしました」

進路を先に決めてから会社を作ったのではなく、一緒に会社を作ることを決めてから、それぞれの2年間を分担しています。順序が逆になっています。

決まっていたのは「誰と」だけだった

公式サイトには、創業時に事業が決まっていなかったことが、そのまま書かれています。

「『何をするか』より『誰とするか』。面白法人という言葉と同じく、僕らが設立当初から、大切にしているキーワードです。そもそもカヤックを設立したとき、『何をするか』は一切決まっていませんでした。決まっていたのは、学生時代の友人3人が集まって、『仲間と面白い会社をつくろう』。それだけです」

1998年8月3日、資本金3万3,000円の合資会社として設立されました。3人で出した金額を単純に割ると、1人あたり1万1,000円です。事業計画があって資金を集めたのではなく、3人で出せる金額から始まっています。

3人が代表のまま、20年以上が過ぎた

創業時の3人という形は、その後も変わっていません。2005年1月21日の株式会社化と同時に3人が揃って代表取締役に就任し、現在も続いています。

「面白法人カヤックには、代表取締役が3人います。2019年現在、創業者の3人がその役割を務めています。代表取締役CTOの貝畑政徳、代表取締役CBOの久場智喜、そして代表取締役CEOである柳澤です。創業から20年間、いまのところ、この体制は変わっていません。これは上場企業としては珍しいことのようです。代表取締役会長と代表取締役社長などがいる会社は複数ありますが、3人の代表取締役が並列で存在し、ほぼ等分で株式を保有している会社は、金融機関からはよく『見たことがない』といわれます」

決め方も公開されています。

「代表が3人いるということは、何かあったら3人で意思決定し、3人で責任を取るということです。3分の1ずつ責任を取るのではなく、全員が100%責任を取る。(中略)3人で決めるということは、時に時間もかかるし、意見が割れるときもある。でも、割れるからこそ意味があると思うのです。カヤックでは必ず、意見が割れた時には、いま出ている案とは別の、第三の案を出すことにしています。多数決で決めるのでも、誰かひとりに最終決定権があるのでもありません。第三の案に全員が納得して、初めて意思決定となります」

この形を選んだ理由についても、柳澤氏は合理性ではないと書いています。

「そもそも責任の所在を明確にするためにも役割区分をしっかり分けた方がよいでしょうし、3人で意思決定するのは必ずしもよくない面もあります。ただ、3人でやるというストーリー、つまり物語をつくることを選択したということです」

なお、決算短信や有価証券報告書の「代表者」欄には、開示制度上の選任として柳澤氏の名前だけが載ります。書類の上での代表者と、経営体制としての代表者の数は一致していません。この記事では、公式の会社概要とIRメッセージの署名にもとづき、3人を代表取締役として扱います。

ローカルグローススタジオの分析:「何のために」を先に決めているため、その下の判断が変わる

私たちは間違ってはいけない戦略の順番|ビジョン→事業→商品→営業→組織という記事で、戦略には順番があり、「何のために事業をやるか」が決まっていないと、その下の判断が場当たりになると書きました。

カヤックを読み解くと、最初に決められたのは事業領域ではなく意思決定の形で、私たちが記事に書いた「先に決めるものがある」という考えと同じ考えが表れています。「3人が対等な代表であり、全員が納得する第三の案を作るまで決めない」という形が先にあります。その下で、何をするかは後から埋まっていきました。実際、受託制作、ゲーム、eスポーツ、地域事業と、事業の中身は27年で何度も入れ替わっています。

同記事では、「何のために」が決まっていれば、その下の判断が速くなるとも書きました。カヤックの場合は逆の性質も持っています。3人が納得するまで決めない仕組みは、速さを捨てています。柳澤氏自身が「時に時間もかかる」と書いているとおりです。最初に何を決めるかによって、下で得られるものと失うものが変わる例として読めます。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 創業時に決まっていたのが「何をするか」だったか、「誰とするか」だったか
  • 意思決定の形を、事業の中身より先に決めているか
  • 意見が割れたときの扱い方が、あらかじめ決まっているか
  • 経営体制の形を、合理性以外の理由で選んだことがあるか
  • 書類上の代表者と、実際の意思決定者の数が一致しているか

事例から読み取れること

1. 「何をするか」より「誰とするか」を、創業の起点に置いている

事業が決まらないまま会社を作り、その事実を公式サイトに残しています。事業アイデアからではない始まり方が実際にある例として読めます。

2. 意見が割れたときの手続きを、先に決めている

多数決でも最終決定権者でもなく、第三の案を作るという手続きです。3人という人数と、この手続きが組み合わさっています。

3. 体制を選んだ理由として、物語を挙げている

柳澤氏は「3人でやるというストーリー、つまり物語をつくることを選択した」と書いています。合理性で説明しない選び方を、本人が明示している例です。

2. 面白法人という名乗りと、受託という食い扶持

名乗りに3つの意味を込めた

カヤックは創業期から「面白法人」を名乗っています。この言葉の中身は、IRのトップメッセージで説明されています。

「僕らは、創業期から面白法人と名乗っています。この面白法人という言葉に、3つの思いを込めました。まずは、自分たちが面白がって働く『面白がる法人』に。次に、周囲からも面白いと言われる存在になる『面白い法人』に。最後は、人生が面白くなったという人を世の中に増やす『面白くする法人』になろう、と」

自分たち、周囲、世の中と、範囲が3段階で広がる作りになっています。名乗りの時点で、社内の話に閉じていません。

企業理念と経営理念の関係も、公式サイトで整理されています。

「カヤックの企業理念は『面白法人』であり、経営理念は『つくる人を増やす』です。『世の中を面白くしたり、みんなが面白く生きるために貢献する』ことがカヤックが存在する目的。それを実現するために『つくる人を増やす』という方法をとる」

目的と方法が、別の言葉で分けて書かれています。

最初にお金を払ったのは、企業だった

創業期の収入源は、Web制作の受託でした。作ったものを企業に納め、対価を受け取る形です。個人向けのサービスやゲームは、その後に増えていきます。

この順番は、この記事で扱う起業編の他の事例と比べても分かりやすい形をしています。自分たちが作りたいものを作って売る前に、他社が必要としているものを作って納めるという、手元の技術がそのまま売り物になる領域から始まっています。

一方で、受託だけで終わらせない工夫が同時に走っていました。次の章で見る制度づくりと、その発信です。受託の仕事で食べながら、会社そのものを話題にしていく形が、創業期から並行しています。

「旅する支社」は創業4年目に始まった

2002年5月31日、「旅する支社」が始まります。1回目の行き先はイタリア・フィレンツェでした。社員が現地で働き、その様子を発信する取り組みです。公式沿革には「現在まで続く『旅する支社』」と書かれています。

本社移転の3か月前です。場所を移して働くという実験が、鎌倉への移転より先に始まっていたことになります。

ローカルグローススタジオの分析:名乗りは、あとから積み上がる資産になる

私たちは顧客獲得コストを下げるには「ストック>フロー」を意識しようという記事で、広告のように止めれば効果が消えるフロー型と、一度作れば効き続けるストック型を分けて考えるという考え方を書きました。

カヤックの場合、「面白法人」という名乗りは創業期に生まれ、27年後の現在も使われています。この間に事業は入れ替わりましたが、名乗りは残りました。制度も、記事も、採用も、この名乗りの下に積み上がっています。

同じ記事では、ストック型は最初は効果が小さく、積み上がるにつれて効いてくるとも書きました。1998年時点の「面白法人」は、3人が決めた言葉に過ぎません。それが検索され、報道され、応募者が集まる資産になるまでには、後の章で見る制度づくりと発信の積み重ねがあります。名乗った瞬間に資産があったわけではない、という順序で読めます。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 自社の名乗りが、自分たち・周囲・世の中のどこまでを含んでいるか
  • 企業理念と経営理念を、目的と方法として分けて書けるか
  • 創業期に最初にお金を払ってくれた相手が誰だったか
  • 受託で食べながら、並行して積んでいるものがあるか
  • 名乗りが、事業が入れ替わっても使い続けられる言葉になっているか

事例から読み取れること

1. 名乗りの中身を、3段階で定義している

「面白がる」「面白い」「面白くする」と、主語の範囲を変えて3つ並べています。1つの言葉に複数の意味を持たせる書き方の例です。

2. 受託を食い扶持にしながら、会社そのものを発信している

作ったものを納める仕事と、会社の制度を発信する活動が、創業期から並行しています。片方が終わってからもう片方を始めた形ではありません。

3. 場所を移す実験が、本社移転より先に始まっている

「旅する支社」は2002年5月、鎌倉への本社移転は同年9月です。小さく試してから大きく動いた順序として読めます。

3. 制度そのものを、発信物にした

サイコロ給

カヤックの制度で最もよく知られているのが、サイコロ給です。公式サイトには、仕組みと設計の理由が書かれています。

「といっても、給料の全額がサイコロで決まるのではなく、毎月『月給×(サイコロの出目)%』が、+αとして支給されます。(中略)よく誤解されるのですが、給料が減ることはありません。(中略)人間の評価や運命を、最後の最後は天に託そうじゃないか。そんな思いでカヤック創業時から取り入れているのが、サイコロ給です」

設計の理由は、別のページでさらに直接的に書かれています。

「人が人を評価する以上、完璧に公平な評価制度をつくるということは難しい。人ではなく、天が采配する要素があってもいいのではないか、という思いでつくられました」

評価制度を完璧にしようとするのではなく、完璧にはならないという前提から出発しています。加算のみで減額はない設計も、この前提と組み合わさっています。

ぜんいん人事部化計画

2014年7月7日に始まった制度です。公式サイトの説明は、次のとおりです。

「カヤックでは全社員の名刺に『人事部』という肩書が入っています。たったそれだけのことで、各社員の採用に対する意識が高まることを証明しました」

公式沿革には、結果の数字も添えられています。

「カヤック社員全員が人事部になり、採用コストが25%下がりました」

制度の名前、やったこと、下がった数字が、1つの短い文にまとまっています。制度を作っただけでなく、効果を数字にして出しています。

スマイル給と、ぜんいん社長合宿

スマイル給は2006年に導入されました。支給額はゼロ円です。社員のアイデアから生まれた制度だと説明されています。金額ではなく、名前と存在そのものが役割を持つ制度です。

ぜんいん社長合宿は、社員全員が経営について考える場として続いてきました。ただし、コロナ禍で中断した時期があります。2023年11月の開催は「4年ぶりのリアル開催」と公式ニュースに書かれています。制度が途切れずに続いてきたわけではないことも、公表されている情報から確認できます。

ブレストの2つのルール

制度やサービスを生み出す場として、カヤックはブレストを挙げています。ここで注目したいのは、ルールの数の少なさです。

「実は、このブレストこそが、カヤックの原動力。カヤックが発信する数々の新サービスや新制度は、すべてこのブレストから生み出されています。(中略)ブレストにおいて大事なことは2つあります。1. 他人のアイデアに乗っかる 2. とにかくアイデアの数をたくさん出すことが最優先。(中略)長年カヤックでブレストを行なってきた結果、『否定しない』というルールは、実はそれほど重要ではないということがわかりました」

一般によく挙げられる「否定しない」を、公式ページ自身が重要ではないと書いています。長く続けた結果として、ルールを減らしたことが明示されています。

ローカルグローススタジオの分析:制度が、採用の入口になっている

私たちはマネジメントとは、今のリソースでやりくりすること、リソース調達力を上げること。バフ人材とデバフ人材を見極める。という記事で、地方企業やスタートアップが人を引きつけるには高い報酬だけに頼れないため、ビジョンを言葉にして発信し続けることが要ると書きました。

カヤックの制度は、いずれも社内向けの仕組みでありながら、社外に向けた説明にもなっています。サイコロ給は「評価は完璧にならないと考える会社である」という説明であり、ぜんいん人事部は「採用は人事の仕事ではないと考える会社である」という説明です。制度の内容を読むだけで、その会社で働くと何が起きるかが伝わる形になっています。

同じ記事では、ビジョンに共感する人は報酬条件が最高でなくても働く意義を見出すとも書きました。1998年に3万3,000円で始まった会社が、大手と同じ条件では戦えなかったことは想像できます。制度を作り、その制度を発信物にする形は、その会社で働く意義を言葉にする作業として読めます。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 自社の制度が、社外向けの説明としても読める形になっているか
  • 制度の効果を、数字にして出したことがあるか
  • 完璧にできない前提から設計した仕組みがあるか
  • 長く続けた結果として、減らしたルールがあるか
  • 途切れた制度について、途切れた事実を伏せずに書けるか

事例から読み取れること

1. 評価が完璧にならない前提から、制度を設計している

サイコロ給は、公平な評価制度を目指す方向ではなく、天に任せる部分を残す方向で作られています。前提の置き方が制度の形を決めている例です。

2. 制度の効果を、数字にして公表している

ぜんいん人事部化計画については「採用コストが25%下がりました」と沿革に書かれています。制度を作った話で終わらせていません。

3. 続けた結果として、ルールを減らしている

ブレストの公式ページは「否定しない」を重要ではないと書いています。増やす方向ではなく減らす方向の更新が、公開された形で残っています。

4. 2002年、鎌倉へ本社を移した

経済合理性では選ばない場所を選んだ

2002年9月1日、カヤックは鎌倉市由比ガ浜へ本社を移します。その理由は、公式サイトで正面から説明されています。

「カヤックは2002年から鎌倉に本社を置いています。経済合理性だけを考えると、IT企業が集積する渋谷や六本木を選択した方が、効率が良く、有利な選択だろうと思います。でも、経済合理性だけを追求しても、どうも面白くない。カヤックは創業時から『面白法人』を名乗っています。そして『面白さ』は『多様性』だと考えています」

不利であることを認めたうえで選んでいます。「効率が良く、有利な選択だろうと思います」という一文を残したまま、別の理由で決めています。

鎌倉という土地の評価も書かれています。

「鎌倉にはさまざまな魅力がありますが、ベースとなる鎌倉の魅力は『多種多様な価値観を受け入れる土壌』と『新しい文化を生み出す力』と『世界に向けての発信力』です」

観光地としての魅力や、住みやすさではありません。会社が事業をやる場所としての評価の基準で書かれています。

現在の本社は御成町

その後、2007年11月に既存ビルの改装による拡張を行い、2018年11月26日に鎌倉市御成町へ移転しました。現在の本社は御成町にある元銀行の建物です。由比ガ浜の時代から数えると、鎌倉の中で場所を移しながら20年以上が経っています。

ローカルグローススタジオの分析:不利を認めたうえで選ぶという書き方

私たちは地方企業やスタートアップに共通する、低リソース・ブランド無しの戦わない戦略という記事で、資源で劣る側が同じ土俵で正面から競わない方法を書きました。

カヤックの本社移転の説明は、この考え方に近い形をしています。渋谷や六本木のほうが有利だと認め、そのうえで別の基準を選んでいます。不利を隠さずに書くことで、選んだ理由のほうが際立つ構造です。

同じ記事では、戦略とは「戦を略す」と書き、やらないことを決めることだと書きました。カヤックの場合、選んだ場所は「IT企業が少ない土地」でした。IT企業として渋谷にいれば、周囲は同業です。鎌倉にいれば、周囲は同業ではありません。この違いが、後の章で見る地域の活動につながっていきます。場所の選択が、その後に組める相手を変えている例として読めます。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 拠点を選んだ理由を、言葉にして残しているか
  • その理由に、不利な点を認めた記述が含まれているか
  • 場所の評価の基準が、住みやすさではなく事業の基準で書かれているか
  • 周囲にいるのが同業か、そうでないかを意識したことがあるか
  • 拠点を移したあとの変化を、記録に残しているか

事例から読み取れること

1. 不利であることを認めたうえで、別の理由で選んでいる

「有利な選択だろうと思います」と書いたうえで、経済合理性以外の理由を挙げています。選択の説明として、両方を並べている例です。

2. 土地を評価する基準が、事業の言葉で書かれている

「多種多様な価値観を受け入れる土壌」「新しい文化を生み出す力」「世界に向けての発信力」の3つです。いずれも会社の活動と結びつく評価です。

3. 同業が少ない場所を選んでいる

IT企業が集積する場所を避けた結果、周囲に同業がいない環境になりました。この環境が、後の地域活動の相手を変えていると読めます。

5. 上場と、事業の増え方

上場の理由を「関わってくれる人が増えるから」と説明している

2014年12月25日、カヤックは東証マザーズへ上場します。2022年4月の市場区分再編で、現在はグロース市場です。

上場の理由について、柳澤氏はブログで次のように書いています。

「面白法人が2014年に上場してから、『なぜ上場したのですか?』という質問を受ける機会が度々ありました。この質問にシンプルに答えるならこうです。『面白法人に関わってくれる人が増えるから』そして、関わってくれる人が増えることで、僕らの経営理念でもある『つくる人を増やす』ことにつなげたいと思っています。実際のところ、カヤックに関心を持ってくださる人が、上場後に増えたと思います」

資金調達や創業者の利益ではなく、経営理念との接続で説明されています。「つくる人を増やす」という理念に、上場が手段としてつながる形です。

事業は何度も入れ替わっている

2025年12月期の売上高200億9,468万円の内訳は、5区分で次のようになっています。ゲームエンタメが111億8,403万円、eスポーツが31億9,812万円、面白プロデュースが22億1,140万円、その他サービスが20億4,982万円、ちいき資本主義が14億5,129万円です。創業期の中心だったWeb受託は、現在の「面白プロデュース」に含まれ、売上構成では最大の区分ではなくなっています。

ゲーム事業では、ハイパーカジュアルゲームの累計ダウンロードが2025年8月に15億件を超えました。2025年12月期の年間ダウンロード数は約3億4,612万件で、前期比プラス10.8%と過去最高でした。

なくなった事業を、沿革に残している

同じ会社の沿革には、続かなかった事業も残されています。

「目が合うホットドッグ『スマイルドッグ』由比ガ浜海沿いにオープン!100%無添加のホットドッグカフェを湘南鎌倉・由比ヶ浜沿いにオープンいたしました。※震災の影響もありわずか半年で撤退を判断しました。コンセプトは良かっただけに残念」

他にも、2009年に設立した子ども服のアパレルブランド「good evening」には「※2年後に結局なくなりました・・」、2008年に買収した「dododay」には「※2年後に結局なくなりました・・・」と書かれています。

業績の下振れについても、公表されています。

「2018年10月19日、2018年12月期通期業績予想の下方修正を発表いたしました。(中略)業績が予定通りいかなかった要因を一言でいうなら『ゲームの想定の収益との乖離が大きかった』ということです」

沿革は通常、続いている事業と達成したことが並びます。カヤックの沿革は、終わった事業と、終わった理由と、そのときの感想まで同じ場所に置かれています。

ローカルグローススタジオの分析:記録の残し方も、資産の一部になる

私たちは2章でも触れたストックの記事で、一度作ったものが効き続ける構造について書きました。

カヤックの沿革は、成功した事業だけを並べていません。半年で撤退したカフェも、2年でなくなったブランドも、同じ形式で並んでいます。この書き方は、読む側にとって情報量が増えるだけでなく、その会社が失敗をどう扱うかの説明にもなっています。制度を発信物にした構造と、同じ形です。

同じ記事では、ストック型は一度作れば効き続け、積み上がるほど効いてくるとも書きました。事業の内容は入れ替わっても、27年分の記録は残り続けます。何を残し、何を書かないかの積み重ねが、後から差になっている例として読めるかもしれません。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 上場や資金調達の理由を、理念との関係で説明できるか
  • 創業期の主力事業が、現在の売上構成でどの位置にいるか
  • 続かなかった事業を、記録に残しているか
  • 業績が計画に届かなかったときの説明を、公開しているか
  • 記録の残し方そのものが、会社の説明になっているか

事例から読み取れること

1. 上場の理由を「関わってくれる人が増えるから」と説明している

資金調達や創業者の利益ではなく、「つくる人を増やす」という理念との接続で語られています。手段の位置づけ方の例です。

2. 創業期の主力が、現在の最大区分ではなくなっている

Web受託を含む面白プロデュースは22億1,140万円で、ゲームエンタメの111億8,403万円とは差があります。始まりの事業が最大であり続けたわけではありません。

3. なくなった事業を、沿革に残したままにしている

「※2年後に結局なくなりました・・」という記述が、成功した事業と同じ形式で並んでいます。記録の残し方が、会社の姿勢の説明になっている例です。

6. 地域での活動が、事業になっていく

カマコン

2013年、鎌倉で「カマコン」が始まります。地域で何かをやりたい人が集まり、その場に来た全員でブレストをする集まりです。公式サイトには、次のように書かれています。

「この街を熱くしたい人を、ITで全力支援します。カマコンは、鎌倉の魂をもつ人たちが集まる運命共同体です」

カヤックが社内でやってきたブレストの形を、地域の場に持ち込んだ形です。会社の外に出た制度と読むこともできます。

「まちの人事部」

2018年8月22日、鎌倉の会社や団体が集まる「まちの人事部」が発表されます。

「鎌倉で働く人を増やしたい。働く人にとって幸せなまちをつくりたい。そんな思いから、鎌倉の会社・団体が手を携えて『まちの人事部』を立ち上げます」

社内でやっていた「ぜんいん人事部化計画」の考え方が、会社の枠を超えて街の単位に広がっています。制度の名前も似せてあります。

3つの資本という考え方

2017年以降、カヤックは「鎌倉資本主義」「地域資本主義」という言葉で、地域と会社の関係を説明するようになります。

「地域経済資本(財源や生産性)、地域社会資本(人のつながり)、地域環境資本(自然や文化)。この3つの資本を指標化して、バランスよく増やしていくことで、それぞれの地域が多様性ある持続可能な成長を実現できるのではないか。そんな考え方です。(中略)僕たちは、上場企業として、成長や合理性も大切にしています。同時に、地域それぞれの人のつながり、自然や文化といった環境資本を増大していくことで実現できる豊かさもあると考えています」

上場企業としての成長を否定していない点が、この説明の特徴です。3つの資本を並べたうえで、経済資本だけではないという書き方をしています。

まちのコインとスマウト

考え方は、その後にサービスの形になります。コミュニティ通貨「まちのコイン」と、移住スカウトサービス「スマウト」です。

2025年12月末時点で、スマウトの累計登録ユーザーは約8.4万人、導入地域は1,164地域です。全国約1,700自治体の約68.5%にあたると決算短信に書かれています。まちのコインの累計登録ユーザーは21.5万人です。

「ちいき資本主義」区分の売上高は14億5,129万円で、前期比プラス61.3%でした。5区分の中で最も高い成長率です。ただし金額としては、ゲームエンタメの111億8,403万円とは差があります。伸び率の高さと事業の規模は、別の情報として並んでいます。

導入エリアの推移についても、注意が必要です。まちのコインの導入エリアは2026年9月時点で17地域ですが、初期に導入されていた地域と現在の顔ぶれは一致しません。累計ユーザー数は積み上がる一方、エリアの構成は入れ替わっています。撤退の理由は公表資料からは確認できませんでした。

順序は、活動が先で事業が後だった

ここまでの流れを時系列で並べると、カマコンが2013年、鎌倉資本主義の言葉が2017年、まちの人事部が2018年、そしてまちのコインとスマウトがサービスとして育っていきます。地域の活動が先にあり、考え方が言語化され、その後にサービスと売上が付いています。事業計画を作ってから地域に入った順序ではありません。

ローカルグローススタジオの分析:同業でない場所にいたことが、組む相手を変えた

私たちは3章でも触れたマネジメントの記事で、リソースは社内だけでなく、地域の企業や団体との外部ネットワークからも調達できると書きました。

カヤックが鎌倉にいたことで、周囲には同業のIT企業ではなく、地域の事業者や団体がいました。カマコンも、まちの人事部も、この顔ぶれがあって成立しています。渋谷にいた場合に同じ活動ができたかは分かりませんが、少なくとも組む相手の顔ぶれは違っていたと考えられます。4章で見た場所の選択が、6章の事業につながっています。

同じ記事では、地域内の他企業や団体との協力関係が、単独では難しい取り組みを可能にするとも書きました。カヤックの場合、2002年の移転から2013年のカマコンまで11年、そこから売上区分として立つまでにさらに10年ほどが経っています。短い期間で測れる種類のものではないことが、時系列から読めます。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 地域での活動と、自社の事業が時系列でどうつながっているか
  • 社内でやっている仕組みを、社外に持ち出したことがあるか
  • 地域との関係を説明する言葉を、自社で作っているか
  • 伸び率と金額の規模を、分けて見ているか
  • 導入先が入れ替わっていないかを、確認しているか

事例から読み取れること

1. 社内の仕組みが、そのまま地域の場に持ち出されている

ブレストがカマコンに、ぜんいん人事部がまちの人事部に対応しています。名前まで似せてあり、由来が分かる形になっています。

2. 活動が先で、事業化が後という順序になっている

カマコンが2013年、まちのコインとスマウトが売上区分として立つのはその後です。事業計画から入った順序ではありません。

3. 伸び率と規模には差がある

ちいき資本主義区分は前期比プラス61.3%で最も高い成長率ですが、金額は14億5,129万円です。ゲームエンタメの111億8,403万円と並べると、位置づけが変わって見えます。

7. ローカルグローススタジオの視点

冒頭に挙げた7つの観点を、本文で確認した事実で説明し直します。

1. 「何をするか」より「誰とするか」を、創業の起点に置いている

公式サイトには「そもそもカヤックを設立したとき、『何をするか』は一切決まっていませんでした」と書かれています。決まっていたのは3人でやるということだけでした。大学卒業時にあみだくじで進路を分け、2年後に集まるという順序も、会社を作ることが先にあったことを示しています。

事業アイデアが先にある起業の形とは、出発点が違います。何を売るかが決まっていないぶん、後から入れ替えることに抵抗がない体質になったのかもしれません。実際、27年の間に主力事業は入れ替わっています。

2. 3人が対等な代表取締役のまま、20年以上続いている

2005年の株式会社化と同時に3人が代表取締役に就任し、現在も続いています。柳澤氏はこの体制について「3人の代表取締役が並列で存在し、ほぼ等分で株式を保有している会社は、金融機関からはよく『見たことがない』といわれます」と書いています。

意見が割れたときは、第三の案を全員が納得するまで作ります。多数決でも、最終決定権者でもありません。この形は速さを失う代わりに、3人が同じ結論を持つ状態を作ります。柳澤氏自身が「必ずしもよくない面もあります」と書いたうえで、物語を選んだと説明しています。合理性で説明されていない部分に、この会社の性格が出ていると読めるかもしれません。

3. 受託で稼ぎながら、自社の制度を発信物にしている

創業期の収入源はWeb制作の受託でした。同時に、サイコロ給やぜんいん人事部化計画といった制度を作り、その制度自体をニュースとして出しています。受託で食べる仕事と、会社そのものを話題にする活動が、並行して走っていました。

制度の書き方にも特徴があります。ぜんいん人事部化計画は「採用コストが25%下がりました」という数字とセットで沿革に載っています。制度を作った話ではなく、効果まで書かれています。制度が社外向けの説明として機能する形になっている点が、この会社の作り方だと言えるかもしれません。

4. 経済合理性では選ばない場所を、意図して本社にしている

2002年の鎌倉移転について、公式サイトは「経済合理性だけを考えると、IT企業が集積する渋谷や六本木を選択した方が、効率が良く、有利な選択だろうと思います」と書いています。不利であることを認めたうえで、別の理由で選んでいます。

この選択は、後の事業にもつながりました。IT企業が集積する場所を避けた結果、周囲にいたのは同業ではなく地域の事業者や団体でした。カマコンも、まちの人事部も、この顔ぶれの上で成立しています。場所を選ぶことが、組む相手を選ぶことになっていた、と読むこともできます。

5. 上場の理由を「関わってくれる人が増えるから」と説明している

2014年の上場について、柳澤氏は「面白法人に関わってくれる人が増えるから」と書いています。そのうえで「つくる人を増やす」という経営理念につなげたいと続けています。

資金調達額や事業計画ではなく、理念との接続で説明されている点が特徴です。理念が先にあり、上場が手段として位置づけられています。上場という出来事の説明の仕方にも、その会社が何を先に置いているかが出ると言えるかもしれません。

6. 地域での活動が、後から事業になっている

カマコンが2013年、鎌倉資本主義という言葉が2017年、まちの人事部が2018年です。まちのコインとスマウトがサービスとして数字を出すのは、その後になります。活動が先にあり、考え方が言語化され、事業が後から付いてくる順序です。

2025年12月期の「ちいき資本主義」区分は14億5,129万円で、前期比プラス61.3%と最も高い成長率でした。ただし金額としてはゲームエンタメの111億8,403万円と差があります。伸び率の高さと事業の規模は、別の情報として並んでいます。また、まちのコインの導入エリアは入れ替わっており、右肩上がりの1本の線としては読めない部分もあります。

7. なくなった事業を、沿革に残したままにしている

2011年のホットドッグカフェには「※震災の影響もありわずか半年で撤退を判断しました。コンセプトは良かっただけに残念」、2009年のアパレルブランドには「※2年後に結局なくなりました・・」と書かれています。2018年の業績下方修正についても、理由が公開されています。

沿革は通常、続いている事業と達成したことが並ぶ場所です。カヤックの場合は、終わった事業も同じ形式で残っています。制度を発信物にしたことと、この書き方は同じ性質を持っています。何を書き、何を書かないかの積み重ねが、27年分の記録として残っている例として読めます。

本事例から見える経営とマーケティングの学び

カヤックの物語は、事業の中身が決まらないまま3人で会社を作り、受託で食べながら制度と名乗りを積み、鎌倉という場所を選んだことで組む相手が変わり、地域の活動が後から事業になった、という順序で読めます。何を売るかから始まっていないぶん、途中で入れ替わることに抵抗がない体質になったのかもしれません。

上の分析で触れたとおり、この事例には4つの見方が重なっています。最初に決められたのが事業領域ではなく意思決定の形だったこと、拠点の選択で正面から競わない道を選んだこと、名乗りと制度と記録が27年分の積み上げになったこと、そして周囲に同業がいない環境が後の事業につながったことです。

同時に、この事例には確認が難しい部分もあります。地域事業の導入エリアは入れ替わっており、拡大の1本の線としては読めません。撤退の理由も公表資料からは分かりませんでした。制度についても、ぜんいん社長合宿のようにコロナ禍で中断した時期があります。長く続いている会社ほど、続いているものと途切れたものを分けて見る材料が要る、という点も持ち帰れる部分です。

「ビジネス知の機会格差をなくす」という私たちのミッションに向けて、これからも実践的で価値ある情報を発信していきます。この記事の内容について、さらに詳しく知りたい方は、ぜひご連絡ください。