先進企業に学ぶ(起業編) – サグリ株式会社|ルワンダで見た現実から、衛星データで農地を測る会社を兵庫県丹波市に作るまで

ローカルグローススタジオは、『地方企業にスタートアップのような成長を』というテーマで、コンテンツ発信と支援サービスを展開しています。この記事では、実践的なビジネスノウハウを、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。

今回取り上げるのは、兵庫県丹波市氷上町に本社を置くサグリ株式会社です。代表取締役の坪井俊輔氏が2018年6月に設立し、衛星データと機械学習で農地を解析するサービスを自治体と農家へ提供しています。社名は Satellite(人工衛星)、AI(機械学習)、Grid(区画技術)の頭文字です。

この記事は、地方でゼロから会社を作った事例を扱う「起業編」の1本です。何を見て始め、最初にお金を払ってくれる相手をどこに置き、その後どの順で資産を積んだかを、継ぐ会社も買う会社もない状態から事業を作った人の判断で読み解きます。

この記事の要約

先にストーリーの全体像です。坪井俊輔氏は横浜国立大学の在学中、2016年に宇宙教育の会社を立ち上げました。その事業でルワンダに約1か月滞在し、夢を語った子どもたちのほとんどが中学校へ進めず、農家である親の仕事を手伝うしかないという現実に直面します。教育だけでは届かないと考えていたところに、欧州の人工衛星データが無償で商業利用できるというニュースが入りました。2018年6月、兵庫県丹波市でサグリを設立します。最初に事業を立ち上げたのはインドで、農家の信用力を衛星データで可視化してマイクロファイナンスにつなげる形でした。ところが新型コロナウイルスの流行で渡航できなくなり、国内の課題へ向き直ります。茨城県の実証事業で耕作放棄地の調査という自治体の負担を知り、衛星画像とAIで判定する「アクタバ」を作りました。当時の農地調査は目視が前提で、衛星データの利用は想定されていません。それでも実証を重ね、2021年度に岐阜県下呂市が導入し、2022年6月に国の実施要領が変わりました。2024年8月にはシリーズAで約10億円を調達し、脱炭素とカーボンクレジットの領域へ広げています。

このストーリーから持ち帰れる観点は、次の7つです。それぞれ本文の章で事実を確認し、最後の7章で説明し直します。

1. 創業の起点が、事業のアイデアではなく現地で見た事実だった(1章)

2. 最初に立ち上げた海外事業が止まり、国内の課題へ向き直っている(2章)

3. 制度が変わる前から実証を重ね、導入する自治体が先に現れている(3章)

4. 足りない専門性を、大学と外部の人材で埋めている(4章)

5. 欧米の技術が届かない条件を、自社の土俵にしている(5章)

6. 受賞と公的評価を、営業の前提として積み上げている(6章)

7. 本人の説明が、時期によって慎重な言い方に変わっている(全体)

各章の末尾に、ローカルグローススタジオの分析と「この事例から考えられること」をまとめています。

参考資料一覧

数字で見るサグリ

時点数字出典
2016年6月坪井俊輔氏が大学3年で株式会社うちゅうを設立(宇宙教育)本人談、公式プロフィール
2018年6月14日兵庫県丹波市でサグリ株式会社を設立(設立時の社名はSAgri株式会社)gBizINFO(法人番号6140001110423)
2019年9月5日インド子会社 SAGRI BENGALURU PRIVATE LIMITED の登記完了農林水産省 検討会での坪井氏説明資料
2021年1月岐阜大学の田中貴氏が取締役CTOに就任(2024年1月にCROへ)公式発表
2021年6月2日約1億5,500万円を調達(リード=リアルテックファンド、ほか地域金融機関系VC)PR TIMES
2021年度岐阜県下呂市がアクタバを導入(国のルール変更より前)METI Journal、公式
2022年3月下呂市農業委員会が農林水産大臣賞を受賞EMIRA
2022年3月24日岐阜大学発ベンチャーの称号を授与公式発表
2022年6月農地パトロール(利用状況調査)の実施要領が変更され、衛星やドローンによる画面上の目視確認が認められるEMIRA、公式発表
2023年6月デタバの全国初導入が青森県大鰐町で決定PR TIMES
2024年1月CTOに元メルカリ米法人の牧野直矢氏、CFOに世界銀行グループ出身の石坪弘也氏が就任公式発表
2024年8月8日シリーズAで約10億円を調達。評価額45億円PR TIMES、Business Insider
2025年度従業員63名(業務委託を含む)、平均年齢34.8歳、中途採用比率92.3%公式 採用ページ
現在資本金3,000万円(2024年4月と2025年4月に減資公告)公式 会社概要
現在アクタバの判定精度は約9割。100を超える自治体で導入と実証日本経済新聞、Business Insider

数字の読み方を、先に3点断っておきます。1つは「100自治体」の中身です。これは導入と実証を合わせた数で、坪井氏自身が2024年9月の取材で「有償で利用されているのは数十といったところ」と説明しています。2つ目は、サグリが非上場のため決算が公表されていないことです。売上や利益の数字は本人発表しか存在しないため、この記事では使いません。3つ目は資本金で、2024年4月と2025年4月に減資の公告が出ており、公告のPDF原本を確認できていないため、現在の公式サイト表示のみを載せています。

1. 大学3年で始めた宇宙教育と、ルワンダで見た現実

宇宙を夢見た学生が、教育の会社を作った

坪井俊輔氏は1994年、神奈川県に生まれました。2014年に横浜国立大学理工学部の機械工学・材料系へ入学し、大学3年だった2016年6月、宇宙を切り口にした小学生向けの教育事業として株式会社うちゅうを設立します。NPO法人ETIC.が主催する「Makers University」の1期生にも採択されました。

出発点は、本人の夢でした。

「私は子どもの頃から宇宙飛行士や宇宙エレベータの開発という夢を持ち…(中略)…教育分野のプログラムの一環で訪れたルワンダで、私の人生は大きく変わることになりました」

ルワンダで、夢を聞いた後に聞いた話

その教育事業でルワンダに約1か月滞在したことが、次の会社につながります。

「現地に約1ヶ月滞在し、小学生へ授業を提供しながらさまざまな夢を語ってもらったのですが、実はその子ども達のほとんどが中学・高校には行けないということを知ったんです。当時ルワンダでは全労働人口の約60%が農業従事者で、子どもたちの家庭も多くは農家。親の仕事を手伝わなければならず、そうなると学校に行けなくなってしまうんです。…自分が考えていた前提が、足元から崩れ落ちるような体験にとてもショックを受けました」

別の取材でも、同じ構造を説明しています。

「学生時代に、ルワンダで小学生向けに宇宙に関する教室を開いた際、将来の夢があっても中学校、高校に行けない厳しい現実を目の当たりにした。地元で農業を営む親たちの所得向上が不可欠だと感じた」

教育の会社を作った人が、教育では届かない場所を見つけた場面です。子どもが学校へ行けない理由が、親の農業の所得にあると分かったとき、扱う課題が教育から農業へ移りました。

帰国後に、衛星データのニュースを聞いた

課題は見えても、手段がありません。手段は、帰国してから届きました。

「日本に帰ってきてほどなく、ヨーロッパの人工衛星による観測データが無料で商業利用できるというニュースを聞きました。そのとき、『このデータは農業の効率化にも活かせるのでは』と考えました」

欧州のSentinel-2の観測データが日本でも無償で使えるようになったのは2017年です。人工衛星は広い範囲を一度に撮影でき、過去から現在への変化も追えます。データの量が大きいため、機械学習との相性も良くなります。

2018年6月14日、坪井氏は兵庫県丹波市でサグリ株式会社を設立しました。同時期に、株式会社うちゅうの代表からは退いています。課題を見つけた会社を残したまま兼務するのではなく、片方を降りて新しい会社に集中する形を取りました。

ローカルグローススタジオの分析:何のための事業かを、先に決めている

私たちは間違ってはいけない戦略の順番|ビジョン→事業→商品→営業→組織という記事で、戦略には順番があり、最初に「何のために事業をやるか」を決めるという考え方を書きました。手元の技術や資源から考え始めると、その延長線しか出てきません。

サグリを読み解くと、最初に決められたのは「子どもが学校へ行けるようにする」という目的で、私たちが記事に書いた順番と同じ考えが表れています。教育の会社を作ったのも、農業の会社を作ったのも、同じ目的からの手段の変更でした。手段が変わっても目的が変わっていないため、事業の乗り換えではなく、同じ問いへの2度目の回答になっています。

同記事では、「何のために」が決まっていれば、その下の判断が速くなるとも書きました。教育の会社の代表を退いて新しい会社に集中するという判断も、目的から見れば選択の余地が小さくなります。COOの益田周氏は、この経緯を「彼は教育に限界を感じ」と説明しています。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 自社の事業が、どの課題を解くために始まったかを説明できるか
  • その課題を、現地や現場で自分の目で見たことがあるか
  • 課題は同じまま、手段だけを変える余地があるか
  • 使える技術やデータが、無償または低コストで手に入る領域はないか
  • 2つの事業を兼務している場合、どちらを降りるかを考えたことがあるか

事例から読み取れること

1. 創業の起点が、事業のアイデアではなく現地で見た事実だった

夢を語った子どもたちが進学できないという事実を、1か月の滞在で自分の目で見ています。市場調査や事業計画からではなく、現場で崩れた前提から始まった例と読めます。

2. 課題は変えず、手段を教育から農業へ移している

教育の会社を作った後で、教育では届かない構造に気づき、農業へ移りました。事業を乗り換えたのではなく、同じ目的への手段を変えた形です。

3. 手段が、無償で使えるデータの登場によって成立している

欧州の衛星データが無償で商業利用できるようになったことが、この事業の前提です。手段の側の変化を捉えていたことが、着想と創業をつなげています。

2. インドで始めて、コロナで日本へ戻された

最初の事業は、日本ではなくインドだった

サグリが最初に事業を立ち上げたのは、日本国内ではありません。2019年9月5日、インドのベンガルールに子会社SAGRI BENGALURU PRIVATE LIMITEDを設立しています。

インドで取ったのは、農家へ直接売る形ではありませんでした。衛星データで農地を解析して農家の所得を予測し、そのデータをマイクロファイナンスの事業者へ提供する形です。融資の判断材料を作ることで、農家が資金を借りやすくなるという設計でした。

ルワンダで見た「農家の所得が低いから子どもが進学できない」という構造に対して、所得そのものではなく、資金にアクセスできるかどうかから入っています。

渡航できなくなり、日本の課題に向き直った

ところが、この事業は続けられなくなります。

「試行錯誤でしたが、農家向けのマイクロファイナンスの事業を始めたのです。…現地法人も立ち上げ、少しずつビジネスが回り始めてきた矢先、新型コロナウイルス感染症の流行で世界の経済が止まりました。インドに渡航できず、日本から出られなくなりました。このままだと会社が潰れてしまうという危機感もあり、腹をくくって日本の課題に向き合い始めたのです」

海外で始めた事業が物理的に動かせなくなり、国内へ向き直ったという転換が、後の主力事業を生みます。

自治体の担当者から、課題を教えられた

国内で何をするかは、行政との実証事業のなかで見つかりました。COOの益田周氏の説明です。

「当時、茨城県の『いばらき宇宙ビジネス事業化実証プロジェクト』に取り組むことになり、県の農業関係者から耕作放棄地という課題があることを教えていただいたんです。…その作業をする中でエンジニアから、『農地を解析するために(手作業で)区画を作るのは時間がもったいない』という話になり、農地のポリゴンをAIで作ったら楽ができるかも? というポップなマインドで取り組み始めたのが、『アクタバ』のきっかけでした」

課題は県の担当者から、解き方の入口は自社のエンジニアから出ています。農地の区画を人手で作る作業が重いという社内の不満が、AIで自動生成するという技術につながりました。この農地区画の自動生成技術は、後に特許として登録されています(特許第7053083号、出願2020年1月30日)。

なお、国内向けの営農アプリ「Sagri」は創業時から存在していましたが、当初は伸びていません。

「農家さんが衛星データのようにわかりにくいものにお金を出して使ってくれるかというと、そう簡単ではなかったんです」

農家向けのアプリが伸び悩んだ後、自治体向けのアクタバへ主力が移り、2021年に岐阜大学の田中貴氏が加わってから農家向けの「Sagri」が作り直されています。順序としては、農家向けで一度つまずき、自治体向けで足場を作ってから、農家向けへ戻ったことになります。

この事例から考えられること

1. 最初に立ち上げた事業が、外部の事情で止まっている

渡航できなくなったことは、事業の巧拙とは関係のない理由です。海外を先に選んだ判断が、この形で止まりうるという記録として読めます。

2. 止まった後に、国内の課題へ向き直っている

「このままだと会社が潰れてしまう」という状況から、日本の課題へ向き合い始めたと本人が語っています。撤退ではなく、同じ技術の向け先を変えた形です。

3. 最初の顧客が、農家ではなく自治体になっている

農家向けのアプリは当初伸びませんでした。一方、自治体には耕作放棄地の調査という明確な業務負担があり、そこが最初にお金の出る場所になりました。誰が困っていて、誰が予算を持っているかは別だという読み方ができます。

3. ルールが変わる前に、導入する自治体が現れた

アクタバとデタバが解いた業務

サグリの中核は、自治体の農業委員会や地域農業再生協議会に向けた農地管理のサービスです。

アクタバは耕作放棄地のパトロール調査を支援します。衛星画像とAIで農地1筆ごとの耕作放棄の度合いを判定し、地図の上に赤の濃淡で表示します。判定精度は約9割とされ、100を超える自治体で導入と実証が進んでいます。デタバは作付けの調査を支援するもので、営農計画書で申請された作物が実際に作られているかを衛星データで判定し、申請と違う可能性が高い農地だけに現地調査を絞れるようにします。

それまでの調査は、職員が紙の地図を持って現場まで車で行き、目で見て確認するというものでした。赤の濃い場所だけを見に行けばよいという形に変わります。

制度は、衛星データを想定していなかった

ここで問題になったのが、制度の側でした。

「農地法では、衛星データで調査することは想定されていないため、耕作放棄地は道路から目視することになっています。そこでまずは40以上の市町村で実証実験を重ね、その精度を確認していき、22年に下呂市での導入が決まりました。昨年には、目視というルールそのものが変わっています」

順序が語られています。ルールが変わるのを待たずに実証を重ね、その積み上げの上に導入が決まり、後からルールが変わりました。

「日本でこの事業を始めようとした当初、農地調査は目視というルールがありました。衛星データの利活用は認められていなかったのです。けれど、それはおかしいと思ったので、現場の声をとにかく届けていこうと、衛星利用の実証例をたくさん作りました。すると、ルールがまだ変わっていないのにもかかわらず、2021年度に岐阜県下呂市が『日本の農業に必要だ』と言って導入してくれた。…そして2022年度に国のルールが変わり、衛星データを農地調査に利用できるようになりました。自分たちだけで切り開いたと言うつもりはありませんし、国も変えようと動いていたのだと思います。それでも、ルールが変わる前から取り組み、良い結果を出してきたことで、いま僕たちがダントツで走っているという自負はあります」

制度の変更については、公的資料の側にも記録があります。農林水産省が2020年度にPwCへ委託した実証事業では、サグリを含む5社の効率化ソリューションが比較検証され、その報告書に「利用状況調査のルール等を規定する文書内で目視確認を前提とした記載について、変更を行う必要がある」と書かれています。坪井氏は2019年から農林水産省の「デジタル地図」検討会の委員でもありました。2022年5月時点のサグリの発表にも、農林水産省が同年6月頃までに運用通知を改正する方向で調整している旨が記されています。

この経緯について、サグリ単独がルールを変えたという書き方は、本人の後年の説明とも一致しません。複数の実証事業者の1社として検討の過程に参加し、実証の実績を積んだ、という整理がこの記事の立場です。

「初導入」を、地域ごとに積み上げた

導入の広がり方にも特徴があります。全国一斉ではなく、地域ごとに1件目を作る形です。アクタバを全国で初めて導入したのは岐阜県下呂市の農業委員会で、同委員会はその後、農林水産大臣賞を受賞しました。中国・四国では2022年5月に広島県尾道市が最初の導入となっています。デタバは2023年6月に青森県大鰐町が全国初、2023年7月には本社のある兵庫県丹波市が関西で最初の試験導入になりました。

なお、報道や資料のなかには「関東初として千葉市」「関西では神戸市」という記述もありますが、この2件については「初」であることを明記した一次資料を確認できていないため、この記事では地域名の列挙にとどめます。

ローカルグローススタジオの分析:実績そのものが、積み上がる資産になっている

顧客獲得コストを下げるには「ストック>フロー」を意識しようで、私たちは、止めれば効果が消えるフロー型の施策と、一度作れば効き続けるストック型の資産を分けて考えるという考え方を書きました。予算の限られる企業ほど、ストック型の比重を上げる意味が大きくなります。

サグリが積み上げたのは、広告ではなく導入の実績でした。40を超える市町村での実証、下呂市の導入、その委員会の農林水産大臣賞、地域ごとの初導入は、1件ごとに次の営業の材料になり、後から消えません。自治体という顧客の性格上、他の自治体の導入実績がそのまま検討の理由になります。

同記事では、ストック型は効果が出るまで時間がかかるとも書きました。サグリの場合、実証を始めてから制度が変わるまでに数年かかっています。その間、制度が変わらなければ売れないという不確実さを抱えたまま実証を続けたことになります。

この事例から考えられること

1. 制度が変わる前から、実証を重ねている

40を超える市町村での実証が、制度の変更より先にありました。制度の側が変わるのを待つのではなく、変える材料を作る側に回った形です。

2. 制度より先に、導入する自治体が現れている

2021年度に下呂市が導入したのは、ルールが変わる前です。制度が整うのを待たずに動いた自治体があったことが、その後の展開につながりました。

3. 「初導入」を、地域ごとに作っている

全国一斉ではなく、地域ごとに最初の1件を取る形です。1件目の実績が、同じ地域の次の自治体にとって検討の材料になっています。

4. 岐阜大学と、外から来た経営チーム

農学の専門性を、大学から入れた

サグリのもう1つの柱が、岐阜大学との連携です。2022年3月24日に岐阜大学発ベンチャーの称号を授与され、農林水産技術等大学発ベンチャーにも認定されています。

「弊社は、岐阜大学と連携をし、衛星データから、農地土壌の化学性評価を行う技術を確立しました」

中心になったのが、田中貴氏です。岐阜大学応用生物科学部で作物栽培学を専門とし、人工衛星やドローンによるリモートセンシングと機械学習を組み合わせて農業者の意思決定を支援する研究を行ってきました。2021年1月に取締役CTOへ就任し、2024年1月にCROへ役割を移しています。

出会いの経緯も語られています。

「岐阜大学でデータ駆動型農業を研究していた田中貴と出会いました。彼は彼でデータ駆動型農業の研究成果を発表していたのですが、サグリのテクノロジーにない農学の観点・技術を見て『一緒にやりませんか?』と岐阜県まで押しかけて協力してもらうこととなり、再ローンチしたのが現在の『Sagri』です」

衛星データを扱う技術はあっても、土壌や作物の側の知見が社内にありませんでした。その部分を、大学の研究者を経営に入れることで埋めています。伸び悩んでいた農家向けアプリが作り直されたのも、この後です。

都市と国際機関の人材を、経営チームに入れた

2024年1月には経営体制が変わりました。CTOには元メルカリ米法人のシニアエンジニアリングマネージャーである牧野直矢氏、CFOには世界銀行グループ出身の石坪弘也氏が就任しています。同時期に、元メルカリGroup CTOの若狹建氏が技術アドバイザーに就いた発表もありました。

本社は兵庫県丹波市のままです。東京と浜松にも拠点があり、組織は分散した形で運営されています。2025年度の公式データでは従業員63名、平均年齢34.8歳、中途採用比率92.3%です。

ローカルグローススタジオの分析:足りない機能を、雇用ではなく組み方で埋めている

マネジメントとは、今のリソースでやりくりすること、リソース調達力を上げることで、私たちはマネジメントの本質を2つに整理しました。1つは今あるリソースで成果を出すやりくり、もう1つはリソース調達力を高めることです。後者の具体策として、外部ネットワークを作り、必要なときに適切なリソースへアクセスできる関係を持つことを挙げました。

サグリが埋めたのは、農学とグローバル経営という2つの機能です。農学は岐阜大学の研究者を役員に迎える形で、グローバル経営は米国企業と国際機関の出身者を採る形で確保しました。どちらも、地方に本社を置く創業数年の会社が社内で育てるには時間がかかる領域です。

同記事では、ビジョンの力で人を引き寄せることもリソース調達の方法だと書きました。田中氏の参画は、坪井氏が岐阜県まで出向いて誘ったところから始まっています。報酬や条件の前に、同じ課題に取り組んでいる人を見つけて直接会いに行くという動き方です。

この事例から考えられること

1. 足りない専門性を、大学から役員として入れている

衛星データの技術はあっても、土壌と作物の知見が社内にありませんでした。その部分を、研究者を経営に迎える形で埋めています。

2. 誘い方が、直接会いに行く形だった

「岐阜県まで押しかけて」という言い方のとおり、本人が出向いています。同じ課題に取り組んでいる人を見つけたときの動き方として読めます。

3. 本社を移さずに、経営チームを分散させている

本社は兵庫県丹波市のまま、東京と浜松に拠点を置き、米国企業や国際機関の出身者が経営に加わっています。拠点の場所と、集められる人材の範囲は別だという読み方ができます。

5. 小さく分散した農地という土俵

肥料を減らすという、2つ目の柱

自治体向けの事業に続く2つ目の柱が、農家の肥料を減らす取り組みと、そこから生まれるカーボンクレジットです。

「肥料は農業には欠かせない資材ですが、価格が高騰しており、コロナ禍前の約2倍になっています。…『サグリ』を利用されている農家さんの場合、平均して肥料代の2割削減を実現しています」

肥料を減らしたいと考えても、土の状態が分からなければ減らせません。従来の土壌分析は試薬を使う手間と費用のかかる作業でした。サグリは衛星データから土壌の状態を推定する技術を作り、アプリで農地の区画を選ぶだけで結果が見られるようにしています。

なお「2割の削減」という数字は、複数の時期のインタビューで一貫して語られていますが、いずれもサグリ側の発表です。第三者による検証を示す資料は確認できていません。

化学肥料を減らすと温室効果ガスの排出が減り、カーボンクレジットにつながります。COOの益田氏の説明です。

「『Sagri』の土壌解析技術を使うことで、カーボンクレジットに適用できるようにしました。…困った農家さんに『Sagri』を使っていただいて、温室効果ガスを減らすというエビデンスを得ることで、カーボンクレジットに取り組む企業からお金をいただき、それをさらに農家さんに還元するという仕組みができるようになりました。これこそまさに、アフリカで感じた『貧困=農業』の解決策のひとつになるかもしれない」

農家からお金を取らず、クレジットを買う企業から受け取る設計です。所得の低い農家ほど参加しやすくなります。

ただし、この事業の進み方については注意が必要です。国際的な民間のカーボンクレジット認証制度であるVerraについて、サグリは2023年9月の登壇でアジア初の肥料削減プロジェクトの登録が承認されたと述べています。一方、公開資料で確認できるのは、2024年12月に発表されたベトナムでの協業と、2025年10月28日に発表された「パブリックコメント開始」までです。登録が完了した段階を示す資料は確認できていないため、この記事では登録済みとは書きません。

欧米の技術が届かない条件を、土俵にしている

海外へ向かう理由として、坪井氏が繰り返し語っているのが農地の大きさです。

「例えばアメリカなら、農地がとにかく広い。それに比べて日本の農地はとても小さい。ですから欧米のデータ技術はうまくフィットしません。そこでわれわれは狭い農地で使える技術を開発してきました。これは日本だけではなく、やはり農地の狭いアジアやアフリカでも使えますから事業を拡大できる可能性があります」

「一方、我々は小規模な農地でも使えるサービスを提供している。ターゲットにしている東南アジアなどの新興国市場では、小規模農家のほうが多いからです。小規模農地で学習したモデルは大規模農地にも応用できますが、その逆は難しい」

日本の農地が小さく分散しているという条件は、国内では効率を下げる要因として語られます。同じ条件が、アジアやアフリカへ出るときには技術の適合性に変わっています。

ローカルグローススタジオの分析:不利な条件を、そのまま土俵にしている

地方企業やスタートアップに共通する、低リソース・ブランド無しの戦わない戦略で、私たちは、資源の限られる企業が大手と同じ土俵で競わない方法を書きました。同じ市場で正面から戦えば、資本と物量の差がそのまま結果になります。

サグリが選んだのは、欧米のスタートアップが対象にしていない条件でした。広大な1枚の農地を前提にした技術は、小さく分散した農地には合いません。日本で開発せざるを得なかった「小さい農地で使える技術」が、そのままアジアとアフリカで通用する、という組み立てです。

同記事では、自社の強みを活かせる市場や手法を選ぶ方法も書きました。ここで効いているのは、条件を選び直したことではなく、置かれた条件から出発したことです。日本の農地が小さいという事実は変えられません。その条件でしか作れない技術を作った結果、同じ条件を持つ市場が土俵になりました。

なお、坪井氏はICCの登壇でこの市場について「サグリが独占しています」と述べていますが、同じ本人が2024年8月の取材では「国内では追われる立場になっています」「海外では我々より大きなスタートアップは複数あります」と語っています。この記事では、独占という表現は使いません。

この事例から考えられること

1. 不利とされる条件から、技術が生まれている

日本の農地が小さく分散しているという条件は、国内では効率を下げる要因です。その条件で使える技術を作ったことが、同じ条件の市場での強みになっています。

2. 農家からお金を取らない設計になっている

カーボンクレジットの仲介手数料で成り立つため、農家の負担がありません。所得の低い相手を対象にするときの、費用の置き場所の例として読めます。

3. 同じ人の説明が、場面によって強さを変えている

「独占しています」という登壇での言い方と、「追われる立場になっています」という取材での言い方が併存しています。どちらを事実として扱うかは、読む側が資料を突き合わせて判断する部分です。

6. 受賞と資金調達を、順に積み上げる

公的な評価が、営業の前提になっている

サグリは創業から数年のあいだに、受賞と公的な選定を続けて受けています。主なものを並べます。

  • 2019年7月 Singularity University主催「Japan Global Impact Challenge 2019」優勝
  • 2021年11月 坪井俊輔氏がMIT Technology Review「Innovators Under 35 Japan」に選出
  • 2022年3月 岐阜大学発ベンチャー、農林水産技術等大学発ベンチャーに認定
  • 2022年8月 Forbes JAPAN「30 Under 30」社会的インパクト部門に選出
  • 2023年4月 経済産業省「J-Startup 2023」に選定
  • 2023年10月 経済産業省「J-Startup Impact」に選定
  • 2024年 内閣府「第6回宇宙開発利用大賞 内閣総理大臣賞」を受賞(受賞テーマは衛星データを活用した土壌分析技術および農地区画化技術。内閣府の公開資料は2024年3月付)
  • 2025年7月 農林水産省「インパクト・ソリューション」に選定
  • 2025年10月 EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー2025ジャパン関西大会 Challenging Spirit部門大賞

自治体に売る事業では、公的な評価がそのまま検討の前提になります。海外で現地のパートナーと組むときにも、実績の説明が短くなります。

資金調達は、2回に分かれている

資金調達は、2021年と2024年の2回が公開されています。

2021年6月2日、約1億5,500万円を調達しました。リードはリアルテックファンドで、みなとキャピタル、池田泉州キャピタル、広島ベンチャーキャピタル、ひょうご神戸スタートアップファンドなど、地域の金融機関系のファンドが並んでいます。

2024年8月8日には、シリーズAで約10億円を調達しました。

「シリーズAは5000万円程度のチケットサイズが多いので結果的に投資家の数が多くなりましたが、10億円のうち、千葉道場さんとグローバル・ブレインさんに半分以上を出資いただいています」

「今回の調達でサグリの評価額は45億円になりました。衛星データの解析ビジネスを展開している国内のスタートアップではトップクラスで、国内では追われる立場になっています」

事業会社としてキヤノンマーケティングジャパン、キリンホールディングス、島津製作所、ヤマト運輸などが参加しています。調達の直後から、海外の人員を増やす方向が語られました。

失敗も、記録に残っている

技術の開発が最初からうまくいったわけではありません。

「衛星データで炭素量が推定できるという論文はありましたが、それを実証しなければなりません。そこで最初は100カ所ぐらいから土を採取して、衛星データと比較し、相関関係を調べましたが全然うまくいかなかった」

論文にある技術を、自分たちの現場で再現できるかは別です。100か所の土を採取して比較する作業から始めています。

ローカルグローススタジオの分析:外部資本を入れて、時間を買っている

地方経営者、地方人材向け:スタートアップとは何か?で、私たちは、スタートアップが急成長を前提に外部資本を入れ、数年単位で事業を作る形だと整理しました。自己資金の範囲で少しずつ伸ばす形とは、時間の使い方が違います。

サグリは、2021年に地域の金融機関系ファンドから約1.5億円、2024年に約10億円を調達しています。1回目は事業を作る資金、2回目は海外へ広げる資金という性格の違いがあり、間に3年の実績づくりが挟まっています。実証を重ねて制度が変わるのを待つあいだ、売上だけでは支えきれない期間を外部資本が埋めた形です。

同記事では、ステージごとに調達の意味が変わるとも書きました。1回目の調達に地域の金融機関系ファンドが並んでいることは、本社が兵庫県にあることと無関係ではなさそうです。2回目では事業会社が並び、投資家の性格が変わっています。

この事例から考えられること

1. 受賞と公的な選定が、営業の前提になっている

自治体に売る事業と、海外で現地パートナーと組む事業の両方で、公的な評価が説明を短くしています。選定を取りに行くこと自体が、営業の準備になっている例です。

2. 調達が、地域のファンドから事業会社へ移っている

1回目は地域の金融機関系ファンド、2回目は事業会社が並びました。ステージによって、組む相手の性格が変わっています。

3. 論文の技術を、自分たちの現場で検証し直している

100か所の土を採取して衛星データと比較し、最初はうまくいかなかったと語られています。既存の研究があることと、自社で再現できることは別だという記録です。

7. ローカルグローススタジオの視点

冒頭に挙げた7つの観点を、本文で確認した事実で説明し直します。

1. 創業の起点が、事業のアイデアではなく現地で見た事実だった

ルワンダに1か月滞在し、夢を語った子どもたちのほとんどが進学できないという事実を自分の目で見ています。「自分が考えていた前提が、足元から崩れ落ちるような体験」という言い方のとおり、既存の事業の前提が崩れたところから次の会社が始まりました。

2. 最初に立ち上げた海外事業が止まり、国内の課題へ向き直っている

2019年にインドで始めたマイクロファイナンス向けのデータ提供は、渡航できなくなったことで動かせなくなりました。そこから国内へ向き直り、茨城県の実証事業で耕作放棄地という課題に出会っています。事業が止まった理由と、次の事業が生まれた経緯が、同じ時期に重なっています。

3. 制度が変わる前から実証を重ね、導入する自治体が先に現れている

農地調査は目視が前提で、衛星データの利用は制度上想定されていませんでした。それでも40を超える市町村で実証を重ね、2021年度に下呂市が導入し、2022年6月に実施要領が変わっています。ただし、サグリ単独がルールを変えたという書き方は本人の後年の説明とも一致せず、複数の実証事業者の1社として検討に参加したという整理が実態に近いものです。

4. 足りない専門性を、大学と外部の人材で埋めている

農学の知見は岐阜大学の田中貴氏を役員に迎えることで、グローバル経営は元メルカリ米法人と世界銀行グループの出身者を採ることで確保しました。本社は兵庫県丹波市のまま、拠点と人材を分散させています。

5. 欧米の技術が届かない条件を、自社の土俵にしている

日本の農地は小さく分散しており、広大な農地を前提にした欧米の技術は合いません。その条件で使える技術を作った結果、同じ条件を持つアジアとアフリカが市場になりました。不利とされる条件から出発したことが、結果として競合の少ない場所につながっています。

6. 受賞と公的評価を、営業の前提として積み上げている

大学発ベンチャーの認定、内閣総理大臣賞、経済産業省の選定、農林水産省の選定は、自治体に売る事業でも、海外で組む事業でも、説明の手間を減らしています。広告ではなく実績が積み上がる形です。

7. 本人の説明が、時期によって慎重な言い方に変わっている

2023年の登壇では「国が定める目視調査のルールを変更し」「この市場をサグリが独占しています」と語られていますが、2025年の取材では「自分たちだけで切り開いたと言うつもりはありません」、2024年の取材では「国内では追われる立場になっています」と述べています。事例を読むときに、どの場面での発言かを確かめる必要がある例として、この記事では両方を並べました。

本事例から見える経営とマーケティングの学び

サグリの物語は、継ぐ会社も買う会社もない状態から、地方に本社を置いて事業を作った事例として読めます。順序をたどると、次の並びになります。

  • ルワンダで現地の事実を見て課題を決めた
  • 手段を教育から農業へ変えた
  • 海外で先に始めて止まった
  • 国内の自治体という予算のある相手で足場を作った
  • その実績を持って農家と海外へ広げた

最初から一直線に進んだのではなく、止まった場所で向きを変えた回数のほうが多い経路です。

この事例では、事業の起点が技術でも市場調査でもなく、現地で崩れた前提にありました。衛星データが無償になったというニュースは、同じ時期に多くの人が目にしています。それを農業の課題に結びつけられたのは、先に解きたい課題を持っていたからでした。

同時に、この事例は事実の確認が難しい対象でもあります。非上場のため決算が公表されず、売上も利益も本人発表しか存在しません。「独占」「アジア初」といった表現は、同じ本人の別の発言や公開資料と突き合わせると成り立ちませんでした。この会社では、語られる物語と確認できる事実の距離が開いている場面があり、その点もこの事例から持ち帰れる部分です。

「ビジネス知の機会格差をなくす」という私たちのミッションに向けて、これからも実践的で価値ある情報を発信していきます。この記事の内容について、さらに詳しく知りたい方は、ぜひご連絡ください。