先進企業に学ぶ(起業編) – OWB(小高ワーカーズベース)|人が住めない街で、誰もやりたがらない場所という条件から事業を始めた

ローカルグローススタジオは、『地方企業にスタートアップのような成長を』というテーマで、コンテンツ発信と支援サービスを展開しています。この記事では、実践的なビジネスノウハウを、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。

今回取り上げるのは、福島県南相馬市小高区のOWB株式会社(小高ワーカーズベース)です。和田智行氏が2014年に立ち上げました。原発事故によって避難指示が出され、住民が住めない状態だった地域で、コワーキングスペース、食堂、仮設スーパー、ガラス工房と事業を作ってきました。掲げているのは「地域の100の課題から100のビジネスを創出する」という目標です。

この記事は、地方でゼロから会社を作った事例を扱う「起業編」の1本です。何を見て始め、最初にお金を払ってくれる相手をどこに置き、その後どの順で資産を積んだかを、継ぐ会社も買う会社もない状態から事業を作った人の判断で読み解きます。

この記事の要約

先にストーリーの全体像です。小高区の震災前の住民登録人口は1万2,842人でした。原発事故で避難指示が出され、住民は住めなくなります。2014年、日中の滞在が許可されるようになったタイミングで、和田智行氏はコワーキングスペースを開きました。続いて食堂「おだかのひるごはん」、南相馬市から委託された仮設スーパー「東町エンガワ商店」、ガラス工房と、8か月ほどで3つの事業を立ち上げます。最初にお金を払った相手は住民ではなく、日中に除染や工事で入っていた5,000人から6,000人の作業員でした。和田氏は補助金を使わない方針を掲げ、目標を「年間売上3,000万円から3,500万円の事業を20から30個」という形に分解しています。2024年11月時点の本人の発言によれば、立ち上げた事業は27件、雇用は延べ47人で、その時点では15人でした。2025年の発言では11年間で28事業とされています。2026年には新しい店舗の開業も続いています。

このストーリーから持ち帰れる観点は、次の7つです。それぞれ本文の章で事実を確認し、最後の7章で説明し直します。

1. 動機を美談ではなく「意地」と、本人が言い直している(1章)

2. 条件が揃うのは自分しかいないと、役割を絞り込んでいる(1章)

3. 誰もやりたがらない場所を、競合が入らない場所として見ている(2章)

4. 補助金を使わないと、方針として決めている(3章)

5. 目標を「3,000万円の事業を20から30個」に分解している(3章)

6. 事業数が増える一方で、雇用は47人から15人になっている(4章)

7. 公表される事業数が、時点によって変わる(5章)

各章の末尾に、ローカルグローススタジオの分析と「この事例から考えられること」をまとめています。

参考資料一覧

数字で見るOWB(小高ワーカーズベース)

時点数字出典
2011年3月11日小高区の住民登録人口 1万2,842人南相馬市資料
2014年5月小高ワーカーズベース 創業公式会社概要
2014年11月創立公式会社概要
2015年9月から2018年12月南相馬市から受託し「東町エンガワ商店」を運営取材記事
2019年小高パイオニアヴィレッジ 竣工(建築費の一部500万円をクラウドファンディングで調達)WirelessWire News
2019年10月小高区の居住人口 3,635人WirelessWire News
2020年3月31日小高区の居住人口 3,663人(居住率50.2%)南相馬市資料
2020年12月時点立ち上げた事業 15件。ガラス工房の職人5人は全員が女性HOOK(福島県)
2021年9月時点立ち上げた事業 16件GLOBIS知見録
2022年9月8日ICCサミット KYOTO 2022 ソーシャルグッド・カタパルトで優勝(29点)ICC
2024年11月17日時点立ち上げた事業 27件、雇用 延べ47人(その時点では15人)、学生インターン60人超、移住者43人、Uターン11人10周年基調講演
2025年4月頃11年間で28事業経営実践研究会
2026年4月「iriser gallery & shop」開業公式ニュース
2026年7月7日「おだかのひるごはん」がラーメン店として復活公式ニュース
2026年8月ICCサミット KYOTO 2026「カタパルト・グランプリ」への登壇が決定公式ニュース
2026年9月時点資本金500万円、従業員12名公式会社概要

数字の読み方を、先に3点断っておきます。1つは、事業数です。本人の発言をたどると2021年1月に15件、同年9月に16件、2024年11月に27件、2025年に28件と変わっています。この記事では、それぞれの時点を添えています。2つ目は、人口の数え方です。震災前の1万2,842人は住民登録人口、2020年3月の3,663人は居住人口で、別の集計です。同じ「人口」でも中身が違います。3つ目は、雇用者数です。2024年11月の講演では延べ47人、その時点で15人という数字が示されました。減った理由を説明する資料は今回の調査では見つからなかったため、この記事では本人の発言の範囲にとどめています。

1. 怒りと、意地

出発点は怒りだった

和田智行氏は、創業の動機を美談としては語っていません。10周年の基調講演では、次のように述べています。

「私たちの原点は、自分自身に対する怒りでした。政治家や企業の意思決定によって人生が左右される現状への憤りから、本当の自立とは何かを問い始めたのです」

より詳しい説明も残っています。

「震災と原発事故が起きて、住みなれた場所から避難を余儀なくされ、戻ることもできない。なんでこんなに理不尽なことが起きるんだろうと正直怒りを覚えて、世の中を変えなきゃいけない、という想いが湧いてきました。中央政府や大企業に予算を付けてもらい、リスクと引き換えに原発誘致に依存するといった地域の理不尽な構造は変えなくちゃいけない。自分たちじゃない誰かに地域の課題を解決してもらうのはもうやめよう、と。それで地域の課題を事業を通じ解決していく街にしようという志を立てたのです」

構造そのものを変えるという言い方です。誰かに解決してもらう形をやめる、という部分が、後の補助金の方針にもつながっていきます。

「美談じゃない」と、本人が言っている

語られ方についても、本人が注意を促しています。

「当時、僕らはゼロからではなく、マイナスから出発しました。よく地元愛のような美談で自分たちの活動が語られることもありますが、僕は半ば意地のような気持ちで活動を始めたのです」

地元愛という説明を、本人が退けています。この点は、事例を読むときの前提になります。

なお、戻ることを最初から決めていたわけでもありません。

「実を言えば、はじめは僕も『もう小高には戻れない』と思っていたんです。震災直後、必要な物を取りに行くためだけであれば滞在が許されるという時期がありました。家族を代表して行くわけですが、ひとり現場を目にして、これは難しいなと。でも妻はじめ家族に聞くと『当然戻るでしょ』と言ったんです」

条件が揃うのは自分しかいない

やる理由の説明も、感情だけではありません。

「震災前の小高区の住民は13,000人ほどだったんですが、その中に起業経験のある人間はいないだろうとも思っていました。戻ることを決めていて、起業経験があって、かついわゆる若者と言われる世代、この条件が揃っているのは多分自分しかいない、ということも使命感に拍車をかけたところがあります」

戻る意思、起業の経験、年代という3つの条件を挙げ、その重なりが自分だけだと判断しています。誰がやるかを、条件の掛け合わせで絞り込んでいる形です。

ローカルグローススタジオの分析:最初に決めた目的が、後の方針を決めている

私たちは間違ってはいけない戦略の順番|ビジョン→事業→商品→営業→組織という記事で、戦略には順番があり、最初に「何のために事業をやるか」を決めるという考え方を書きました。

OWBを読み解くと、最初に決まっているのは「誰かに解決してもらう構造をやめる」ことで、私たちが記事に書いた順番と同じ考えが表れています。この目的から見ると、後の章で見る補助金を使わないという方針も、目標を事業の数に分解する形も、同じ線の上に並びます。食堂も、スーパーも、ガラス工房も手段です。

同記事では、「何のために」が決まっていれば、その下の判断が変わると書きました。この事例で特徴的なのは、最初に決めた目的が「地域を復興させる」ではなく、依存の構造を変えることだった点です。復興が目的であれば、補助金は有効な手段になります。依存の構造を変えることが目的だと、補助金は目的と衝突します。最初に掲げた言葉の置き方が、使える手段を変えている例として読めるかもしれません。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 自社の事業の動機を、美談以外の言葉で説明できるか
  • 最初に決めた目的が、使える手段を限定していないか
  • 誰がやるかを、条件の掛け合わせで説明できるか
  • 語られ方と、本人の受け止めがずれていないか
  • 出発点が、ゼロではなくマイナスだったことを認識しているか

事例から読み取れること

1. 動機を美談ではなく「意地」と、本人が言い直している

「よく地元愛のような美談で自分たちの活動が語られることもありますが」と断ったうえで、意地という言葉が使われています。語られ方への注意が本人から示されています。

2. 条件が揃うのは自分しかいないと、役割を絞り込んでいる

戻る意思、起業の経験、年代という3つの条件の重なりで、自分がやる理由を説明しています。

3. 最初に決めた目的が、後の方針を決めている

「誰かに解決してもらう構造をやめる」という目的が、補助金を使わない方針とつながっています。

2. 誰もやりたがらない場所という条件

住民はいないが、日中に働く人はいた

2014年、小高区で日中の滞在が許可されるようになります。和田氏はこのタイミングでコワーキングスペースを開き、続いて食堂を立ち上げました。

このときの状況が、具体的に語られています。

「最初は孤独でしたね。周りは『こんな場所に誰がメシを食いに来るんだ、買い物をしに来るんだ』という反応でしたから。でも『おだかのひるごはん』立ち上げ当時、人は住めなかったのですが、日中は除染や工事関係の方が5000〜6000人も働いていて、小さくともマーケットはたしかにあったんです。とはいえ誰もそんなところで商売をやりたがらない。つまり競合が入ってきにくいわけです」

住民はいないが働いている人はいるという見方が、事業の成立条件になっています。そして「誰もやりたがらない」ことを、不利ではなく競合が入らない条件として説明しています。

最初にお金を払った相手は、地域の住民ではありませんでした。日中に入っていた作業員です。

8か月で3つの事業を立ち上げた

初期の立ち上げの順序も、本人の講演に残っています。

「誰もいない街にワーキングスペースを整備し、まずはひとつ、街にあかりを灯しました。また、日中出入りしている作業員さんや住民に向けて『おだかのひるごはん』という食堂を。さらに南相馬市から受託して『東町エンガワ商店』という仮設スーパーを運営し、若い女性が魅力を感じる仕事を創出するためハンドメイドのガラス工房を起業。8ヶ月ほどで3つの事業を立ち上げたものの、気づけば30代となり、より体系的な経営の知識が必要だと感じ始めました」

コワーキングスペース、食堂、仮設スーパー、ガラス工房と並びます。それぞれ狙っている相手が違います。食堂は作業員、スーパーは戻ってきた住民、ガラス工房は働く場所を探している女性です。

説得から始まっている

食堂の立ち上げは、人を口説くところから始まっています。

「以前、地元のお母さんたちが立ち上げたNPOを手伝っていたのですが、その内1人をまずは口説き落として、そこからメンバーを広げていきました。(中略)みなさんシャイで、『私が作った料理でお金取るなんてとんでもない』と、ものすごく抵抗をされたんですけど、『だからいいんですよ』『普通の家庭で食べられるようなものをみんな食べたいはずなんですよ』と説得して回りました」

家庭料理でお金を取ることへの抵抗に対して、その普通さこそが価値だと説明しています。相手が弱みだと思っているものを、売りとして言い直す形です。

ローカルグローススタジオの分析:参入されない条件を、先に見つけている

私たちは地方企業やスタートアップに共通する、低リソース・ブランド無しの戦わない戦略という記事で、資源で劣る側が正面から競わない方法について書きました。

OWBが始めた場所は、住民がいない地域です。通常であれば、事業の条件としては最も厳しい部類に入ります。和田氏はこの条件を「競合が入ってきにくい」と捉え直しました。市場が小さいことと、競合がいないことが同時に成り立っている状態です。

同じ記事では、勝てない場所を避けることが出発点になると書きました。この事例を読み解くと、それを裏返した形で同じ考えが表れています。誰もが避ける場所を選ぶことで、資源が少なくても始められる状態を作っています。ただし、この選び方が成り立つのは、そこに小さくても実際の需要があった場合です。5,000人から6,000人が日中に働いているという事実の確認が先にあり、その後に捉え直しが来ています。順序が逆になると、ただ需要のない場所を選ぶことになります。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 自社が避けている条件を、競合も避けていないか
  • 誰もやりたがらない場所に、実際の需要があるかを確かめたか
  • 最初にお金を払う相手が、想定していた相手と同じか
  • 相手が弱みだと思っているものを、売りとして言い直せるか
  • 立ち上げた事業ごとに、狙う相手が分かれているか

事例から読み取れること

1. 誰もやりたがらない場所を、競合が入らない場所として見ている

住民がいない地域という条件を、参入されにくい条件として捉え直しています。需要の確認が先にある点も特徴です。

2. 最初にお金を払った相手が、住民ではなかった

日中に除染や工事で入っていた作業員が、食堂の相手でした。地域の住民が戻る前の段階で、収入の入口が作られています。

3. 相手が弱みだと思っているものを、売りとして言い直している

家庭料理でお金を取ることへの抵抗に対して、その普通さこそが価値だと説明しています。

3. 補助金を使わず、目標を分解する

補助金を使わないという方針

被災した地域には、事業を後押しする補助金が複数あります。和田氏は、それを使わない方針を取ってきました。

「補助金は使わない。現地での雇用を創出する。(中略)被災地には事業を後押しする補助金は多数存在しています。しかし、それはあくまで期限付きのもの。補助金頼りの会社運営が常態化することは、長い目で見たときに大きな弊害となります。あくまで地に足のついたビジネスでしっかりと収益を上げていくことに注力していく。そうして経済的な自立を果たすことが持続可能なビジネスへの第一歩です」

理由は、補助金の期限にあります。期限が来たときに事業が続かなくなる形を避ける、という説明です。1章で見た「誰かに解決してもらう構造をやめる」という目的とも、線がつながっています。

なお、まったく外部資金を使っていないわけではありません。2019年に竣工した小高パイオニアヴィレッジの建築費は、日本財団の復興助成費と自主財源に加え、500万円のクラウドファンディングで賄われたと報じられています。運営を補助金に頼らないことと、施設の建設に助成を使うことは、分けて扱われています。

見る数字と、目標の分解

経営で重視している指標についても、説明があります。

「営業利益は一番大事にしています。あと、売上高人件費率。人件費を確保した上で、薄くても利益が出ればいいかなというぐらいの考え方でやっています。(中略)『とりあえず年間売上3000万〜3500万円の事業を20〜30個作りましょう』と伝えていて、目標を少しブレイクダウンすることで、取り組みやすくしています」

「100の課題から100のビジネス」という目標は、そのままでは大きすぎます。それを「年間売上3,000万円から3,500万円の事業を20から30個」という形に置き換えています。1つの事業の規模を先に決めることで、必要な数が見えてきます。

見る指標が営業利益と売上高人件費率という点も特徴です。売上の大きさではなく、人件費を確保したうえで薄くても利益が出るかを見る、という説明になっています。

起業家が集まる条件を作った

OWBは、自社で事業を作るだけでなく、他の起業家が来る環境も作ってきました。

「この地域でビジネスをやろうとすると、ものすごく大変と感じるでしょう。あまり人も住んでいないし、環境も整っていませんから。それが普通の人の反応だと思います。それに対して僕らは、起業家のコミュニティをつくり、その拠点となる箱モノや事例となるビジネスを創ってきました」

条件についても、具体的に説明されています。

「小高は同地域内での競合が少ないため事業立ち上げの際のハードルは比較的低いといえるでしょう。加えて、地域おこし協力隊の任期である3年間は生活費の心配もいらない。事業を行う上での心理的な不安を取りのぞけるよう私たちもサポートを行っていますし、周囲には起業家たちのコミュニティも出来上がってきており孤立することはありません」

競合が少ないこと、3年間の生活費、コミュニティの3つが並べられています。2章で自分が使った条件を、他の人にも使える形にしている構造です。

働く人の条件についても、説明があります。

「雇用を確保するためには子育てや介護といった事情を抱えている人も無理なく働ける環境を作っていく必要があります。ここで働く5人の職人さんは全員が女性で、子育てを行う主婦の方もいます」

2020年12月の取材時点で、ガラス工房の職人は5人全員が女性でした。

ローカルグローススタジオの分析:積み上げたものが、後から来る人の参入条件になっている

私たちは顧客獲得コストを下げるには「ストック>フロー」を意識しようという記事で、広告のように止めれば効果が消えるフロー型と、一度作れば効き続けるストック型を分けて考えるという考え方を書きました。

OWBが積み上げてきたのは、事業の実例と、起業家が集まるコミュニティです。コワーキングスペース、パイオニアヴィレッジといった場所と、そこで実際に事業が回っているという事実が積み上がっています。

同じ記事では、ストック型は一度作れば効き続けるとも書きました。この事例では、自社の積み上げたものが他の起業家の参入条件になっています。1人目が入るときには「こんな場所で誰が」と言われた場所に、コミュニティと事例があることで、後から来る人の心理的な負担が下がります。移住者43人、Uターン11人という2024年11月時点の数字は、この積み上げの結果として説明されています。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 補助金や助成に、運営そのものを依存していないか
  • 大きな目標を、事業の規模と数に分解できているか
  • 見る指標を、売上の大きさ以外に決めているか
  • 自社が使った条件を、他の人にも使える形にできないか
  • 事情を抱えた人が働ける形を、設計に入れているか

事例から読み取れること

1. 補助金を使わないと、方針として決めている

期限が来たときに続かなくなる形を避ける、という理由です。施設の建設に助成を使うこととは分けて扱われています。

2. 目標を「3,000万円の事業を20から30個」に分解している

1つの事業の規模を先に決めることで、必要な数が見える形になっています。見る指標は営業利益と売上高人件費率です。

3. 自分が使った条件を、他の人にも使える形にしている

競合が少ないこと、地域おこし協力隊の3年間、コミュニティという3つが、後から来る起業家の条件として説明されています。

4. 事業は増え、雇用は減った

2024年11月時点の数字

創立10周年の基調講演で、和田氏は積み上げてきた数字を示しました。立ち上げた事業は27件、雇用は延べ47人で、その時点では15人。学生インターンは60人超、移住者43人、Uターン11人です。

事業の数は、時点をたどると増え続けています。2021年1月に15件、同年9月に16件、2024年11月に27件、2025年には11年間で28事業とされています。

一方で、雇用の人数は延べ47人からその時点の15人へと変わっています。事業が増えるほど雇用も増える、という形にはなっていません。

減った理由は、公表資料からは分からない

雇用がなぜこの形になったのかを説明する資料は、今回の調査では見つかりませんでした。事業の入れ替わりによるものか、地域の状況によるものか、別の理由かは分かりません。この記事では、本人が示した数字をそのまま置くにとどめます。

なお、明確に「失敗」として語られた事業は、今回の資料には見当たりませんでした。仮設スーパー「東町エンガワ商店」は2018年12月に閉店していますが、南相馬市の公設民営スーパーが開業したことによる役割の終了として説明されています。2015年9月から2018年12月まで、南相馬市からの委託で運営された事業でした。

目標との距離も語られている

2020年12月の取材では、100事業という目標に対する達成度が「30%程度」と語られています。目標に届いていないことを、そのまま数字で示す形です。

ローカルグローススタジオの分析:数える対象によって、見える成果が変わる

私たちは3章でも触れたストックの記事で、一度作ったものが効き続けることを書きました。

OWBの場合、積み上げとして数えられているものが複数あります。事業の数、雇用の人数、学生インターン、移住者、Uターンの人数です。このうち事業の数は増え続け、雇用の人数はそうではありません。

同じ会社の同じ期間でも、何を数えるかによって見える形が変わります。事業の数だけを見れば右肩上がりですが、雇用の人数を並べると別の線になります。この事例が両方の数字を同じ講演で示している点は、読む側にとっての材料になります。片方だけを取り出すと、実像から離れることになります。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 自社が数えている指標が、1つに偏っていないか
  • 増えている数字と、そうでない数字を並べて見ているか
  • 目標に対する達成度を、数字で示せるか
  • 終了した事業を、失敗と役割終了で分けて説明できるか
  • 数字が動いた理由を、説明できる範囲と、そうでない範囲に分けているか

事例から読み取れること

1. 事業数が増える一方で、雇用は47人から15人になっている

同じ講演の中で、両方の数字が示されています。片方だけを見ると、見える形が変わります。

2. 減った理由を説明する資料が、公表されていない

今回の調査では見つかりませんでした。数字は残っている一方、経緯は分からない状態です。

3. 目標との距離も、数字で語られている

100事業という目標に対して、2020年12月時点で「30%程度」と説明されています。

5. 公開されている数字と、確認できない数字

事業数は、時点によって変わる

OWBについて語られる数字のうち、最も動くのが事業数です。本人の発言をたどると、2021年1月に15件、2021年9月に16件、2024年11月に27件、2025年に28件です。

紹介記事などで見かける「2023年時点で20件超」という区切りについては、今回の調査で対応する一次資料を確認できませんでした。この記事では使っていません。

人口の数え方が2種類ある

小高区の人口についても、数え方が2種類あります。震災前の1万2,842人は住民登録人口です。2020年3月31日時点の3,663人(居住率50.2%)は居住人口で、別の集計です。南相馬市の資料でも、この2つは分けて扱われています。

避難指示の解除後に小高区へ移住した人は約600人とされています(2021年1月時点)。

「唯一」という表現について

OWBを紹介する記事の中には「福島は、日本の閉塞感をブレイクスルーする、唯一で最後のフィールド」という表現が見られます。これは対談の中での発言であり、事業の唯一性を示すものではありません。この記事では使っていません。

逐語を確認できなかった引用

紹介記事で引用されている言葉のうち、今回の資料では逐語を確認できないものもありました。この記事では、公式note、GLOBIS知見録、WirelessWire News、HOOK(福島県)といった、発言の元をたどれる資料に載っている言葉だけを使っています。

ローカルグローススタジオの分析:語られ方と、本人の言葉を分ける

私たちは2章でも触れた戦わない戦略の記事で、大手と直接ぶつからない場所を選ぶことについて書きました。

OWBは、震災と原発事故という背景があるため、復興の物語として語られやすい事例です。実際、そうした形で紹介されることが多くあります。ただし1章で見たとおり、本人は「美談で語られることもありますが、僕は半ば意地のような気持ちで活動を始めた」と述べています。

読む側としてできるのは、語られ方と本人の言葉を分けて扱うことです。この事例では、本人の発信が公式noteや複数のインタビューに残っているため、突き合わせができます。数字についても同じで、時点を添えて並べれば、どこが動いているかが見えてきます。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 自社について語られる物語と、自分の説明が一致しているか
  • 数字に時点を添えているか
  • 同じ言葉で、違う範囲の数字を指していないか
  • 他の媒体が付けた評価語を、そのまま使っていないか
  • 引用の元をたどれる形で、発信を残しているか

事例から読み取れること

1. 公表される事業数が、時点によって変わる

15件、16件、27件、28件と、本人の発言をたどるだけでも数字が動いています。この記事では、それぞれに時点を添えています。

2. 人口の数え方が2種類ある

住民登録人口と居住人口は別の集計です。同じ「人口」として並べると誤読につながります。

3. 語られ方と本人の説明が、必ずしも一致しない

復興の物語として紹介されることが多い一方、本人は美談ではないと述べています。この記事では、両方を分けて置いています。

6. 2026年の現在地

事業は続いている

2026年に入ってからも、動きは続いています。同年4月には「iriser gallery & shop」が開業しました。ガラス工房の作品を扱う店で、地域を案内する機能も兼ねた拠点として発表されています。

同年7月7日には「おだかのひるごはん」がラーメン店として復活しました。一風堂との協働による形です。創業期に立ち上げた食堂の名前が、別の形で再び使われています。

同年8月には、ICCサミット KYOTO 2026の「カタパルト・グランプリ」への登壇が決まりました。2022年9月のICCサミット KYOTOでは、ソーシャルグッド・カタパルトで29点を獲得し優勝しています。

公式の会社概要には、資本金500万円、従業員12名と記載されています(2026年9月時点)。

課題が先にある場所として

和田氏は、この地域の位置づけについても語っています。

「小高には、タイムマシンで10年先に行かなければできないような課題が転がっており、それを解決する新しい手段を見つけられたら、日本の未来の課題解決にもつながるかもしれない。いまだからこそビジネスの芽がある」

課題が先に現れている場所として見る、という説明です。人口減少や高齢化が他の地域より早く進んだ状態を、解決策を試す条件として扱っています。

一方で、難しさも同時に語られています。

「何もなくなった小高を再生させるには、さまざまな事業が必要になります。とはいえ、この地区で事業を起こすには、普通では考えられない難しい課題もあります。原発事故から9年が経ったとはいえ、まだ汚染された地域というイメージが根強く残っており、実際に風評被害もあります」

ローカルグローススタジオの分析:相手を先に決めることが、事業の順序を決めている

私たちはターゲットと便益を5-10パターンに整理するという記事で、同じサービスでも相手によって得られる価値が違うため、誰に、何を、どんな独自性で届けるかを相手ごとに整理するという考え方を書きました。

OWBが立ち上げてきた事業は、それぞれ相手が違います。食堂は日中の作業員、仮設スーパーは戻ってきた住民、ガラス工房は働く場所を探している女性、コワーキングスペースと起業家コミュニティは事業を始めたい人です。

同じ記事では、相手ごとに価値を言葉にすると、訴求や施策を出し分けられるとも書きました。この事例では、地域の状態が変わるにつれて、相手も変わっています。人が住めない時期は作業員、戻り始めた時期は住民、その先は移住してくる起業家です。相手の変化に合わせて事業が足されていった順序として読めます。「100の課題から100のビジネス」という言い方も、課題ごとに相手が違うことを前提にした表現だと考えられます。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 自社の事業ごとに、相手が分かれているか
  • 地域や市場の状態が変わったときに、相手も変えているか
  • 課題が先に現れている場所を、条件として見たことがあるか
  • 難しさと可能性を、同じ場所で説明できるか
  • 過去に立ち上げた事業の名前を、別の形で使えないか

事例から読み取れること

1. 事業ごとに、狙う相手が分かれている

作業員、住民、働く場所を探している女性、起業家と、相手が別々です。地域の状態の変化に合わせて足されてきました。

2. 課題が先に現れている場所として、位置づけている

「タイムマシンで10年先に行かなければできないような課題」という言い方で、条件として扱われています。

3. 難しさも、同じ場所で語られている

風評被害が残っていることも、本人の言葉として示されています。可能性だけを並べる説明にはなっていません。

7. ローカルグローススタジオの視点

冒頭に挙げた7つの観点を、本文で確認した事実で説明し直します。

1. 動機を美談ではなく「意地」と、本人が言い直している

「よく地元愛のような美談で自分たちの活動が語られることもありますが、僕は半ば意地のような気持ちで活動を始めたのです」という言葉が残っています。出発点として語られているのは、理不尽な構造への怒りでした。

最初に決めた目的は「誰かに地域の課題を解決してもらうのはもうやめよう」という考えです。この決め方が、後の補助金の方針とつながっています。復興が目的であれば補助金は有効な手段になりますが、依存の構造を変えることが目的だと、補助金は目的と衝突します。最初に掲げた言葉が、使える手段を変えている例として読めるかもしれません。

2. 条件が揃うのは自分しかいないと、役割を絞り込んでいる

戻ることを決めていること、起業の経験があること、若い世代であること。この3つが揃うのは自分だけだという判断が語られています。

感情だけでも、能力だけでもありません。条件を掛け合わせて、自分がやる理由を組み立てています。なお、戻ることを最初から決めていたわけではなく、家族の言葉がきっかけだったことも語られています。

3. 誰もやりたがらない場所を、競合が入らない場所として見ている

「人は住めなかったのですが、日中は除染や工事関係の方が5000〜6000人も働いていて、小さくともマーケットはたしかにあったんです。とはいえ誰もそんなところで商売をやりたがらない。つまり競合が入ってきにくいわけです」という説明です。

順序が重要な部分です。需要があることの確認が先にあり、その後に「競合が入らない」という捉え直しが来ています。逆になると、ただ需要のない場所を選ぶことになります。最初にお金を払った相手も、地域の住民ではなく日中の作業員でした。

4. 補助金を使わないと、方針として決めている

「補助金頼りの会社運営が常態化することは、長い目で見たときに大きな弊害となります」という理由です。期限が来たときに続かなくなる形を避ける、という説明になっています。

ただし、外部資金をまったく使っていないわけではありません。小高パイオニアヴィレッジの建築費には、復興助成費と自主財源に加えて500万円のクラウドファンディングが充てられました。運営を依存させないことと、施設の建設に助成を使うことが、分けて扱われています。

5. 目標を「3,000万円の事業を20から30個」に分解している

「100の課題から100のビジネス」という目標を、そのまま追うのではなく、1つの事業の規模を決めてから必要な数を出す形にしています。見る指標は営業利益と売上高人件費率で、「人件費を確保した上で、薄くても利益が出ればいい」という考え方が示されています。

自分が使った条件を、他の人にも使える形にしている点も特徴です。競合が少ないこと、地域おこし協力隊の3年間、コミュニティの3つが、後から来る起業家の条件として説明されています。移住者43人、Uターン11人という数字は、この積み重ねの結果として語られています。

6. 事業数が増える一方で、雇用は47人から15人になっている

2024年11月の講演では、立ち上げた事業27件と並べて、雇用が延べ47人でその時点では15人であることが示されました。事業が増えれば雇用も増える、という形にはなっていません。

減った理由を説明する資料は、今回の調査では見つかりませんでした。この記事では、本人が示した数字をそのまま置いています。同じ会社の同じ期間でも、何を数えるかによって見える形が変わる、という点が読み取れます。

7. 公表される事業数が、時点によって変わる

本人の発言をたどるだけでも、2021年1月に15件、同年9月に16件、2024年11月に27件、2025年に28件と動いています。紹介記事で見かける「2023年時点で20件超」については、対応する一次資料を確認できませんでした。

人口についても、震災前の1万2,842人は住民登録人口、2020年3月の3,663人は居住人口と、別の集計です。語られ方についても、復興の物語として紹介される一方、本人は美談ではないと述べています。数字も語り口も、突き合わせてから扱う対象だと言えるかもしれません。

本事例から見える経営とマーケティングの学び

OWB(小高ワーカーズベース)の物語は、継ぐ会社も買う会社もない状態から、住民がいない地域で事業を作った事例として読めます。順序をたどると、次の並びになります。

  • 理不尽な構造への怒りを起点にした
  • 誰もやりたがらない場所を競合が入らない条件として捉え直した
  • 日中の作業員という相手で収入の入口を作った
  • 補助金に頼らない方針を掲げた
  • 目標を事業の規模と数に分解した
  • 自分が使った条件を他の起業家にも使える形にした

上の分析で触れたとおり、この事例には4つの見方が重なっています。最初に掲げた言葉が使える手段を変えたこと、避けられている条件を捉え直したこと、積み上げたものが他の人の参入条件になったこと、そして事業ごとに相手を分けたことです。

同時に、この事例は数字と語られ方の両方に注意が要る対象でもあります。事業数は時点によって動き、雇用の人数は事業数と別の線を描いています。減った理由を説明する資料はありません。復興の物語として語られやすい一方、本人は美談ではないと述べています。事例を読むときに、語られ方と本人の言葉を分けて扱う必要がある、という点も持ち帰れる部分です。

「ビジネス知の機会格差をなくす」という私たちのミッションに向けて、これからも実践的で価値ある情報を発信していきます。この記事の内容について、さらに詳しく知りたい方は、ぜひご連絡ください。