ローカルグローススタジオは、『地方企業にスタートアップのような成長を』というテーマで、コンテンツ発信と支援サービスを展開しています。この記事では、実践的なビジネスノウハウを、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。
今回取り上げるのは、北海道北広島市の「HOKKAIDO BALLPARK F VILLAGE」と、その運営会社である株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント(FSE)です。2023年3月、北海道日本ハムファイターズは札幌ドームからこの場所へ本拠地を移しました。エスコンフィールドHOKKAIDOを中心に、およそ32ヘクタールの街区が作られています。
この記事は、地域の複数の担い手が組んで成果を出した事例を扱う「地域連携編」の1本です。誰が最初に動き、参加する側の取り分をどう設計し、続ける仕組みをどこに置いたかという観点で、1社では成立しない取り組みがどうやって回るようになったのかを読み解きます。
この記事の要約
先にストーリーの全体像です。移転の理由として球団側が挙げてきたのは、球団と球場を一体で経営できないことでした。当時の事業統轄本部長である前沢賢氏は、フェンスを変えることすら「お金がないからではなく権限がないから」できないと説明しています。次に決めたのが、球場ではなく街を作ることでした。野球を見なくても楽しめる空間を作るには、自分たちで球場を持つ必要があるという判断です。総工費はおよそ600億円、敷地はおよそ32ヘクタール、収容はおよそ3万5,000人です。運営会社のFSEには球団、日本ハム、電通グループ、民間都市開発推進機構が出資しています。前沢氏は「民設民営などとは口が裂けても言えない」と述べ、土地もインフラも行政のものだと説明しました。周辺14市町村との連携協議会も作られています。年間の来場者は2023年がおよそ346万人、2024年が418万7,046人、2025年が459万1,357人と伸びました。一方、北広島市の人口は2007年のピークから減り続けており、2026年7月時点で55,882人です。
このストーリーから持ち帰れる観点は、次の7つです。それぞれ本文の章で事実を確認し、最後の7章で説明し直します。
1. 移転の理由を、お金ではなく権限の問題として説明している(1章)
2. 球場ではなく、街を作ると決めている(2章)
3. 「民設民営とは口が裂けても言えない」と、自分から述べている(3章)
4. 周辺14市町村との協議会を作っている(3章)
5. 開業特需と言われることを、避けようとしている(4章)
6. 来場者は増えているが、北広島市の人口は減り続けている(5章)
7. 経済効果の数字が、球団と市の協力で作られた将来予測である(5章)
各章の末尾に、ローカルグローススタジオの分析と「この事例から考えられること」をまとめています。
参考資料一覧
- 北海道日本ハムファイターズ 公式サイト 会社概要(球団とFSEの代表者)
- 株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント「ANNUAL REPORT 2024」(2025年1月29日公表。2024年の来場者、累計来場者)
- 株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント「ANNUAL REPORT 2025」(2026年1月27日公表。2025年の来場者、累計来場者)
- VICTORY「『選手を守れない』日ハム事業本部長が語る、球場移転が絶対に必要な理由(前編)」(2017年2月2日。一体経営、権限、使用の保証)
- 日経BP「新・公民連携最前線」(2020年掲載)(街を作る理由、課題の整理)
- 日経BP「原生林から『北海道のシンボル』へ、ボールパーク建設への思い」(民設民営についての発言、14市町村の協議会、敷地面積)
- 日経BP「Fビレッジはこれから第二フェーズ」(開業特需、行政との温度差、累計来場者)
- SPORTS BUSINESS ONLINE(2025年1月16日。2023年の来場者、FSEの業績)
- ITmedia「日本エスコンに命名権」(2020年1月29日)
- 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「統合的価値評価レポート」(2024年2月5日。FSEと北広島市の協力による経済効果の試算)
- 東京新聞「日本ハムが去った札幌ドームに希望はあるのか」(2024年7月10日。札幌ドームの決算、専門家と広報のコメント)
- 北広島市 人口ビジョン(改定版)、市公式統計(人口の推移)
- 官報 決算公告に基づく第三者のまとめ(FSEおよび球団単体の業績)
数字で見るF VILLAGE
| 時点 | 数字 | 出典 |
|---|---|---|
| 2007年 | 北広島市の人口 ピーク時 61,174人 | 市 人口ビジョン |
| 2018年時点 | 総建設費の見通し 500億円から600億円 | VICTORY |
| 2020年1月 | 命名権契約を締結(10年以上、国内では過去最高額とされる。具体額は非公表) | ITmedia |
| 発言時点(2020年前後) | エスコンフィールドの総工費 およそ600億円 | 前沢賢氏の発言 |
| 記事掲載時点 | F VILLAGEの敷地面積 およそ32ヘクタール、収容人員 およそ3万5,000人 | 日経BP |
| 2023年3月 | エスコンフィールドHOKKAIDO 開業 | 公表資料 |
| 2023年 | F VILLAGE年間来場者 およそ346万人(目標の300万人を上回る) | FSE執行役員の講演 |
| 2023年7月 | 北広島市の人口 57,020人 | 市公式統計 |
| 2023年12月期 | FSE 売上高251億円、営業利益36億円 | 報道 |
| 2024年6月21日 | F VILLAGE累計来場者500万人(開業468日目) | ANNUAL REPORT 2024 |
| 2024年 | F VILLAGE年間来場者 418万7,046人(前年比21%増)。公式戦207万5,734人、その他211万1,312人 | ANNUAL REPORT 2024 |
| 2024年6月末 | 北広島市の人口 56,670人 | 市公式統計 |
| 2024年12月期 | FSE 売上高239.3億円、営業利益42.5億円、当期純利益30.5億円 | 官報決算公告に基づくまとめ |
| 2024年12月期 | 球団単体 純損失2億8,500万円 | 官報決算公告に基づくまとめ |
| 2025年7月13日 | F VILLAGE累計来場者1,000万人(開業855日目) | ANNUAL REPORT 2025、北海道新聞 |
| 2025年 | F VILLAGE年間来場者 459万1,357人(前年比10%増、過去最高)。公式戦223万2,364人、その他235万8,993人 | ANNUAL REPORT 2025 |
| 2025年12月期 | FSE 売上高277.33億円、営業利益70.8億円、最終利益49.23億円 | 官報決算公告に基づくまとめ |
| 2025年12月期 | 球団単体 純損失12億6,200万円(赤字幅が拡大) | 官報決算公告に基づくまとめ |
| 2026年3月16日 | 前沢賢氏がFSEの社長に就任。球団社長は小村勝氏 | 公式サイト会社概要 |
| 2026年7月時点 | 北広島市の人口 55,882人 | 市公式統計 |
数字の読み方を、先に3点断っておきます。1つは、経済効果です。「年間500億円超」「北海道全体で年間およそ1,000億円」といった数字は、FSEと北広島市の協力を得て三菱UFJリサーチ&コンサルティングが作成したレポートによる試算です。2019年から2037年の複数年平均のモデルで、2023年度単年の直接効果の実績は452.22億円とされています。球団発表でも自治体発表でもなく、独立した事後の検証でもありません。2つ目は、決算の数字です。FSEと球団単体の業績は、官報の決算公告を読んだ第三者のまとめによるものです。複数の独立したまとめで数字が一致していますが、官報の原本での照合は今回できていません。3つ目は、人口です。北広島市の人口は2007年のピークから減り続けており、開業後も減少が続いています。税収や地価の変化と、人口は別の数字です。
1. 権限がないという課題
「お金がないからではなく権限がないから」
移転の理由として球団側が繰り返し説明してきたのは、球団と球場を一体で経営できないことでした。当時の執行役員 事業統轄本部長である前沢賢氏の説明が残っています。
「プロ野球において、ハードは”施設”でありソフトは”チーム・選手・試合”です。それを統合したサービスを提供するのが自然なことだと考えています。(中略)我々にとって、売り上げとはサービスの対価。よりよいサービスを提供し、”対価=売り上げ”がアップすれば、さらなるサービス向上のために投資をすることができます。しかし、いまの状態はソフトには投資できるけど、ハードにはできない状態ということ。(中略)だから、球団と球場の一体経営を目指すことは”正のスパイラル”を構築するという極めてあたりまえのことだと考えています」
具体的な場面としては、選手の安全にかかわる例が挙げられています。
「広告看板や飲食の売り上げの件がよく取り上げられますが、たとえば選手のパフォーマンスに直結することもあります。選手から、『現状の外野のラバーフェンスは激突するとケガをしやすい』という声があがったとした場合、もし一体経営ができていれば、我々はすぐにケガを防げるラバーフェンスに変えることができます。しかし、いまの座組みでは我々の一存ではできない。それは、お金がないからではなく権限がないから……。これは、非常に大きな問題です」
「お金がないからではなく権限がないから」という表現が、この説明の中心にあります。費用の問題ではなく、決められる範囲の問題だという整理です。
もう1つ挙げられているのが、使用の保証です。
「そもそも、いまの札幌ドーム社との関係では来年も使用させていただけるといった保証のようなものはないのです。『地域に根づいたチームを』と言ってもそれでは長期的に安定した運営は難しくなります」
長く続ける前提が作れないという説明です。
ローカルグローススタジオの分析:何が一番の課題かを、言葉にしている
私たちは間違ってはいけない戦略の順番|ビジョン→事業→商品→営業→組織という記事で、戦略には順番があり、「何のために事業をやるか」が先に決まっていれば、その下の判断(何を売るか、どう売るか)が決まりやすいと書きました。
この事例を読み解くと、最初に決められたのは収入の額ではなく「決められる範囲」で、私たちが記事に書いた順番と同じ考えが表れています。使用料や売上の配分の話であれば、条件の交渉になります。決められる範囲の話であれば、交渉では解決しません。自分たちで持つか、持たないかになります。
同記事では、「何のために」が決まっていれば、その下の判断が変わると書きました。課題を「お金」と置くか「権限」と置くかで、出てくる打ち手がまったく違ってきます。この事例では、権限と置いたことで、600億円規模の投資という打ち手が出てきました。何を課題として言葉にするかが、選択肢の範囲を決めている例として読めます。
この事例から考えられること
照らし合わせてみる項目
- 自社の課題を、費用の問題として捉えていないか
- 決められる範囲の問題として、言い換えられないか
- 交渉で解決する課題と、そうでない課題を分けているか
- 長く続ける前提が、契約や関係の上で作れているか
- 課題の置き方が、選択肢の範囲を変えていないか
事例から読み取れること
1. 移転の理由を、お金ではなく権限の問題として説明している
「お金がないからではなく権限がないから」という言葉が、説明の中心にあります。費用ではなく、決められる範囲の話です。
2. 具体例として、選手の安全が挙げられている
フェンスを変える判断ができないという例です。収入の話に閉じない説明の仕方になっています。
3. 長く続ける前提が、課題として挙げられている
来年も使用できる保証がないことが、地域に根づくことと矛盾すると説明されています。
2. 球場ではなく、街を作る
野球を見なくても楽しめる空間
次に決まったのが、何を作るかでした。球場だけではなく、街区を作るという判断です。
「もちろん、野球が大好きな人には間違いなく楽しんでもらえる球場だと思っています。しかし、それだけでは先細りになってしまう。少子高齢化の時代ですし、少年野球の競技人口が減っているなかで、野球が好きじゃない人に野球を見るきっかけをつくるという『入り口の拡大』は、野球を生業(なりわい)にしている我々がやるべきことだと思っています。そういった意味で、野球を見なくても、好きでなくても楽しめる空間をつくるということを、是が非でもやらないといけない。そしてそれは、自分たちで球場を保有しないとできないことなんだと考えました」
野球が好きな人だけを相手にすると先細りになる、という見立てです。そこから「野球を見なくても、好きでなくても楽しめる空間」という設計が出てきます。
課題の整理も語られています。
「我々に突きつけられている課題は、マクロ的に見ると2つしかありません。1つは人口減少と少子高齢化。もう1つは、選択肢が増えて人々が多趣味になっていること。これらへの対策をどんどんしていかないといけない。小手先レベルでは流れは変えられないと思いますので、ダイナミックな手を打たざるを得ないというのが結論でした」
課題を2つに絞り、その規模から打ち手の大きさを決めています。
数字にも表れている
来場者の内訳を見ると、この設計の結果が読み取れます。
2024年の年間来場者は418万7,046人で、うち公式戦が207万5,734人、それ以外が211万1,312人でした。2025年は459万1,357人で、公式戦223万2,364人、それ以外235万8,993人です。どちらの年も、公式戦以外の来場が公式戦を上回っています。
累計では、2024年6月21日(開業468日目)に500万人、2025年7月13日(開業855日目)に1,000万人に達しました。
敷地はおよそ32ヘクタール、収容人員はおよそ3万5,000人です。総工費はおよそ600億円と説明されています。
ローカルグローススタジオの分析:相手の範囲を広げると、作るものが変わる
私たちはターゲットと便益を5-10パターンに整理するという記事で、同じサービスでも相手によって得られる価値が違うため、誰に、何を、どんな独自性で届けるかを相手ごとに整理するという考え方を書きました。
この事例では、相手の範囲が「野球が好きな人」から「野球を見なくても楽しめる人」へ広がっています。相手が変わったことで、作るものが球場から街区に変わりました。
同じ記事では、相手ごとに価値を言葉にすると、訴求や施策を出し分けられるとも書きました。この事例は、相手を広げたことで打ち手が大きくなった例です。野球ファンだけが相手であれば、球場の改修で足ります。相手を広げると、飲食や宿泊や商業を含む街区が必要になります。
公式戦以外の来場が公式戦を上回っている数字は、この設計が実際に働いていることを示しています。ただし、この形は投資の規模も大きくなります。600億円という金額は、球場の改修とは桁が違います。相手を広げる判断は、必要な資金の量も変えることになります。
この事例から考えられること
照らし合わせてみる項目
- 自社の相手を、既存の顧客の外まで広げて考えたことがあるか
- 相手を広げたときに、作るものが変わるかを検討したか
- その変化にともなう投資の規模を、把握しているか
- 課題を、絞った数で説明できるか
- 本業以外での利用が、どれだけあるかを数えているか
事例から読み取れること
1. 球場ではなく、街を作ると決めている
「野球を見なくても、好きでなくても楽しめる空間をつくる」という設計です。相手の範囲を広げた判断になっています。
2. 課題を2つに絞って説明している
人口減少と少子高齢化、そして選択肢が増えて多趣味になっていることの2つです。そこから打ち手の大きさを決めています。
3. 公式戦以外の来場が、公式戦を上回っている
2024年も2025年も、公式戦の来場より、それ以外の来場のほうが多い状態です。
3. 「民設民営とは口が裂けても言えない」
自分から、行政の関与を挙げている
F VILLAGEは民間の投資による施設として紹介されることがあります。この点について、前沢氏は自分から留保を付けています。
「巷では『民設民営』と言われ、我々の施設も民設民営で約600億円を投資しますが、民設民営などとは口が裂けても言えない。なぜかと言うと、当然土地だって行政所有のものですし、道路などのインフラも北広島市や北海道、北海道開発局が主体となっている。(中略)このような環境で100%、民設民営などあるわけがない。それは民間のおごりだと思います」
土地は行政のもの、道路などのインフラも行政が主体だという整理です。「民間のおごり」という言葉まで使われています。
自分たちの投資額が大きいことと、自分たちだけで成立していることは別だ、という区別になっています。
周辺14市町村との協議会
連携の範囲も、北広島市だけではありません。
「北広島市の人はもちろんなのですが、近隣の市町村の皆さんとも、14市町村が参加する連携協議会を組織しています。周辺の人も期待してくれていますし、定期的に会議や勉強会をしているなかで、能動的な関係はできていると思います。(中略)意外でした。他の市町村はもっと他人事になるかと思っていたのですが、ボールパークを活用しようという機運を感じました。もちろん、札幌市ともいい協力関係を続けています」
移転元である札幌市との関係にも触れられています。
行政との温度差も語られている
一方で、うまくいくことばかりではありません。開業後のやり取りが記録されています。
「このプロジェクトは、やはり北広島市の上野(正三)市長と川村(裕樹)副市長、その川村さんの下で一生懸命やってくれた方々がいたから実現したのは間違いない。それが他の市町村でできたかと問われると、私には正直分からないです。(中略)ただ、開業した2023年の春ごろ、市の方々と話していたときに、『やりきった』感がすごくにじみ出ていて、ちょっとイラッとしたことがあったのを覚えています(笑)。これからどうやって価値を高めていくかを一緒に考える場なのに、その”一服感”はやめてほしいと伝えたことがありました。行政の立場は、どちらかというと造るまでが大きな仕事だと思うので、民間との考え方の違いが出てくるんだと思いました」
感謝と、温度差の両方が同じ場所に書かれています。「造るまでが大きな仕事」という行政の性質についても、否定ではなく違いとして説明されています。
出資の構成
運営会社であるFSEの出資は、球団が34.17%、日本ハムが32.91%、電通グループが16.67%、民間都市開発推進機構が16.25%です。出資金は240億円(資本金120億円と資本準備金120億円)とされています。
民間都市開発推進機構は、都市開発を支援する組織です。純粋な民間資本だけの構成ではありません。
ローカルグローススタジオの分析:誰の負担で成り立っているかを、明示している
私たちは前の章でも触れたターゲットと便益の記事で、相手ごとに価値を言葉にすることについて書きました。
この事例で特徴的なのは、負担の側を自分から明示している点です。土地は行政、インフラも行政、そのうえで自分たちが600億円を投じるという整理になっています。
同じ記事では、相手にとっての価値を言葉にすることが、訴求や施策を決める出発点になるとも書きました。行政の側にとっての価値は、税収や地価や来訪者です。5章で見るとおり、その数字には検証の範囲があります。一方、行政の負担のほうは、土地とインフラという形ではっきりしています。
負担を自分から言うことは、相手の貢献を認めることでもあります。「民間のおごり」という言葉は、その裏返しとして出ていると読めます。
この事例から考えられること
照らし合わせてみる項目
- 自社の取り組みが、誰の負担の上に成り立っているかを言えるか
- その負担を、自分から明示しているか
- 連携の範囲を、直接の相手の外まで広げているか
- 相手との考え方の違いを、否定ではなく違いとして扱えるか
- 出資の構成を、公表できる形にしているか
事例から読み取れること
1. 「民設民営とは口が裂けても言えない」と、自分から述べている
土地もインフラも行政のものだという整理です。自分たちの投資額の大きさと、自分たちだけで成立していることを分けています。
2. 周辺14市町村との協議会を作っている
北広島市だけでなく、近隣の市町村を含む連携協議会が組織されています。移転元である札幌市との関係にも触れられています。
3. 行政との温度差も、記録されている
開業後の「やりきった」という空気に対して、率直な受け止めが語られています。感謝と温度差の両方が書かれています。
4. 開業特需と言われないために
2年目に力を入れた
新しい施設が開業すると、初年度は人が集まります。その後どうなるかが問われます。この点についての受け止めが語られています。
「勝手なイメージで、私は豪放磊落(ごうほうらいらく)みたいに思われる方もいらっしゃるようですが、全くそうではなくて(笑)。いろいろ考え事をすると夜、寝られなかったり、朝早く起きてしまったりというのが普通にあって、ずっと心配でした。(中略)私たちが一番嫌だったのは”開業特需”と言われることでした。だからこそ、2年目はかなり必死に取り組んでいました」
初年度の数字ではなく、2年目の数字を意識していたという説明です。
実際の推移を見ると、2023年がおよそ346万人、2024年が418万7,046人(前年比21%増)、2025年が459万1,357人(前年比10%増、過去最高)となっています。3年続けて増えています。
「成功」という言葉を使っていない
現在地についての表現も、控えめです。
「成功というと、もうゴールに着いたかのような響きがありますが、まだそこには到達しておらず、むしろ『目指す方向に向かって、確実に山を登っている途中』という感覚が強い。岩場を避けながら、杖をついて一歩一歩必死に頂上目指して登っている状態です」
累計来場者が1,000万人を超えた後の発言です。数字が伸びている段階でも、成功という言葉が避けられています。
球団単体は赤字が続いている
一方で、決算の数字を見ると別の面もあります。
官報の決算公告に基づくまとめによれば、FSEは2024年12月期に売上高239.3億円・営業利益42.5億円・当期純利益30.5億円、2025年12月期に売上高277.33億円・営業利益70.8億円・最終利益49.23億円です。
これに対して球団単体は、2024年12月期が純損失2億8,500万円、2025年12月期が純損失12億6,200万円で、赤字幅が広がっています。
施設と街区を運営する会社と、球団という単体では、数字の形が違います。1つの数字だけを見ると、全体の状態を読み違えることになります。
ローカルグローススタジオの分析:積み上げたものが、2年目以降に効いてくる
私たちは顧客獲得コストを下げるには「ストック>フロー」を意識しようという記事で、広告のように止めれば効果が消えるフロー型と、一度作れば効き続けるストック型を分けて考えるという考え方を書きました。
新しい施設の初年度は、話題そのものが集客の理由になります。その話題は積み上げではありません。2年目以降に来る人は、別の理由で来ることになります。
同じ記事では、ストック型は積み上がるまで時間がかかる分、積み上がれば効き続けるとも書きました。この事例で作られているのは、施設と、その中の店や催しと、周辺の関係です。話題が消えた後も残るものを、開業前から用意する形になっています。「2年目はかなり必死に取り組んでいました」という言葉は、その作業についての説明だと読めます。
一方で、球団単体の赤字が広がっている点も、同じ時期の事実として並んでいます。どの数字を見るかによって、この事例の見え方は変わります。
この事例から考えられること
照らし合わせてみる項目
- 開業や立ち上げの初年度と、2年目を分けて見ているか
- 話題ではない理由で、また来てもらえる形があるか
- 「成功」という言葉を、どの段階で使っているか
- 事業ごとに、数字の形が違っていないか
- 1つの数字だけで、全体を読んでいないか
事例から読み取れること
1. 開業特需と言われることを、避けようとしている
「私たちが一番嫌だったのは”開業特需”と言われることでした」という言葉です。2年目に力を入れたと説明されています。
2. 数字が伸びている段階でも、成功という言葉を使っていない
累計1,000万人を超えた後も「山を登っている途中」という表現が使われています。
3. FSEと球団単体で、数字の形が違う
FSEは増収増益、球団単体は赤字幅が広がっています。どの数字を見るかで見え方が変わります。
5. 数字の出どころを、区分して読む
経済効果は、将来予測のモデルによる試算
F VILLAGEの経済効果として、年間500億円超(北広島市)、北海道全体でおよそ1,000億円という数字が語られることがあります。
この数字は、FSEと北広島市の協力を得て三菱UFJリサーチ&コンサルティングが作成した「統合的価値評価レポート」(2024年2月5日)によるものです。2019年から2037年の複数年平均のモデルにもとづく試算で、2023年度単年の経済直接効果の実績は452.22億円とされています。
球団の発表でも、自治体の発表でもありません。独立した第三者による事後の検証でもありません。レポート自体が、取り組みへの認知を広めることを目的の1つとして述べています。
同じレポートには、周辺の地価が2015年から2023年にかけて最大150%以上上昇し、北広島駅に隣接する地点では419%増加したこと、関連する雇用がおよそ3,900人であることも記載されています。
人口は減り続けている
一方、北広島市の人口は減り続けています。2007年のピークが61,174人、2023年7月が57,020人、2024年6月末が56,670人、2026年7月時点が55,882人です。
開業は2023年3月ですが、その前後で減少の傾向は変わっていません。市の人口ビジョンでも、人口減少の主な要因として合計特殊出生率の低さと若年層の転出超過が挙げられています。
個人市民税収については、2023年度が26.13億円で、2017年度と比べて4.3%(1.08億円)の増加とされています。地価の上昇も確認できます。ただし、税収や地価の変化と、人口の増減は別の数字です。
決算は、二次情報にもとづく
FSEと球団単体の決算の数字は、官報の決算公告を読んだ第三者のまとめによるものです。複数の独立したまとめで数字が一致しているため、内容の確からしさは高いとみられますが、官報の原本での照合は今回できていません。
FSEの2023年12月期については、売上高251億円・営業利益36億円という数字が報道されています。
「日本初」という表現について
エスコンフィールドについては「日本初」「国内屋根付き球場として初」といった表現が使われることがあります。これらはFSEや施工者による説明で、独立した第三者の検証によるものではありません。
また、天然芝についての説明は、現状とは異なります。2025年シーズンから内野が人工芝になり、外野のみ天然芝という仕様に変わりました(2024年8月15日発表)。
ローカルグローススタジオの分析:誰が出した数字かを、先に分ける
私たちは3章でも触れたターゲットと便益の記事で、相手ごとに価値を言葉にすることについて書きました。
この事例では、行政の側にとっての価値として、税収と地価と来訪者が挙げられます。そのうち経済効果の数字は、球団と市の協力によるレポートの試算です。地価の上昇と個人市民税収の増加は、公的な統計や市の資料で確認できます。人口は減り続けています。
読む側としてできるのは、数字ごとに誰が出したものかを分けることです。球団やFSEの発表、自治体の発表、第三者の試算、公的統計は、それぞれ性質が違います。この記事で1つずつ出典を添えているのは、この理由によります。
とくに「ボールパークができたから人口が増えた」という読み方は、実数からは支持されません。増えたのは来場者と地価と個人市民税収で、人口ではありません。これらを混ぜずに並べることが、この事例を読むときの前提になります。
この事例から考えられること
照らし合わせてみる項目
- 経済効果の数字が、誰の依頼で作られたかを確認しているか
- 将来予測のモデルと、単年の実績を分けているか
- 税収や地価の変化と、人口の増減を混同していないか
- 決算の数字が、原本によるものか二次情報かを分けているか
- 「日本初」といった表現の出どころを、確認しているか
事例から読み取れること
1. 経済効果の数字が、球団と市の協力で作られた将来予測である
2019年から2037年の複数年平均のモデルによる試算です。2023年度単年の直接効果の実績は452.22億円とされています。
2. 来場者は増えているが、北広島市の人口は減り続けている
2007年のピーク61,174人から、2026年7月時点で55,882人です。開業の前後で傾向は変わっていません。
3. 天然芝についての説明は、現状と異なる
2025年シーズンから内野が人工芝になり、外野のみ天然芝という仕様に変わりました。
6. 札幌ドーム側から見た構図
移転後の決算
移転は、移転元にも影響します。札幌ドームの2024年3月期(2023年度)は、売上高12億7,100万円、純損失6億5,100万円でした。売上高は、日本ハムが使用していた最終年のおよそ4割です。イベントの日数も、前年の124日から98日に減っています。
この状況について、専門家のコメントが報じられています。
「札幌ドームの経営がファイターズに大きく依存していたことが分かった。年間70試合、観客200万人をカバーできる埋め草は残念ながら道内で他に見つからない。黒字化は無理だ」
札幌ドーム側のコメントも掲載されています。
「土日の利用は割とあるが平日が課題になっている。高校スポーツなどアマチュアを含めて市民、道民の利用を増やし、今期は黒字化を目指す」
札幌市長の発言も、報道を通じて伝えられています。サッカーやラグビーの国際大会を誘致していく方針と、減収への見通しについての言葉です。
なお、札幌市および札幌ドームの側の一次資料(市の公式発表や議会答弁)は、今回の調査では収集できませんでした。ここで挙げているのは、いずれも報道を経由した引用です。この記事では、片方の側だけで構図を説明することを避けています。
施設の性質が違う
札幌ドームは、2002年のサッカーワールドカップに向けて作られた施設です。野球専用として設計されたものではありません。この点は、球団側が挙げた「一体経営ができない」という課題とも関係します。1つの施設を複数の用途で使う形と、1つのチームが所有して使う形では、決められる範囲が違ってきます。
どちらの形が正しいという話ではなく、施設の成り立ちが違うということになります。
ローカルグローススタジオの分析:1者が抜けたときに何が残るか
私たちは4章でも触れたストックの記事で、一度作ったものが効き続けることを書きました。
札幌ドームの決算の変化から読み取れるのは、1者への依存の大きさです。年間70試合と200万人の来場という規模を、他で埋めることは簡単ではないと専門家は述べています。
同じ記事では、ストック型は一度作れば効き続けるとも書きました。この事例からは、その裏側も見えます。1者に依存した状態は、その1者が抜けたときに戻すことが難しくなります。地域の連携を読むときには、うまく回っている状態だけでなく、1者が抜けた場合に何が残るかも見ておくことになります。
なお、この構図は北広島市の側にも当てはまります。F VILLAGEは現在うまく回っていますが、その依存の度合いも見ておく必要がある、という点は同じです。
この事例から考えられること
照らし合わせてみる項目
- 特定の1者への依存が、どの程度あるかを把握しているか
- その1者が抜けた場合に、何が残るかを考えたことがあるか
- 施設や仕組みの成り立ちが、用途と合っているか
- 片方の側の説明だけで、構図を理解していないか
- 移転や撤退の影響を、受ける側の資料でも確認しているか
事例から読み取れること
1. 移転後の札幌ドームは、売上高が最終年のおよそ4割になっている
2024年3月期は売上高12億7,100万円、純損失6億5,100万円でした。イベント日数も減っています。
2. 施設の成り立ちが、もともと違う
札幌ドームは2002年のサッカーワールドカップに向けて作られた施設で、野球専用ではありません。
3. 片方の側の資料だけでは、構図を確認できない
札幌市および札幌ドーム側の一次資料は、今回の調査では収集できませんでした。この記事では報道を経由した引用として扱っています。
7. ローカルグローススタジオの視点
冒頭に挙げた7つの観点を、本文で確認した事実で説明し直します。
1. 移転の理由を、お金ではなく権限の問題として説明している
「お金がないからではなく権限がないから」という言葉が、球団側の説明の中心にあります。フェンスを選手の安全のために変える判断すら、自分たちの一存ではできないという例が挙げられています。
課題を「お金」と置くか「権限」と置くかで、出てくる打ち手が変わります。使用料や配分の話であれば交渉になりますが、決められる範囲の話であれば、持つか持たないかになります。この置き方が、600億円規模の投資という選択肢につながっています。
2. 球場ではなく、街を作ると決めている
「野球を見なくても、好きでなくても楽しめる空間をつくる」という設計です。野球が好きな人だけを相手にすると先細りになるという見立てから出ています。
実際、2024年も2025年も、公式戦以外の来場が公式戦を上回っています。相手の範囲を広げたことで、作るものが球場から街区に変わり、必要な資金の量も変わりました。
3. 「民設民営とは口が裂けても言えない」と、自分から述べている
「土地だって行政所有のものですし、道路などのインフラも北広島市や北海道、北海道開発局が主体となっている」という整理です。「民間のおごり」という言葉まで使われています。
自分たちの投資額の大きさと、自分たちだけで成立していることを分けています。負担の側を自分から明示することは、相手の貢献を認めることでもあります。
4. 周辺14市町村との協議会を作っている
北広島市だけでなく、近隣を含む14市町村の連携協議会が組織されています。移転元である札幌市との関係にも触れられています。
一方で、行政との温度差も記録されています。開業直後に「やりきった」という空気を感じたこと、それに対して率直に伝えたことが書かれています。「行政の立場は、どちらかというと造るまでが大きな仕事」という説明は、否定ではなく性質の違いとして書かれています。
5. 開業特需と言われることを、避けようとしている
「私たちが一番嫌だったのは”開業特需”と言われることでした。だからこそ、2年目はかなり必死に取り組んでいました」という言葉です。来場者は2023年のおよそ346万人から2024年418万7,046人、2025年459万1,357人と3年続けて増えています。
累計1,000万人を超えた後も、「成功」ではなく「山を登っている途中」という表現が使われています。一方、球団単体の決算は2024年12月期が純損失2億8,500万円、2025年12月期が純損失12億6,200万円で、赤字幅が広がっています。FSEと球団単体では、数字の形が違います。
6. 来場者は増えているが、北広島市の人口は減り続けている
北広島市の人口は2007年のピーク61,174人から、2026年7月時点で55,882人です。開業した2023年3月の前後で、減少の傾向は変わっていません。市の人口ビジョンも、人口減少の主な要因として出生率と若年層の転出超過を挙げています。
増えているのは、来場者と地価と個人市民税収です。個人市民税収は2023年度が26.13億円で、2017年度比4.3%の増加とされています。地価は2015年から2023年で最大150%以上、北広島駅に隣接する地点では419%の上昇です。これらは事実として確認できますが、人口の増減とは別の数字になります。
7. 経済効果の数字が、球団と市の協力で作られた将来予測である
「年間500億円超」「北海道全体でおよそ1,000億円」という数字は、FSEと北広島市の協力を得て三菱UFJリサーチ&コンサルティングが作成したレポートによる試算です。2019年から2037年の複数年平均のモデルで、2023年度単年の直接効果の実績は452.22億円とされています。
球団の発表でも自治体の発表でもなく、独立した事後の検証でもありません。決算の数字も、官報の決算公告を読んだ第三者のまとめによるものです。数字ごとに誰が出したものかを分けて読むことが、この事例の前提になります。
本事例から見える経営とマーケティングの学び
F VILLAGEの物語は、球団という1社が動き、行政と組んで32ヘクタールの街区を作った事例として読めます。順序をたどると、次の並びになります。
- 課題を「お金」ではなく「権限」と置いた
- 相手の範囲を野球ファンの外へ広げた
- 球場ではなく街区を作る判断をした
- 土地とインフラを行政が担う形を自分から明示した
- 周辺14市町村との協議会を組んだ
- 開業特需と言われないために2年目に力を入れた
上の分析で触れたとおり、この事例には4つの見方が重なっています。課題の置き方が選択肢の範囲を決めたこと、相手を広げたことで作るものが変わったこと、負担の側を自分から明示したこと、そして話題ではない理由で来てもらうための積み上げを用意したことです。
同時に、この事例は数字の出どころを分けて読む必要がある対象でもあります。経済効果は球団と市の協力によるレポートの試算で、決算は官報を読んだ第三者のまとめです。来場者と地価と個人市民税収は増えている一方、北広島市の人口は減り続けています。移転元である札幌ドームの側の一次資料も、今回は収集できませんでした。地域の連携を読むときには、増えた数字と減った数字を並べ、それぞれ誰が出したものかを添えて見る必要がある、という点も持ち帰れる部分です。
「ビジネス知の機会格差をなくす」という私たちのミッションに向けて、これからも実践的で価値ある情報を発信していきます。この記事の内容について、さらに詳しく知りたい方は、ぜひご連絡ください。

執筆者 : 佐久間 一己 (さくま かずき)
つなぐスタジオ株式会社 代表取締役社長 / ローカルグローススタジオ Director
リクルート営業マネージャーを経て、福井県小浜市で道の駅・古民家ホテルの集客支援と行政の産業6次化に4年携わり、その後ユーザベースFORCAS(現Speeda)カスタマーサクセスマネージャー、スタートアップ執行役員、フィンテック事業責任者を務め、2025年に地方企業向けのマーケティング代理店を設立。BtoB事業でWEBメディアを立ち上げオーガニック流入を3か月で20倍に伸ばすなど、知名度や予算が限られる時期に効くマーケティングと採用の手法を、地方企業の規模に合わせて伴走します。


