ローカルグローススタジオは、『地方企業にスタートアップのような成長を』というテーマで、コンテンツ発信と支援サービスを展開しています。この記事では、実践的なビジネスノウハウを、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。
今回取り上げるのは、高知県高岡郡四万十町の株式会社四万十ドラマです。1994年に1町2村の出資による第三セクターとして設立され、2005年に完全民営化しました。道の駅「四万十とおわ」の運営、栗やお茶の商品づくり、「しまんと新聞ばっぐ」で知られています。
この記事は、地域の複数の担い手が組んで成果を出した事例を扱う「地域連携編」の1本です。誰が最初に動き、参加する側の取り分をどう設計し、続ける仕組みをどこに置いたかという観点で、1社では成立しない取り組みがどうやって回るようになったのかを読み解きます。
この記事の要約
先にストーリーの全体像です。四万十ドラマは1994年11月1日、1町2村が各800万円を出資する第三セクターとして設立されました。転機になったのは、デザイナーの梅原真氏との出会いです。畦地履正氏が「地元には何も資源がない」と漏らしたところ、四万十川や鮎、しいたけがあるじゃないかと一喝されました。ここから、地元の素材と技術に絞る方針が生まれます。「ローテク」「ローカル」「ローインパクト」という3つの基準を掲げ、四万十川に負担をかけないものづくりを進めました。2005年には完全民営化し、住民202名が株主になります。2007年7月1日に開業した道の駅「四万十とおわ」は、開業当日の来場が見込み1,000人に対して5,000人でした。栗は昭和30年代におよそ800トンあった生産量が2013年に18トンまで落ちていましたが、市場価格の1.5倍で買い取る形などを通じて2017年秋には50トンまで戻っています。「しまんと新聞ばっぐ」は、袋そのものではなく作り方のワークショップを広げる形をとりました。
このストーリーから持ち帰れる観点は、次の7つです。それぞれ本文の章で事実を確認し、最後の7章で説明し直します。
1. 第三セクターとして始まり、住民が株主の会社へ移っている(1章)
2. 「地元には何もない」という認識が、外からの指摘で覆っている(1章)
3. 3つの「ロー」という基準を、自分たちで作っている(2章)
4. 栗の買い取り価格を、市場価格の1.5倍にしている(3章)
5. 新聞ばっぐを、商品ではなく作り方として広げている(4章)
6. 反対が多いことを、やる理由として挙げている(5章)
7. 代表者の肩書きが、資料によって一致していない(6章)
各章の末尾に、ローカルグローススタジオの分析と「この事例から考えられること」をまとめています。
参考資料一覧
- 株式会社四万十ドラマ 公式サイト 会社概要(資本金、従業員数、代表者)
- 四万十ドラマ 公式note(新体制、工場の周年、JALでの採用)
- PR TIMES 四万十ドラマ(2024年8月20日。しまんと新聞ばっぐの新サイト)、(2025年9月19日。大阪梅田への出店)、(2026年4月29日。JAL国内線ファーストクラスでの採用)
- 料理通信「畦地履正さん」(2021年5月31日。四万十川方式、3つのロー、栗山の再生、コロナ禍)
- 月刊『事業構想』2021年11月号 畦地履正氏(3つのローの定義、道の駅の年商)
- 梅原真デザイン事務所 インタビュー(新聞ばっぐの発想、東北との役割分担)
- 中小企業家同友会全国協議会『中同協』第14回 畦地履正氏(道の駅の年商、開業当日の来場、反対についての考え方)
- 一般社団法人農林水産業みらい基金(生産の現状、地域の宝物についての発言)
- ITmedia ビジネスオンライン(2018年7月24日。農協時代の回想、道の駅の累計来場者)
- LOCAL VENTURE LAB「七転び八起き酒場 第3夜目」(2019年6月28日。辞表、信用を失った経緯)
- しゃかいか!(2015年8月10日。視察者への言葉)
- JBpress 畦地履正氏 執筆記事(2020年6月24日。コロナ禍の受け止め。無料公開は1ページ目のみ)
- 環境省「フロントランナー報告書」令和2年度版(梅原氏との出会い、将来目標)
- 愛媛大学 紀要論文(設立の経緯、民営化、住民株主、売上高、従業員、買い取り価格、栗の生産量)
- 月刊『致知』2025年9月号(畦地履正氏の経歴)
数字で見る四万十ドラマ
| 時点 | 数字 | 出典 |
|---|---|---|
| 1994年11月1日 | 設立。1町2村が各800万円を出資する第三セクター | 愛媛大学 紀要論文 |
| 昭和30年代 | 地域の栗の生産量 およそ800トン(高知県内の7割から8割を占める産地) | 愛媛大学 紀要論文ほか |
| 2005年 | 完全民営化。住民株主202名 | 愛媛大学 紀要論文 |
| 2006年頃 | 3つの「ロー」を打ち出す | 料理通信 |
| 2007年7月1日 | 道の駅「四万十とおわ」開業。当日の来場5,000人(見込み1,000人) | 中同協、道の駅公式ブログ |
| 2007年度 | 道の駅とおわの年商 1億円 | 中同協 |
| 2008年度 | 道の駅とおわの年商 1億3,000万円 | 中同協 |
| 2010年2月 | 道の駅とおわ、開業2年半で来場者40万人 | 中同協 |
| 2013年 | 栗の生産量 18トン(底) | 愛媛大学 紀要論文 |
| 2017年秋 | 栗の生産量 50トンへ回復 | 愛媛大学 紀要論文 |
| 2018年時点 | 道の駅とおわの累計来場者150万人超 | ITmedia |
| 2020年度 | 売上高 およそ3億円 | 愛媛大学 紀要論文 |
| 2021年ヒアリング時点 | 正社員20名、パート・アルバイトを含めおよそ30名。道の駅とおわの年間来客数15万人、視察者は年間500人から1,000人(コロナ前) | 愛媛大学 紀要論文 |
| 2021年時点 | 道の駅とおわは年商1億5,000万円の施設に | 事業構想 |
| 2022年11月23日 | 道の駅とおわ、開業15年4か月で累計来場者200万人 | 道の駅公式ブログ |
| 2026年9月時点 | 資本金3,700万円、従業員22名(うちパート3名) | 公式サイト |
数字の読み方を、先に3点断っておきます。1つは、資本金です。公式サイトでは3,700万円ですが、2021年のヒアリングに基づく論文では3,900万円とされています。時点によって変わっている可能性があります。2つ目は、従業員数です。公式サイトの22名(うちパート3名)と、2021年時点の正社員20名・全体でおよそ30名は、数える範囲が違うとみられます。3つ目は、代表者です。公式サイトの会社概要は畦地履正氏を代表取締役としていますが、2025年9月のリリース本文には畦地剛司氏が「取締役社長」として登場し、雑誌の経歴欄には履正氏が「令和6年会長」と書かれています。資料の間で一致していないため、この記事では現在の代表者を断定していません。
1. 第三セクターから、住民が株主の会社へ
1町2村が800万円ずつ出した
四万十ドラマは1994年11月1日に設立されました。出資したのは1町2村で、それぞれ800万円です。行政が出資する第三セクターとして始まっています。
他の地域連携の事例と違い、最初に動いたのは民間ではありません。行政の側が事業の形を用意した形です。
「地元には何も資源がない」
方向を決めたのは、デザイナーの梅原真氏との出会いでした。当時の畦地履正氏の認識と、その場でのやり取りが記録されています。
「『地元には何も資源がない』と漏らすと、『四万十川や鮎、しいたけなど良い資源があるじゃないか』と一喝され、地元の資源に改めて気づかされた。『自身は足元の地域を理解できていなかった』」
地元の人が「何もない」と思っていたものを、外から来た人が資源だと指摘した場面です。
畦地氏は、その後の調べ直しについても語っています。
「地元出身の私でしたが、改めて市場調査をしてみると、生産量日本一のシイタケ栽培や、川舟を作る技術を持つ舟大工など、ユニークな資源が多いことに改めて気づきました」
出身者であることが、必ずしも地域を把握していることにはならない、という順序で書かれています。
2005年、住民202名が株主になった
2005年、四万十ドラマは完全民営化します。このとき、住民202名が株主になりました。
行政が出資する形から、住民が出資する形へ移ったことになります。行政の出資であれば、方針は行政の判断に左右されます。住民が株主であれば、株主の顔ぶれがそのまま地域の人になります。
資本金は、2021年のヒアリング時点で3,900万円、2026年9月時点の公式サイトでは3,700万円です。
ローカルグローススタジオの分析:何を資源と見るかが、先に決まっている
私たちは間違ってはいけない戦略の順番|ビジョン→事業→商品→営業→組織という記事で、戦略には順番があり、「何のために事業をやるか」が先に決まっていれば、その下の判断(何を売るか、どう売るか)が決まりやすいと書きました。
四万十ドラマを読み解くと、「何のために」が変わった瞬間が記録されています。「地元には何も資源がない」という認識のままであれば、外から何かを持ってくる方向に事業が向かいます。四万十川や鮎、しいたけを資源と見た後は、地元にあるものを使う方向になります。
同記事では、手元にある資源から考え始めると、その延長線しか出てこないと書きました。この事例は、その逆の場面です。手元に何があるかを見誤っていたため、延長線そのものが見えていませんでした。外からの指摘が効いたのは、資源の有無ではなく、資源の見え方が変わったからだと読めます。
この事例から考えられること
照らし合わせてみる項目
- 自地域や自社に「何もない」と感じていないか
- その認識を、外の人に確かめたことがあるか
- 出身者であることと、把握していることを分けて考えているか
- 出資者の顔ぶれが、事業の方針にどう効いているか
- 行政の出資と、住民の出資の違いを把握しているか
事例から読み取れること
1. 第三セクターとして始まり、住民が株主の会社へ移っている
1994年に1町2村が各800万円を出資して設立され、2005年に完全民営化して住民202名が株主になりました。
2. 「地元には何もない」という認識が、外からの指摘で覆っている
「四万十川や鮎、しいたけなど良い資源があるじゃないか」という一喝が、方向を変えたと語られています。
3. 出身者であることが、把握していることを意味していなかった
「地元出身の私でしたが、改めて市場調査をしてみると」という書き方で、調べ直しの必要が示されています。
2. 3つの「ロー」という基準
ローテク、ローカル、ローインパクト
四万十ドラマが掲げる基準は、3つの「ロー」という形で言葉になっています。
「そこで、地元の素材や技術、知恵を活かした1〜1.5次産業にこだわる『ローテク』、四万十川を共有財産に足元の豊かさや生き方を考える『ローカル』、四万十川に負荷をかけずに活用する仕組みを作る『ローインパクト』をコンセプトに、四万十川に負担をかけないものづくりを追求したのです」
3つとも「低い」を意味する言葉から始まっています。高度な技術でも、広い市場でも、大きな影響でもありません。あえて低い方向に揃えた基準です。
この基準を打ち出した時期についても言及があります。
「3つのローを打ち出したのは15年前」
2021年の取材での発言なので、2006年頃を指しています。
「四万十川方式」という言い方
自分たちの形を表す言葉も作られています。
「四万十川方式と呼んでいます。四万十川流域の生き方をブランドにしたいのです」
商品ではなく、流域の生き方をブランドにすると書かれています。特定の商品を売るのではなく、その土地での暮らし方そのものを中心に置く形です。
梅原氏から受け取ったものについても、整理されています。
「一次産業に特化すること。考え方をつくること。豊かさとは何かを考える。それが梅原さんの教えです」
3つとも、商品の作り方の話ではありません。何を中心に置くかの話です。
ローカルグローススタジオの分析:高い方向で競わないという選び方
私たちは地方企業やスタートアップに共通する、低リソース・ブランド無しの戦わない戦略という記事で、資源で劣る側が正面から競わない方法について書きました。
3つの「ロー」を読み解くと、私たちが記事に書いた考え方と同じ考えを、基準として言葉にしていることが分かります。技術の高さで競えば、設備を持つ側が有利になります。市場の広さで競えば、流通を持つ側が有利です。環境への影響を小さくすることは、規模を追わないことでもあります。
同じ記事では、戦略とはやらないことを決めることだと書きました。この事例では、やらない条件が3つ並んで言葉になっています。基準が言葉になっていると、後から入る人にも判断できます。「これはローテクか」「四万十川に負荷をかけないか」という問いに変わるためです。
一方で、この基準は事業の幅を狭めます。高度な加工が必要な商品や、大量に流す商品は選べません。基準を持つことは、できないことを決めることでもあります。
この事例から考えられること
照らし合わせてみる項目
- 自社の基準が、言葉になっているか
- その基準で、判断が分かれる場面を減らせているか
- 高い方向で競わない選択を、意図してとっているか
- 基準によって、できなくなることを把握しているか
- 商品ではなく、生き方や考え方を中心にできるか
事例から読み取れること
1. 3つの「ロー」という基準を、自分たちで作っている
ローテク、ローカル、ローインパクトの3つです。いずれも「低い」方向に揃えられています。
2. ブランドの対象を、商品ではなく生き方に置いている
「四万十川流域の生き方をブランドにしたいのです」と語られています。
3. 基準が言葉になっていることで、判断が渡せる
「これはローテクか」という問いに変わるため、後から入る人にも判断ができます。
3. 栗を、市場価格の1.5倍で買う
800トンから18トンへ、そして50トンへ
この地域は、かつて栗の産地でした。昭和30年代の生産量はおよそ800トンで、高知県内の7割から8割を占めていたとされます。
その生産量は、2013年に18トンまで落ちました。その後、2017年秋には50トンまで戻っています。
放置されていた栗山について、意外な見方も語られています。
「でも、放置されていたおかげで、肥料も農薬も抜け切って、ケミカルフリーの栗山になったんです」
手が入らなかった期間を、不利ではない条件として捉え直しています。
買い取り価格が、市場価格の1.5倍
生産者との関係で特徴的なのが、買い取り価格です。愛媛大学の論文には、ヒアリングに基づく記述として、買い取り価格が市場価格の1.5倍であることが書かれています。理由として挙げられているのは、農薬を使わないなど手間をかけて栽培されていることと、高く買うことを自らの使命と認識していることです。
なお、A品・B品・C品というランク分けがあり、C品は買い取りの対象外という注記も付いています。すべてを高く買う形ではありません。
出口があるため、働きかけられる
高く買える理由についても、説明があります。
「商品という出口が確保されているから、私たちも責任を持って農家に働き掛けられる。引き受けてくれる生産者を増やすことで、四万十川流域はオーガニックになっていく」
先に売り先を作り、その分だけ買えるという順序です。買うことから始めると、売れなければ在庫になります。
同時に、生産の側の制約も語られています。
「生産者の高齢化と後継者不足で、お茶も栗も生産が追いつかず、商品の引き合いがあってもお断りせざるを得ない状況です」
売り先があっても、作る人が足りないという状態です。
目指す方向についても言葉があります。
「都市部から遠い中山間地域でも、お茶、栗という足元にあるもので勝負できるところを見せたい。地域の宝物を磨いて、きちっと世の中に出していく仕組みを作ります」
ローカルグローススタジオの分析:参加する側の取り分が、価格になっている
私たちはターゲットと便益を5-10パターンに整理するという記事で、同じサービスでも相手によって得られる価値が違うため、誰に、何を、どんな独自性で届けるかを相手ごとに整理するという考え方を書きました。
四万十ドラマにとっての相手は、買う人と、作る人の2種類です。作る人にとっての価値が、市場価格の1.5倍という買い取り価格として示されています。
同じ記事では、相手ごとに価値を言葉にすると、訴求や施策を出し分けられるとも書きました。地域の連携が続かなくなる理由の1つは、参加する側の取り分がはっきりしないことです。この事例では、取り分が価格という形で見えています。生産者は、この価格で作るかどうかを判断できます。
一方で、高く買うことは売り先の確保とセットになっています。「商品という出口が確保されているから」という説明は、その順序を示しています。取り分を用意するには、その前に売る側の仕事があるという構造です。加えて、C品は買い取らないという条件もあり、無条件に高い価格ではありません。
この事例から考えられること
照らし合わせてみる項目
- 仕入れ先にとっての取り分が、価格として見えているか
- 高く買うための売り先を、先に作っているか
- 買い取りの条件を、ランクなどで分けているか
- 生産の側の制約を、把握しているか
- 手が入らなかった期間を、条件として捉え直せないか
事例から読み取れること
1. 栗の買い取り価格を、市場価格の1.5倍にしている
農薬を使わない栽培の手間と、高く買うことを使命とする認識が、理由として挙げられています。
2. 高く買える理由が、売り先の確保にある
「商品という出口が確保されているから、私たちも責任を持って農家に働き掛けられる」と説明されています。
3. 無条件に高いわけではない
A品・B品・C品というランク分けがあり、C品は買い取りの対象外です。
4. 新聞ばっぐは、作り方を売った
発想は、四万十川に負荷をかけない包装から
「しまんと新聞ばっぐ」は、新聞紙で作る紙袋です。発想の出どころは、梅原真氏の考え方にあります。
「ラストリバーのココロザシに合わせて、四万十川流域で販売される商品は、すべて新聞紙で包もう。」
形にしたのは、地元の人でした。
「『四万十川流域で販売される商品はすべて新聞紙で包もう』という俺の考え方を、地元の主婦の伊藤正子さんがこんなカタチにしてくれた」
その過程も語られています。
「実は俺も最初、新聞紙で四角い袋を作ってみたんやけど、すぐにビリビリ破れていた。ところが2003年のある日、伊藤さんからしっかりしたものが出て来て、ええっ!と驚いた。新聞紙を何重にもして強くして、しかも、持ち手までついていた。そのクリエイティブさに俺は逆に驚いた」
考え方を出した人と、実際に作れる形にした人が、別々です。
袋ではなく、作り方を広げた
この取り組みの特徴は、売っているものにあります。
「新聞ばっぐを売るのではなく、世界に作り方のワークショップを売りにいく」
完成品を売るのではなく、作り方を教える形です。この形であれば、作る人が増えるほど広がります。1つずつ作って売る場合、作れる数が上限になります。
東日本大震災の後には、役割の分け方も決められました。
「東北は新聞ばっぐで少しでも稼がなければいけないので、ビジネスとして独立してやってください、四万十はワークショップを通してソフトを売りますわということで、東北オフィス、四万十オフィスと分けてリリースしている」
東北では袋そのものを売って稼ぐ形、四万十では作り方を売る形と、同じ取り組みでも役割を分けています。相手の状況によって、何を売るかを変えた形です。
ローカルグローススタジオの分析:積み上がっているのは、作品ではなく作り方のほうである
私たちは顧客獲得コストを下げるには「ストック>フロー」を意識しようという記事で、広告のように止めれば効果が消えるフロー型と、一度作れば効き続けるストック型を分けて考えるという考え方を書きました。
新聞ばっぐで積み上げられているのは、袋の在庫ではありません。作り方と、それを教える仕組みです。教えるたびに作れる人が増え、その人がまた広げます。
同じ記事では、ストック型は一度作れば効き続けるとも書きました。この事例では、積み上げたものが「教えられる状態」として置かれているため、震災後に東北で別の使い方をすることもできました。完成品だけを売る形であれば、この転用はできません。
一方で、作り方を広げると、その袋の希少性は下がります。誰でも作れるようになることと、自分たちが売れることは、必ずしも同じ方向を向きません。この事例で成立しているのは、売っているのが袋ではなくワークショップだからです。何を売っているかによって、広げることの意味が変わります。
この事例から考えられること
照らし合わせてみる項目
- 自社が売っているものが、完成品か、作り方かを確認しているか
- 積み上げたものが、在庫ではなく仕組みの側にあるか
- 相手の状況によって、売るものを変えられるか
- 広げることと、自社が売れることが同じ方向を向いているか
- 考え方を出した人と、形にした人を分けて記録しているか
事例から読み取れること
1. 新聞ばっぐを、商品ではなく作り方として広げている
「新聞ばっぐを売るのではなく、世界に作り方のワークショップを売りにいく」という形です。
2. 相手によって、売るものを変えている
東北ではビジネスとして袋を売り、四万十ではワークショップを売るという役割分担が決められました。
3. 考え方と、形にする力が別の人から出ている
梅原氏が新聞紙で包むという考え方を出し、地元の伊藤正子氏が破れない袋の形を作りました。
5. 反対が多いことを、やる理由にする
「皆が反対するならやってみる価値がある」
道の駅「四万十とおわ」の開業をめぐって、判断の基準が語られています。
「皆が反対するならやってみる価値がある。しかも1割は賛成者がいるわけだから」
反対が多いことを、やらない理由ではなく、やる理由として挙げています。同時に「1割は賛成者がいる」と、賛成の側にも触れています。
道の駅は2007年7月1日に開業しました。当日の来場は5,000人で、見込みの1,000人の5倍です。当時の村の人口はおよそ3,000人でした。年商は2007年度が1億円、2008年度が1億3,000万円、2021年時点では1億5,000万円の施設になっています。来場者は開業2年半で40万人、2018年時点で累計150万人超、2022年11月23日に開業15年4か月で200万人に達しました。
交流の作り方
道の駅の位置づけについても、言葉があります。
「発信した商品を購入した方が、ここに来てもらえるような産業を構築したい。そうやって交流を広げていきたい」
商品を買った人が訪ねてくる、という順序です。この形を「四万十川方式 地元発着型産業」と本人が呼んでいます。
視察者への言葉も残っています。
「来るなら、本気で来て欲しい」
視察は年間500人から1,000人(コロナ前)とされています。受け入れる側の負担があることが、この言葉から読み取れます。
失敗も語られている
順調な話ばかりではありません。畦地氏は、自身の経緯についても語っています。
「今までに辞表は5回は出している」
「産まれたときからせっかちだったんだよなあ。このせっかちな気質がこの人生で色んな転びの一因になっていたりしてね」
「俺は調子乗ったときがいけないね。どこかで足元すくわれてる」
無農薬野菜の出荷で信用を失った経緯についても、短い言葉が残っています。
「ないものはない」
在庫がない状態でそう言えなかったことが、信用を失う原因になったという文脈です。
「ここまで落ちるものかと感じたよ。ここまで落ちたら、もう上がるしかない」
コロナ禍についても、本人の記述があります。
「私たちのような地域の産品を扱う会社も、コロナで大きな影響を受けました。ただ、売り上げが急減していたときはなすすべもなく立ちすくむだけでしたが、ある程度その状況になれてしまえば、コロナは組織を変革させるいい機会です。楽観的に思うかもしれませんが、コロナ禍によって四万十ドラマはコロナ前より強靱になっています」
ローカルグローススタジオの分析:反対の扱い方が、記録に残っている
私たちは2章でも触れた戦わない戦略の記事で、大手と直接ぶつからない場所を選ぶことについて書きました。
「皆が反対するならやってみる価値がある」という言い方は、反対の多さを条件として捉え直したものです。反対が多い取り組みは、他の人がやっていない領域でもあります。
同時に、この基準だけで判断すると危うさもあります。反対が多いことは、単に成立しないことの表れでもあり得るからです。この事例で見ておきたいのは、同じ人が失敗も語っている点です。辞表を5回出したこと、信用を失って1年間干されたことが、同じ場で語られています。
反対を押し切った成功だけが記録されているのではなく、押し切って失敗した経緯も残っています。地域の連携の事例を読むときには、この両方があるかどうかが1つの目安になります。
この事例から考えられること
照らし合わせてみる項目
- 反対が多いことを、条件として見たことがあるか
- 賛成する少数が、誰かを把握しているか
- 押し切って失敗した経緯も、記録しているか
- 視察や見学を受け入れる負担を、把握しているか
- 商品を買った人が訪ねてくる流れを、作れているか
事例から読み取れること
1. 反対が多いことを、やる理由として挙げている
「皆が反対するならやってみる価値がある。しかも1割は賛成者がいるわけだから」という言葉です。
2. 失敗も、同じ場で語られている
辞表を5回出したこと、信用を失った経緯が本人の言葉として残っています。
3. 商品から交流へ、という順序が示されている
「発信した商品を購入した方が、ここに来てもらえるような産業を構築したい」という説明です。
6. 公開されている数字と、確認できない範囲
代表者が、資料によって一致していない
四万十ドラマについて確認が必要なのが、代表者です。
公式サイトの会社概要は、2026年9月時点でも畦地履正氏を代表取締役としています。2026年4月のリリースの会社概要欄も同じです。
一方、2025年9月のリリース本文には「四万十ドラマ取締役社長 畦地剛司」という見出しで、ご子息からの挨拶が掲載されています。また、2025年9月の雑誌の経歴欄には、履正氏について「令和6年会長」と書かれています。
社内の呼称と、公式サイトの記載が一致していない状態です。この記事では、現在の代表者を断定していません。
数字にも幅がある
資本金は、公式サイトで3,700万円、2021年のヒアリングに基づく論文で3,900万円です。より古い記事では1,200万円という数字も見られます。時点によって変わっている可能性があります。
従業員数も、公式サイトの22名(うちパート3名)と、2021年時点の正社員20名・全体でおよそ30名では、数える範囲が違うとみられます。
売上高は、2020年度でおよそ3億円、2021年度の見込みがおよそ4億円です。環境省の報告書には、年商10億円・利益1億円という将来の目標が示されています。
確認できなかった事項
第三セクターとして設立された経緯そのものについて、畦地氏本人の言葉は今回の調査では見つかりませんでした。設立の経緯は、大学の論文や環境省の報告書といった第三者の記述として存在します。
「7回の挫折」という数え方も、記事の企画名である「七転び八起き」から来た表現です。本人が挫折を7回と明言しているわけではありません。この記事では、確認できた「辞表は5回」という言葉だけを使っています。
コロナ禍への対応の具体的な内容や数字は、本人が書いた記事の2ページ目以降が有料のため、今回は確認できませんでした。
ローカルグローススタジオの分析:長く続く組織ほど、時点の確認が要る
私たちは4章でも触れたストックの記事で、一度作ったものが効き続けることを書きました。
四万十ドラマは1994年の設立から30年以上が経っています。その間に、第三セクターから民営化へ、社長から会長への交代へと、体制が変わってきました。
長く続く組織を読むときには、どの時点の資料かを添える作業が必要になります。この事例では、資本金も従業員数も代表者も、資料によって違いました。いずれも誤りではなく、時点や数える範囲の違いです。
この記事で1つずつ出典と時点を添えているのは、この理由によります。
この事例から考えられること
照らし合わせてみる項目
- 公式サイトの記載と、社内の呼称が一致しているか
- 資本金や従業員数を、最新の値に更新しているか
- 数える範囲を、明示しているか
- 設立の経緯を、当事者の言葉で残しているか
- 慣用句から来た数字を、事実として扱っていないか
事例から読み取れること
1. 代表者の肩書きが、資料によって一致していない
公式サイトは畦地履正氏を代表取締役とし、リリース本文には畦地剛司氏が取締役社長として登場します。
2. 資本金と従業員数に、資料による幅がある
資本金は3,700万円と3,900万円、従業員数は22名とおよそ30名という数字があります。
3. 慣用句から来た表現が、数字として流通することがある
「七転び八起き」という企画名が、挫折の回数として読まれる形になっています。
7. ローカルグローススタジオの視点
冒頭に挙げた7つの観点を、本文で確認した事実で説明し直します。
1. 第三セクターとして始まり、住民が株主の会社へ移っている
1994年11月1日、1町2村が各800万円を出資する第三セクターとして設立されました。2005年に完全民営化し、住民202名が株主になっています。
最初に動いたのが行政側だった点は、他の地域連携の事例と違う部分です。その後、出資者が住民に移りました。行政の出資であれば方針は行政の判断に左右されますが、住民が株主であれば、株主の顔ぶれがそのまま地域の人になります。続ける仕組みの置き方が、途中で変わった事例として読めます。
2. 「地元には何もない」という認識が、外からの指摘で覆っている
畦地履正氏が「地元には何も資源がない」と漏らしたところ、梅原真氏から「四万十川や鮎、しいたけなど良い資源があるじゃないか」と一喝された場面が記録されています。
その後、市場調査をし直して、しいたけの生産量や舟大工の技術に気づいたと語られています。出身者であることと、地域を把握していることは別だという順序が、本人の言葉で示されています。
3. 3つの「ロー」という基準を、自分たちで作っている
ローテク、ローカル、ローインパクトの3つです。いずれも「低い」方向に揃えられています。技術の高さでも、市場の広さでも、規模でも競わない選択です。
基準が言葉になっていることで、後から入る人にも判断ができます。「これはローテクか」「四万十川に負荷をかけないか」という問いに変わるためです。同時に、この基準は事業の幅を狭めます。基準を持つことは、できないことを決めることでもあります。
4. 栗の買い取り価格を、市場価格の1.5倍にしている
農薬を使わない栽培の手間と、高く買うことを自らの使命とする認識が理由として挙げられています。生産者にとっての取り分が、価格という形で見えている状態です。
高く買えるのは「商品という出口が確保されているから」と説明されています。取り分を用意するには、その前に売る側の仕事があるという順序です。なお、A品・B品・C品というランク分けがあり、C品は買い取りの対象外です。無条件に高い価格ではありません。栗の生産量は、2013年の18トンから2017年秋には50トンまで戻っています。
5. 新聞ばっぐを、商品ではなく作り方として広げている
「新聞ばっぐを売るのではなく、世界に作り方のワークショップを売りにいく」という形です。完成品を売る場合、作れる数が上限になります。作り方を売る形であれば、作る人が増えるほど広がります。
東日本大震災の後には、東北ではビジネスとして袋を売り、四万十ではワークショップを売るという役割分担が決められました。相手の状況によって、売るものを変えた形です。積み上げたものが「教えられる状態」として置かれていたため、この転用ができたと読めます。
6. 反対が多いことを、やる理由として挙げている
「皆が反対するならやってみる価値がある。しかも1割は賛成者がいるわけだから」という言葉です。道の駅「四万十とおわ」は2007年7月1日に開業し、当日の来場は見込み1,000人に対して5,000人でした。
一方、同じ人が失敗も語っています。「今までに辞表は5回は出している」「ここまで落ちるものかと感じたよ」といった言葉です。反対を押し切った成功と、押し切って失敗した経緯の両方が、同じ場に残っています。
7. 代表者の肩書きが、資料によって一致していない
公式サイトの会社概要は2026年9月時点でも畦地履正氏を代表取締役としていますが、2025年9月のリリース本文には畦地剛司氏が「取締役社長」として登場し、雑誌の経歴欄には履正氏が「令和6年会長」と書かれています。
資本金も3,700万円と3,900万円、従業員数も22名とおよそ30名と、資料によって幅があります。いずれも誤りではなく、時点や数える範囲の違いです。30年以上続く組織を読むときには、どの時点の資料かを添える作業が必要になる、という点が読み取れます。
本事例から見える経営とマーケティングの学び
四万十ドラマの物語は、行政が用意した事業の形が、住民が株主の会社になり、30年以上続いてきた事例として読めます。順序をたどると、次の並びになります。
- 1町2村の出資で始まった
- 外からの指摘で地元の資源の見え方が変わった
- 3つの「ロー」という基準を言葉にした
- 生産者への取り分を価格として示した
- 作り方を売る形で取り組みを広げた
- 2005年に住民が株主になる形へ移った
上の分析で触れたとおり、この事例には4つの見方が重なっています。何を資源と見るかが先に決まったこと、高い方向で競わない基準を言葉にしたこと、参加する側の取り分が価格として見えていること、そして積み上げたものが完成品ではなく作り方の側にあることです。
同時に、この事例は時点の確認が要る対象でもあります。代表者の肩書きが資料によって一致せず、資本金も従業員数も幅があります。設立の経緯についての当事者の言葉は見つからず、「七転び八起き」という企画名が挫折の回数として流通する形にもなっています。長く続く組織を読むときには、どの時点の、誰による資料かを添えて扱う必要がある、という点も持ち帰れる部分です。
「ビジネス知の機会格差をなくす」という私たちのミッションに向けて、これからも実践的で価値ある情報を発信していきます。この記事の内容について、さらに詳しく知りたい方は、ぜひご連絡ください。

執筆者 : 佐久間 一己 (さくま かずき)
つなぐスタジオ株式会社 代表取締役社長 / ローカルグローススタジオ Director
リクルート営業マネージャーを経て、福井県小浜市で道の駅・古民家ホテルの集客支援と行政の産業6次化に4年携わり、その後ユーザベースFORCAS(現Speeda)カスタマーサクセスマネージャー、スタートアップ執行役員、フィンテック事業責任者を務め、2025年に地方企業向けのマーケティング代理店を設立。BtoB事業でWEBメディアを立ち上げオーガニック流入を3か月で20倍に伸ばすなど、知名度や予算が限られる時期に効くマーケティングと採用の手法を、地方企業の規模に合わせて伴走します。


