先進企業に学ぶ(地域連携編) – こゆ財団(宮崎県新富町)|役場の外に法人を作り、ふるさと納税の6%で回し、1粒1,000円のライチを売った

ローカルグローススタジオは、『地方企業にスタートアップのような成長を』というテーマで、コンテンツ発信と支援サービスを展開しています。この記事では、実践的なビジネスノウハウを、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。

今回取り上げるのは、宮崎県児湯郡新富町の一般財団法人こゆ地域づくり推進機構(こゆ財団)です。2017年に設立され、ふるさと納税の運営を町から受託しながら、特産品の販売と起業家の育成を手がけてきました。1粒1,000円で売る「新富ライチ」でも知られています。

この記事は、地域の複数の担い手が組んで成果を出した事例を扱う「地域連携編」の1本です。誰が最初に動き、参加する側の取り分をどう設計し、続ける仕組みをどこに置いたかという観点で、1社では成立しない取り組みがどうやって回るようになったのかを読み解きます。

この記事の要約

先にストーリーの全体像です。最初に動いたのは、新富町役場の職員だった岡本啓二氏です。役場の中だけでは続けられないと考え、役場の外に法人を作る提案をしました。当時の町長からの返答は「例の団体設立、やってくれ。でもお金はないぞ」というものでした。そこで岡本氏は、ふるさと納税の寄付額を1年で1億円まで伸ばし、そのうち1,000万円を新しい団体に回すという交渉をします。実際には1年で4億円を超えました。議会からは、役場の職員が法人を経営できるのかという懸念が出ます。そこで岡本氏は、外部の地域プロデューサーである齋藤潤一氏に代表理事就任を打診しました。財団は総寄付額の6%を町からの委託料として受け取る形で回ります。自治体が民間へ委託する場合の相場が10%から20%とされる中で、低く設計されています。稼いだ収益は、起業家を育てる「新富ローカルベンチャースクール」に投資されました。ふるさと納税の寄付額は2015年度のおよそ2,000万円から2018年度の19億円へ、3年でおよそ95倍になっています。2025年6月には、齋藤氏から岡本氏へ代表理事が交代しました。

このストーリーから持ち帰れる観点は、次の7つです。それぞれ本文の章で事実を確認し、最後の7章で説明し直します。

1. 役場の中ではなく、外に法人を作る形を選んでいる(1章)

2. 資金がない状態で、寄付額を増やす約束と引き換えに立ち上げている(1章)

3. 議会を通すために、外部から代表を迎えている(2章)

4. 受託料の率を、相場より低く設計している(3章)

5. 1粒1,000円という価格が、生産者の反対から始まっている(4章)

6. 稼いだ収益を、起業家の育成に回す形にしている(5章)

7. 代表が交代しても続く形になっている(6章)

各章の末尾に、ローカルグローススタジオの分析と「この事例から考えられること」をまとめています。

参考資料一覧

数字で見るこゆ財団と新富町

時点数字出典
2015年度新富町のふるさと納税寄付額 およそ2,000万円LOCAL LETTER、NewsPicks
2016年度ふるさと納税寄付額 およそ4億3,000万円PR TIMES、SMART AGRI
2017年一般財団法人こゆ地域づくり推進機構 設立公式
2017年度ふるさと納税寄付額 およそ9億円。関係人口4,014人NewsPicks、公式、PR TIMES
2017年度新富ライチの出荷 446セット公式note
2018年度ふるさと納税寄付額 19億円。関係人口7,605人。新富ライチの出荷1,044セットNewsPicks、PR TIMES、公式note
2015年度から2018年度寄付額が3年間でおよそ95倍NewsPicks
制度設計時(2017年)ふるさと納税の運営受託料は総寄付額の6%。自治体が民間へ委託する場合の相場は10%から20%とされるNewsPicks
2018年度(1期)ローカルベンチャースクール1期生22名、うち2名が2019年4月に新富町へ着任PR TIMES
2017年から2019年こゆ財団を通じた移住者15名。2019年4月に6名が着任PR TIMES
2019年度新富ライチの出荷 1,829セット公式note
2022年頃ローカルベンチャースクール4期までの参加者およそ80名、うち7名が新富町へ移住。こゆ財団の職員はおよそ20人読むふるさとチョイス、日経BP
2022年11月時点新富町の人口 16,298人日経BP
2017年度から2024年度ふるさと納税の累計寄付額100億円超(8年間)PR TIMES(2025年6月27日)
2024年9月時点新富町の人口 およそ1万6,200人PR TIMES
2025年6月1日代表理事が齋藤潤一氏から岡本啓二氏へ交代PR TIMES
2026年6月10日時点新富ライチのふるさと納税発送 レギュラー2,067件、premium50 1,134件公式note

数字の読み方を、先に3点断っておきます。1つは、ライチの規模です。公表されているのは出荷のセット数と発送の件数であり、売上の金額は今回の調査では確認できませんでした。財団の収益に占める比率も分かりません。この記事では、件数の話にとどめています。2つ目は、受託料の率です。総寄付額の6%という数字は2017年の制度設計時のものです。現在も同じ率かどうかは、今回の資料では確認できませんでした。3つ目は、新富町の人口です。今回確認できたのは2022年11月の16,298人と2024年9月のおよそ1万6,200人までで、それ以降の数字は確認できていません。

1. 役場の外に、法人を作る

役場だけでは続かないという見立て

こゆ財団の設立を提案したのは、新富町役場の職員だった岡本啓二氏です。理由は、役場の中では続けられないという見立てにありました。

「以前から役場だけで頑張っても難しいと感じていました。当時、地域には一過性の単発的な取組みはあっても、それを継続するプレイヤーがおらず、勢いがありませんでした。このままでは、衰退していく一方だという危機感があったので、役場の外に法人をつくり、そこでちゃんとお金を稼いで、ノウハウを周りに普及することで、地域経済が回せる仕組みを確立できたらいいと思って、地域商社(こゆ財団)を提案しました」

「一過性の単発的な取組み」と「それを継続するプレイヤー」が、分けて語られています。取り組み自体はあったが、続ける主体がなかったという整理です。

「でもお金はないぞ」

町長からの返答は、条件付きの許可でした。

「例の団体設立、やってくれ。でもお金はないぞ」

資金がない状態での立ち上げになります。岡本氏は、その資金を自分で作る提案をしました。

「僕にふるさと納税をやらせてください。1年で1億円集められたら、うち1000万円を新しい団体にください」

成果を出せたら原資をもらう、という条件です。当時の状況も語られています。

「出張のお金すら出せないほどの資金難で、まち全体が困っていたので、まずはふるさと納税で資金を調達することを考えました。当時、2,000万円だったふるさと納税の寄付額を1億円に上げるかわりに、寄付額の一部で地域商社を立ち上げさせてほしいという交渉を町長した上で、とにかく営業に回ったり、いろんな方にお話を聞きながら、1年で4億円まで寄付額を伸ばしました」

約束は1億円でしたが、実際には4億円を超えています。2015年度のおよそ2,000万円から、2016年度はおよそ4億3,000万円になりました。

ローカルグローススタジオの分析:原資の作り方が、先に決まっている

私たちは間違ってはいけない戦略の順番|ビジョン→事業→商品→営業→組織という記事で、戦略には順番があり、「何のために事業をやるか」が先に決まっていれば、その下の判断(何を売るか、どう売るか)が決まりやすいと書きました。

こゆ財団を読み解くと、最初に決められたのは「続ける主体を作る」ことで、私たちが記事に書いた順番と同じ考えが表れています。この目的から見ると、法人を作ることも、ふるさと納税を伸ばすことも手段になります。

同記事では、「何のために」が決まっていれば、その下の判断が速くなると書きました。この事例で特徴的なのは、資金がないという条件を、交渉の材料に変えている点です。予算をもらってから始めるのではなく、成果を出したらその一部を原資にするという順序です。この形であれば、町の側は先に持ち出しをしません。始める側は、成果を出せなければ何も得られません。双方の負担が、この順序で決まっています。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 続ける主体が、組織の中と外のどちらにあるか
  • 一過性の取り組みと、続ける仕組みを分けて見ているか
  • 予算がない状態から、始める形を考えたことがあるか
  • 成果を出した後に原資をもらう順序を、検討したことがあるか
  • その順序で、誰が先に負担するかを把握しているか

事例から読み取れること

1. 役場の中ではなく、外に法人を作る形を選んでいる

「役場だけで頑張っても難しい」という見立てから、外に法人を作る提案が出ています。続ける主体がなかったという整理です。

2. 資金がない状態で、寄付額を増やす約束と引き換えに立ち上げている

「1年で1億円集められたら、うち1000万円を新しい団体にください」という交渉です。先に予算をもらう形ではありません。

3. 約束した金額を、実績が上回っている

1億円という約束に対して、実際には1年で4億円を超えました。2015年度のおよそ2,000万円からの伸びです。

2. 議会を通すために、外から代表を迎えた

「役場の職員なのに、法人の経営なんかできるのか」

法人の設立には、議会での議論が必要でした。そこで出た懸念が記録されています。

「役場の職員なのに、法人の経営なんかできるのか。まちづくりのプロに任せた方がいいだろう」

役場の職員が法人を経営することへの疑問です。この懸念に対して、岡本氏は代表を外から迎えることにしました。

打診の言葉も残っています。

「代表に就いてもらえませんか。でないと議会で通らず、この企画はつぶれます」

打診したのは、地域プロデューサーの齋藤潤一氏です。大阪府出身で、アメリカでの経験を経て東京で会社を経営し、その後、宮崎県での地方創生の案件を機に移住した人物です。新富町に地縁はありません。

一度は断られている

齋藤氏は、最初は断っています。

「ただ、あまりにも責任が重い仕事だったために一度はお断りしました。なので、一緒に適役の方を探したのですが、当時は今ほど地方創生のプロフェッショナルがいない状況もあって難航しました。でも探している中で、職員たちの本気度を感じたのです。このひとたちとなら、以前から自分が人生のミッションに掲げている”持続可能なまちづくり”が実現できるのではないか。そう考えを改め、オファーを受けることにしました」

引き受ける理由として挙げられているのは、待遇や条件ではありません。一緒に適役を探す過程で見た職員の姿勢です。

もう1つの理由も語られています。

「自治体が自ら稼ぐことで地域が持続可能にならないといけない。そんな問題意識、ゴールが一緒だったので、最終的に受けることにしたんです」

岡本氏との関係についても説明があります。

「岡本くんと出会って、ビジョン・ミッションを共有できたのは大きかったですね。少子高齢化、人口減少が進む中で、地域が今後どうなっていくのかわからないからこそ、地域が持続可能になるためには、きちんとお金を稼ぐ仕組みが必要という危機感が共通していたのは大きかったですね」

最初は懐疑的に見られた

外から来た代表として、当初の受け止めも語られています。

「外から入ってきた人間なので、最初はどうしても懐疑的な目で見られることが多かった。でも、ふるさと納税で新富町が潤い、空き家を再生した店舗作りで成果が出たことにより、循環型で経済が回るようになりました。地道にコツコツと活動を続けてきました」

議会を通すために外から迎えた人が、今度は地域から懐疑的に見られるという形で、立場によって同じ人が別の意味を持つことになります。

ローカルグローススタジオの分析:誰が代表かが、通るかどうかを変えている

私たちはターゲットと便益を5-10パターンに整理するという記事で、同じサービスでも相手によって得られる価値が違うため、誰に、何を、どんな独自性で届けるかを相手ごとに整理するという考え方を書きました。

この場面での相手は、議会です。事業の中身は同じでも、代表が誰かによって通るかどうかが変わりました。役場の職員が代表であれば「経営できるのか」という懸念が残り、外部のプロが代表であればその懸念は消えます。

同じ記事では、相手にとっての価値を言葉にすることが、訴求や施策を決める出発点になるとも書きました。この事例では、議会にとっての価値が「経営の経験がある人が責任を持つこと」でした。中身を変えずに、その条件を満たす方法を取っています。1章で見た「予算をもらわずに始める」形と合わせると、反対の理由を1つずつ外していく進め方として読めます。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 提案が通らないときに、反対の理由を分解できているか
  • 中身を変えずに、条件を満たす方法を探せるか
  • 代表や責任者を、外から迎える選択肢を持っているか
  • 引き受けてもらう理由を、条件以外で作れているか
  • 外から来た人が、地域からどう見られるかを想定しているか

事例から読み取れること

1. 議会を通すために、外部から代表を迎えている

「役場の職員なのに、法人の経営なんかできるのか」という懸念に対して、代表を外部の人に変えることで対応しています。

2. 引き受ける理由が、条件ではなかった

一度断った後、適役を探す過程で見た職員の姿勢が、引き受ける理由として語られています。

3. 外から来た代表は、地域からは懐疑的に見られている

議会にとっての条件を満たす人が、地域では別の受け止め方をされました。立場によって見え方が変わっています。

3. ふるさと納税の6%という設計

相場より低い率で受け取っている

こゆ財団が回るための原資は、ふるさと納税の運営を受託する委託料です。その率が設計されています。

「(こゆ財団は)翌年度から総寄付額の6%の約2400万円を新たに立ち上げる団体が町からのふるさと納税事務の委託料として受け取る仕組み」

自治体が民間企業へ事務を委託する場合、相場は総寄付額の10%から20%とされています。6%は、その半分以下です。

率が低いということは、財団に入る金額が少ないことを意味します。同時に、町に残る割合が大きくなります。委託する側から見れば、外に出るお金が少ない設計です。

寄付額そのものが伸びた

率が低くても、母数が増えれば金額は増えます。実際、寄付額は大きく動きました。

2015年度がおよそ2,000万円、2016年度がおよそ4億3,000万円、2017年度がおよそ9億円、2018年度が19億円です。2015年度から2018年度の3年間で、およそ95倍になりました。

2017年度から2024年度までの8年間で、累計の寄付額は100億円を超えています。

なお、6%という率は2017年の制度設計時の数字です。現在も同じ率かどうかは、今回の調査では確認できませんでした。

何をやったか

寄付額を伸ばした方法については、簡潔な言葉が残っています。

「あらゆることを実行しました」

進め方についても説明があります。

「齋藤さんの『まずは量を打つ。そこから質に転換する』戦略で、短期間のうちにとにかくたくさんの事業を始めました。中には失敗した事業もありますが、撤退もスピーディーにやりました」

失敗した事業があったことと、撤退が速かったことが、同じ文の中に書かれています。

ローカルグローススタジオの分析:取り分の設計が、続く条件になっている

私たちは前の章でも触れたターゲットと便益の記事で、相手ごとに価値を言葉にすることについて書きました。

こゆ財団の受託料の設計には、相手が2種類います。町と、財団です。率を低くすると、町に残る金額が増えます。財団の側は、寄付額そのものを伸ばすことで自分の取り分を増やすことになります。

同じ記事では、相手ごとに価値を言葉にすると、訴求や施策を出し分けられるとも書きました。この設計では、財団が寄付額を伸ばすことと、町の収入が増えることが同じ方向を向いています。率が高ければ、財団は寄付額が横ばいでも収入を保てます。率が低いと、伸ばし続ける以外に道がありません。取り分の決め方が、そのまま行動を決めている形です。

一方で、この設計は財団の側の負担が大きい形でもあります。寄付額が減れば、収入も減ります。ふるさと納税という制度自体が変われば、原資も変わります。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 受託料や手数料の率を、相場と比べて決めているか
  • その率が、自組織の行動をどう変えるかを把握しているか
  • 委託する側と、される側の利害が同じ方向を向いているか
  • 原資が1つの制度に依存していないか
  • 失敗した事業からの撤退を、速く決められているか

事例から読み取れること

1. 受託料の率を、相場より低く設計している

総寄付額の6%です。自治体が民間へ委託する場合の相場は10%から20%とされています。

2. 率が低いことが、伸ばし続ける理由になっている

率が高ければ横ばいでも収入を保てますが、低い場合は母数を増やす以外に道がありません。

3. 失敗と撤退が、記録に残っている

「中には失敗した事業もありますが、撤退もスピーディーにやりました」と語られています。

4. 1粒1,000円のライチ

生産者は反対した

こゆ財団の名前が広く知られるきっかけになったのが、1粒1,000円で売る「新富ライチ」です。この価格は、生産者の反対から始まっています。

「1個300円でもなかなか売れないのに、1000円で売るなんてとんでもない」

ライチを20年育ててきた森哲也氏の、最初の反応です。

一方、価格を提案した側の理由も残っています。

「ライチは冷凍で輸入されるものがほとんどで、日本人が普通に想像するライチって、もっと小さいじゃないですか。でも『新富ライチ』はこんなに大きくてジューシー。この期待値とのギャップに、1000円を払う人はいるだろうと目を付けました」

冷凍で輸入されるライチとの違いを、価格の根拠にしています。試食したときの反応も記録されています。

「うまい。こんなの初めて食べた」

森氏も、後に受け止めを語っています。

「1000円で売ろうという心意気にロマンを感じた」

20年で、思い通りにできたのは1回

栽培の難しさについても、繰り返し語られています。

「やっぱりライチ栽培は難しい。この20年間で、自分の思い通りに収穫できたのは、たったの1回だけです」

別の記事では、同じ趣旨がこう語られています。

「20年近くやってきて、思い通りにできたのは1回だけですね」

「失敗しなきゃ覚えないですから」

続ける理由についても、短い言葉が残っています。

「ライチが実っている景色が好きなんです」

実際、実がすべて割れてしまった年もあり、収穫量が大きく減ってふるさと納税の受付を停止したこともありました。

数字で分かる範囲

新富ライチの出荷は、2017年度が446セット、2018年度が1,044セット、2019年度が1,829セットです。2026年6月10日時点のふるさと納税の発送は、レギュラーが2,067件、premium50が1,134件でした。

規格も公表されています。premium50は糖度15度以上で1玉50グラム以上、レギュラーは糖度15度以上で1玉40グラム前後です。

国産の生ライチの流通量は全体のおよそ1%とされています。

なお、売上の金額や、財団の収益に占める比率は今回の調査では確認できませんでした。この記事では件数の範囲で書いています。

ローカルグローススタジオの分析:産地の競争から、外れる価格の付け方

私たちは地方企業やスタートアップに共通する、低リソース・ブランド無しの戦わない戦略という記事で、資源で劣る側が正面から競わない方法について書きました。

農産物は、産地どうしで比べられやすい商品です。同じ品目であれば、価格と量で並びます。この比べ方では、量を出せる産地が有利になります。

新富ライチの1粒1,000円という価格は、その比べ方から外れています。比べる相手が、他の産地の生ライチではなく、冷凍で輸入されるライチになっているためです。「日本人が普通に想像するライチ」との差を根拠にしているという説明が、この構造を表しています。

同じ記事では、直接対決を避けたうえで自社の強みを活かせる市場を選ぶと書きました。この事例で強みの裏づけになったのは、品質です。糖度15度以上、1玉50グラム以上という規格が公表されているのは、その部分にあたります。同時に、その規格を満たすものを作るのは生産者です。20年で思い通りにできたのが1回という言葉は、その負担の大きさを示しています。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 自社の商品が、何と比べられているかを把握しているか
  • 比べる相手を、変える方法があるか
  • 価格の根拠を、言葉で説明できるか
  • 品質の基準を、公表できる形にしているか
  • その基準を満たす負担が、誰にかかっているか

事例から読み取れること

1. 1粒1,000円という価格が、生産者の反対から始まっている

「1個300円でもなかなか売れないのに、1000円で売るなんてとんでもない」という反応が記録されています。

2. 比べる相手を、他の産地ではなく輸入品に置いている

冷凍で輸入されるライチとの差を、価格の根拠にしています。産地間の比較から外れる形です。

3. 規格を満たす負担は、生産者にかかっている

「20年間で、自分の思い通りに収穫できたのは、たったの1回だけです」という言葉が残っています。

5. 稼いだ収益を、起業家の育成に回す

収益の使い道が、決まっている

こゆ財団の特徴は、稼ぐことと、その使い道の両方が示されている点です。

「こゆ財団では、強い経済圏をつくることをミッションに掲げ、地域商社で得た売り上げを起業家を育成するための起業家育成事業(新富ローカルベンチャースクール)に投資しています」

特産品を売った収益を、起業家の育成に回す形です。

ミッションとビジョンも、言葉にされています。

「ミッションは、『世界一チャレンジしやすいまち』というビジョンのもと、行政では成し得なかったスピードで1粒1000円のライチを代表する『特産品販売』と新富ローカルベンチャースクールという『起業家育成塾』を行いながら持続可能な『強い地域経済をつくる』こと」

販売と育成の2つが、同じミッションの中に並んでいます。

育成の実績

新富ローカルベンチャースクールの1期(2018年度)は22名が参加し、うち2名が2019年4月に新富町へ着任しました。2期の定員は20名です。4期までの累計では、参加者がおよそ80名、うち7名が新富町へ移住したとされています。

こゆ財団を通じた移住者は、設立から2年間で15名でした。2019年4月には6名が着任しています。地域おこし協力隊として着任した起業人材は、2019年度時点で8名です(うち2名は前年度からの継続)。

関係人口は、2017年度が4,014人、2018年度が7,605人で、設立2年間の累計は延べ1万1,619人とされています。

ローカルグローススタジオの分析:収益が、次の担い手に回っている

私たちは顧客獲得コストを下げるには「ストック>フロー」を意識しようという記事で、広告のように止めれば効果が消えるフロー型と、一度作れば効き続けるストック型を分けて考えるという考え方を書きました。

こゆ財団が積み上げているのは、ふるさと納税の実績と、育てた起業家です。1期22名のうち2名、4期までのおよそ80名のうち7名が移住しています。数としては大きくありませんが、移住した人はその地域で事業を始めます。

同じ記事では、ストック型は一度作れば効き続けるとも書きました。この事例では、特産品の販売で得た収益が、次の担い手を作る費用に回っています。収益が自組織の拡大ではなく、外側の担い手に回る形です。育った人が事業を作れば、地域の側の担い手が増えます。

一方で、移住した人数は参加者に対して1割弱です。この比率をどう見るかは、目的の置き方によります。80名の参加者のうち、移住しなかった人が地域とどう関わり続けているかを示す資料は、今回の調査では確認できませんでした。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 稼いだ収益の使い道を、先に決めているか
  • その使い道が、自組織の外の担い手に向いているか
  • 育成の実績を、参加者数と定着者数の両方で見ているか
  • 定着しなかった人との関係が、残っているか
  • 販売と育成のように、性質の違う事業を並べて説明できるか

事例から読み取れること

1. 稼いだ収益を、起業家の育成に回す形にしている

「地域商社で得た売り上げを起業家を育成するための起業家育成事業に投資しています」と説明されています。

2. 育成の実績が、参加者数と定着者数の両方で示されている

4期までの参加者およそ80名に対し、移住は7名です。両方の数字が公表されています。

3. 販売と育成が、同じミッションの中に並んでいる

「特産品販売」と「起業家育成塾」が、同じ説明の中で対になっています。

6. 代表が代わっても続く形

2025年6月、代表理事が交代した

2025年6月1日、こゆ財団の代表理事が齋藤潤一氏から岡本啓二氏へ交代しました。設立時に議会対策として外から迎えた代表から、設立を提案した本人へ戻る形です。

岡本氏は、この間ずっと財団にいたわけではありません。1999年に新富町役場へ入庁し、2016年にふるさと納税を担当、2017年にこゆ財団の執行理事となった後、2020年4月に役場へ戻っています。そこで農業公社の設立計画を立案し、2021年6月にニューアグリベースが設立されました。2022年には新富町長の秘書室長となり、2025年6月に財団の代表理事として戻っています。

役場と財団の間を行き来しながら、両方に関わってきた経路です。

就任のメッセージ

代表就任にあたってのメッセージも公表されています。

「私は宮崎県新富町の出身であり、この町こそが私の原点です。しかし、新富町も例外なく、少子高齢化や若者の流出といった課題に直面しています。これらの課題に向き合い、地元の皆様と共に明るい未来を築くため、このたび代表の任をお受けいたしました」

これからの方向についても、言葉があります。

「こゆ財団はこれまで、町外との接点を広げることで成長してきました。今後は改めて『地元』に向き合い、住む人も関わる人もワクワクできる未来を創りたいと考えています」

掲げられたテーマは次のとおりです。

「地元に、もう一度“共感”と“期待”を。」

町外との接点を広げてきた段階から、地元へ向き直る段階へ、という説明です。

数字の現在地

ふるさと納税の累計寄付額は、2017年度から2024年度までの8年間で100億円を超えています。こゆ財団の職員は、2022年頃の記事でおよそ20人とされています。

新富町の人口は、2022年11月時点で16,298人、2024年9月時点でおよそ1万6,200人です。国勢調査では2011年の17,931人から2021年の16,465人へと推移しています。ふるさと納税の寄付額が伸びた期間も、人口は減っています。

ローカルグローススタジオの分析:役割が入れ替わる形で、続いている

私たちは3章でも触れたターゲットと便益の記事で、相手ごとに価値を整理することについて書きました。上の分析で触れたとおり、この事例では議会が相手になった場面がありました。

代表の交代は、その相手が変わったことの表れとも読めます。設立時は議会を通すことが課題で、外部のプロが代表であることに意味がありました。8年が経ち、実績が積み上がった段階では、地元との関係が課題になっています。「今後は改めて『地元』に向き合い」という言葉は、その変化を示しています。

同じ組織でも、時期によって相手が変わります。相手が変われば、誰が代表であることに意味があるかも変わります。この事例では、その変化に合わせて代表が入れ替わりました。設立を提案した本人が、8年後に代表として戻る形です。

一方で、寄付額が伸びた期間も新富町の人口は減っています。財団の成果と、町の人口は別の数字として並んでいます。

この事例から考えられること

照らし合わせてみる項目

  • 時期によって、向き合う相手が変わっていないか
  • その変化に合わせて、体制を変えられるか
  • 中心人物が代わっても、続く形になっているか
  • 組織の成果と、地域全体の数字を分けて見ているか
  • 段階が変わったことを、言葉にして示しているか

事例から読み取れること

1. 代表が交代しても続く形になっている

2025年6月、設立時に外から迎えた代表から、設立を提案した本人へ交代しました。組織は続いています。

2. 向き合う相手が、段階によって変わっている

設立時は議会、その後は町外との接点、現在は地元へと、課題の置き方が変わっています。

3. 財団の成果と、町の人口は別の数字である

寄付額が伸びた期間も、新富町の人口は減っています。両方は別の数字として並んでいます。

7. ローカルグローススタジオの視点

冒頭に挙げた7つの観点を、本文で確認した事実で説明し直します。

1. 役場の中ではなく、外に法人を作る形を選んでいる

「役場だけで頑張っても難しいと感じていました」「一過性の単発的な取組みはあっても、それを継続するプレイヤーがおらず」という見立てから、外に法人を作る提案が出ています。

取り組み自体はあったが、続ける主体がなかったという整理です。地域連携の事例として読むときに押さえておきたいのは、最初に動いたのが行政の中の人だった点と、その人が外に事業の形を作ろうとした点です。

2. 資金がない状態で、寄付額を増やす約束と引き換えに立ち上げている

町長からの返答は「例の団体設立、やってくれ。でもお金はないぞ」でした。そこで「1年で1億円集められたら、うち1000万円を新しい団体にください」という交渉をしています。

先に予算をもらう形ではありません。成果を出したらその一部を原資にする順序です。町の側は先に持ち出しをせず、始める側は成果が出なければ何も得られません。結果として、1年で4億円を超えました。

3. 議会を通すために、外部から代表を迎えている

「役場の職員なのに、法人の経営なんかできるのか」という懸念に対して、代表を外部の齋藤潤一氏に依頼しました。「代表に就いてもらえませんか。でないと議会で通らず、この企画はつぶれます」という打診の言葉が残っています。

事業の中身を変えずに、反対の理由を1つずつ外していく進め方です。齋藤氏は一度断っており、引き受けた理由として挙げられているのは条件ではなく、適役を探す過程で見た職員の姿勢でした。一方、外から来た代表は地域からは懐疑的に見られたとも語られています。

4. 受託料の率を、相場より低く設計している

ふるさと納税の運営受託料は、総寄付額の6%です。自治体が民間へ委託する場合の相場は10%から20%とされています。

率が低いと、財団は寄付額そのものを伸ばす以外に収入を増やす道がありません。町の側は、外に出る金額が少なくなります。取り分の決め方が、そのまま行動を決めている形です。実際、寄付額は2015年度のおよそ2,000万円から2018年度の19億円へ、3年でおよそ95倍になりました。なお6%は2017年の制度設計時の数字で、現在も同率かは確認できていません。

5. 1粒1,000円という価格が、生産者の反対から始まっている

「1個300円でもなかなか売れないのに、1000円で売るなんてとんでもない」という反応が、20年ライチを育ててきた森哲也氏から出ています。

価格の根拠は、冷凍で輸入されるライチとの差でした。産地どうしの比較から外れる形です。その代わりに必要になったのが品質の裏づけで、糖度15度以上、1玉50グラム以上といった規格が公表されています。その規格を満たす負担は生産者にかかっており、「20年間で、自分の思い通りに収穫できたのは、たったの1回だけです」という言葉が残っています。

6. 稼いだ収益を、起業家の育成に回す形にしている

「地域商社で得た売り上げを起業家を育成するための起業家育成事業に投資しています」と説明されています。販売と育成が、同じミッションの中に並んでいます。

新富ローカルベンチャースクールは、1期22名のうち2名、4期までのおよそ80名のうち7名が新富町へ移住しました。収益が自組織の拡大ではなく、外側の担い手を増やすことに回っている形です。ただし、移住しなかった人がその後どう関わっているかを示す資料は確認できませんでした。

7. 代表が交代しても続く形になっている

2025年6月、代表理事が齋藤潤一氏から岡本啓二氏へ交代しました。設立時に議会対策として外から迎えた代表から、設立を提案した本人へ戻る形です。岡本氏はこの間、役場と財団の間を行き来しています。

「こゆ財団はこれまで、町外との接点を広げることで成長してきました。今後は改めて『地元』に向き合い」という言葉に、段階の変化が表れています。同じ組織でも、時期によって向き合う相手が変わり、それに合わせて誰が代表であることに意味を持つかも変わっています。なお、ふるさと納税の寄付額が伸びた期間も、新富町の人口は減っています。財団の成果と町の人口は、別の数字として並んでいます。

本事例から見える経営とマーケティングの学び

こゆ財団の物語は、行政の中にいた人が外に事業の形を作り、それが8年続いてきた事例として読めます。順序をたどると、次の並びになります。

  • 役場の職員が外に法人を作る提案をした
  • 予算をもらわずに成果と引き換えの形で立ち上げた
  • 議会を通すために外部から代表を迎えた
  • 相場より低い率で受託料を設計した
  • 産地間の比較から外れる価格で特産品を売った
  • その収益を次の担い手の育成に回した

上の分析で触れたとおり、この事例には4つの見方が重なっています。原資の作り方が先に決まっていたこと、反対の理由を分解して条件のほうを変えたこと、取り分の設計が行動を決めていること、そして収益が外側の担い手に回っていることです。

同時に、この事例は成果の範囲を分けて読む必要がある対象でもあります。ライチの売上金額は公表されておらず、確認できるのは件数です。受託料の率は制度設計時のもので、現在の率は分かりません。寄付額が伸びた期間も、町の人口は減っています。地域の連携を読むときには、組織の成果と地域全体の数字を分けて見る必要がある、という点も持ち帰れる部分です。

「ビジネス知の機会格差をなくす」という私たちのミッションに向けて、これからも実践的で価値ある情報を発信していきます。この記事の内容について、さらに詳しく知りたい方は、ぜひご連絡ください。