ローカルグローススタジオは、『地方企業にスタートアップのような成長を』というテーマで、コンテンツ発信と支援サービスを展開しています。この記事では、実践的なビジネスノウハウを、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。
「○○社に学ぶシリーズ」の第9弾として、今回取り上げるのは、株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングスです。2008年の設立から、後継者のいない中小の食品企業を引き受け続け、2026年2月期末で連結子会社38社、従業員は正社員985名と臨時従業員983名、売上574.8億円のグループになりました。
前回のダナハーの記事で、技術承継機構の新居英一氏が上場記者会見でベンチマークに挙げた3社の名前を紹介しました。「ヨシムラフード、GENDA、USのDanaher」です。新居氏はさらに、産業革新機構時代に隣の席の担当者がヨシムラ・フードに出資していたことを、自身の創業の転機として語っています。製造業の承継を手がける技術承継機構が、食品の承継を続けるこの会社から「日本でも成立する」と学んでいたのです。
この会社には、このシリーズで繰り返し出てきた要素が1社の中に揃っています。買った会社を売らない方針、買う条件の公開、買った後の統合を機能別に分けた仕組み、そして譲渡した元オーナーの実名の言葉です。加えて、うまくいかなかった部分も、決算資料に数字で残っています。
本記事では、ヨシムラ・フード・ホールディングスの経営を「①弱みだけを補い合う6つの機能」「②『買って売らない』を最初の面談で言い切る」「③買う側の作法と、集中のリスク(M&Aをする会社向け)」という3つの視点から分析し、M&Aの予定がない企業でも応用できる原則を抽出していきます。
参考資料一覧
- 有価証券報告書(2016年2月期、2021年2月期、2025年2月期、2026年2月期)、決算説明資料(IRライブラリ)
- 2026年2月期決算説明および中期経営計画(2026年4月15日)、2027年2月期第1四半期決算説明(2026年7月15日)、子会社化の説明動画(十二堂、ONESTORY、マルキチ、ワイエスフーズ、富強食品を本文で引用。細川食品、小林製麺、林久右衛門商店、小田喜商店も参照)。いずれもヨシムラ・フード・ホールディングス公式チャンネル
- 公式サイト「グループ企業の声」香り芽本舗 元オーナー 藤原氏、現社長 三島氏、「会社売却のご相談」、CEOメッセージ、沿革
- 適時開示 「当社株式の内部者取引に対する告発について」(2025年1月29日)、「当グループ会社の役員人事に関するお知らせ」(2025年2月7日)、「当社株式の内部者取引に関する再発防止策の策定について」(2025年2月25日)、「役員報酬の減額に関するお知らせ」(2025年4月14日)、「のれんの減損損失による特別損失の計上に関するお知らせ」(2025年4月14日)
- 吉村元久CEOインタビュー THE INDEPENDENTS「食品業界の統合戦略」、社長名鑑(2018年)、激流オンライン「この人に聞く」(2024年)、Invest Leaders(2026年7月)
- TCG REVIEW(タナベコンサルティング)「ヨシムラ・フード・ホールディングス、グループで人材を最適化」(2019年)、「ホールディングス経営のメリット・デメリット」(安東俊CFO講義、2023年)、「グループ化という成長戦略」(吉村CEO講演録、2024年)
- ブリッジレポート(2026年2月期上期)、日本経営合理化協会「深読み企業分析」第121回(2023年)
ヨシムラ・フード・ホールディングスとは
何をしている会社か
食品の製造と販売を手がける中小企業を、株式を引き受けてグループ化し、持株会社として支援する会社です。2008年3月に吉村元久氏が設立し、2016年3月に東証マザーズ(現グロース)に上場、2017年3月に東証一部(現プライム)へ市場変更しました。
吉村氏は2026年4月の決算説明で、自社の位置づけをこう説明しています。
「支援をすると言ってもコンサルティング会社がやるように単に口出すだけではなくて、株を引き受けて連結対象にして共に成長していくというモデルでありまして、私の知る限り同業他社はいませんし、少なくとも上場企業では同業他社はいません」
扱っている商品は、見ていくと地方の食卓そのものです。チルドのシウマイ(楽陽食品。市販用チルドシウマイの生産量は国内1位と同社は説明)、白石温麺(白石興産、創業130年)、かきフライ(オーブン)、ピーナッツ加工品(ダイショウ)、鮎の陸上養殖(森養魚場)、梅の実ひじき(十二堂)、鰹節とだし(林久右衛門商店、1885年創業)、岩間の栗(小田喜商店)、春巻きの皮(富強食品)、北海道のホタテ(マルキチ、ワイエスフーズ)、そして2026年6月には函館のワイナリー(はこだてわいん)が加わりました。
最初の3社は、すべて赤字だった
始まりは、順調な会社を買ったのではありません。吉村氏は社長名鑑のインタビューで、こう語っています。
「はじめは、中小企業の資金調達のコンサルティングからスタートしました。続けていくうちに『ただ口を出すとか、少しお金を出すだけではなく、自分で会社を買って引き受けてやってみたらどうか』と言われたのがきっかけでした。その最初の会社がたまたま食品の会社だった」
「はじめに1社食品の会社を引き受け、そのあと非常に近いタイミングで2社引き受け、合計3社でスタートしました。しかし、その当時、引き受けた3社ともすべて赤字だったため、『このままじゃ大変だ』ということで、本当に必死に試行錯誤を繰り返しました」
さらに、その前の経験も語られています。証券会社を辞めた後、投資会社から派遣されて中小企業の社長を務めた時期の話です(THE INDEPENDENTS)。
「とにかく中小企業の経営はとても難しいという事を身に沁みて学びました。競争相手はオーナー系中小企業でしたが、その圧倒的な踏ん張り力には驚かされました。外から来た社長に対して、古株から若手まで敵対的で雰囲気は最悪でした。正直、夜中に目覚めることがしょっちゅうありました」
外から入った社長として最悪の雰囲気を経験し、次に赤字の3社を引き受けるところから、この会社は始まっています。
数字で見る18年
| 時点 | 連結売上 | 備考 |
|---|---|---|
| 2016年2月期 | 128億円 | 上場直前 |
| 2022年2月期 | 292億円 | |
| 2024年2月期 | 497億円 | |
| 2025年2月期 | 581億円 | 営業利益41.6億円 |
| 2026年2月期 | 574.8億円 | 営業利益15.7億円 |
2016年から2026年の年平均成長率は16.2%です(決算説明資料)。ただし直近の2026年2月期は減収減益で、営業利益は前期比62.3%減でした。この理由はポイント③で扱います。
M&Aの累計は31件です。同社はこれを3つの期間に分けて示しています。2009年2月期から2015年2月期の「ノウハウ構築期」が7年間で8件(年平均1件)、2016年2月期から2022年2月期の「ノウハウ進化期」が7年間で13件(年平均2件)、2023年2月期以降の「拡大期」が4年で10件(年平均3件)です。
買う条件を、サイトに書いてある
公式サイトの「会社売却のご相談」には、引き受ける条件が明記されています。
- 業種:食品製造業、食品卸売業、食品通信販売業
- 製造品目:問わない
- 地域:問わない
- 売上高:3億円以上
- 利益:黒字(実質的に黒字、実質的なキャッシュフロー黒字)
- 形態:株式の過半数以上の譲渡、または食品に関連する事業の売却
第5弾で取り上げた技術承継機構が「高収益企業のみ、再生案件は取り組まず」を上場時資料に書いていたのと同じく、入口の条件が公開されています。違うのは、ヨシムラ・フードの入口が「売上3億円以上、実質黒字」と、より小さな会社に開いている点です。
なぜヨシムラ・フード・ホールディングスから学ぶべきなのか
紹介は年570件、引き受けるのは年3件
同社に持ち込まれるM&A案件の紹介件数は、2019年2月期の約100件から、2026年2月期には約570件に増えています(決算説明資料)。そのうち実際にグループに加わるのは、拡大期で年平均3件です。
吉村氏はこの増え方を「一直線というよりも2次曲線的に増えている」と表現し、背景をこう説明しています。
「ビジネスの会社のオーナーとして引退をするというのは、サラリーマンの引退に比べて遅いので、特に70代に入って病気をしたり、これから設備投資しなくちゃいけないというところでお金が必要になったりする時に、売却を初めて考えるというオーナーさんが非常に多くおります」
売却を考え始めるきっかけが、病気と設備投資だという指摘です。承継を考える側にとっても、この2つが来てから動き始めると選べる相手が減る、ということでもあります。
元オーナーが、20社の中から選んだ理由を語っている
公式サイトの「グループ企業の声」に、2020年に譲渡した香り芽本舗(鳥取県。わかめ、ひじきの製品を製造)の元オーナー、藤原氏の言葉が載っています。
「私が62歳の時に、息子が後を継がないことになったんです。年齢的にも後継者が未定のまま経営を続けるのは、従業員さんやお得意さまへご迷惑をかけるリスクが高いと思いまして」
「当初ヨシムラ・フードHDも含め20社ほどの企業を紹介していただいたのですが、中には転売などを見据えているファンドもありました。ただ私としては従業員やお得意先、仕入先にとって少しでも良い相手を選びたいという思いが強かったので、売却を前提としない持株会社というヨシムラ・フードHDは、私の考えにフィットしましたね」
20社から選んだ理由が、金額ではなく「売却を前提としない」という点だったことが、本人の口から語られています。このシリーズで前に見た、まん福ホールディングスの売り手3人、ACROVEの売り手3人と、同じ構図です。
続かなかった部分も、開示されている
後で詳しく書きますが、この会社は2026年2月期に営業利益が62.3%減っています。北海道のホタテ事業に集中した結果です。中期経営計画の数値目標は「足元の状況を勘案し、再度検討中」と資料に書かれています。うまくいった話だけを選べる会社ではなく、集中の利点と代償の両方を数字で見られる会社です。
ポイント① 弱みだけを補い合う6つの機能
「強いところは、グループの各社に教えてほしい」
この会社の支援は、機能別に分かれています。吉村氏の説明です。
「私どもの支援というのは、機能別に分けて考えておりまして、1から6で『販売』『製造』『商品開発』『品質管理』『経営管理』『海外』とあります。各社それぞれこういう機能があって、だいたい中小企業というのは弱い機能があって、強いところがあるというのが一般的なんですが、私どもはその弱いところを支援して、強いところはグループの各社に教えてほしいということで、グループ化してきました」
同社はこれを「中小企業支援プラットフォーム」と呼んでいます。CEOメッセージには、もう少し具体的な例があります。
「すばらしい商品を作っているが営業力に弱みがある会社は、当社グループが持つ日本全国およびアジアの販売網を活かすことで売上を伸ばすことができます。営業力は強いが生産管理力に弱みがある会社は、当社グループが持つ生産管理ノウハウを活かすことで、生産効率を高め、生産力増大やコストダウンを図ることができます」
全部を良くしようとしていません。弱い機能を特定して、そこだけ補う。 その前提として、何が弱いかを6つの機能で棚卸ししています。
実例1:同業2社で、工場と営業と管理を分け合った
2022年9月に引き受けた細川食品(香川県。かき揚げなどの冷凍食品、創業約60年、従業員70名)の例です。同じ香川県内、車で1時間以内に、グループのオーブン(かきフライ)がありました。吉村氏の説明です。
「管理部門を集約するという意味でも合併をしまして、細川とオーブンが今年の3月1日に合併をして管理部門をスリム化しました。あと、やはり工場を共有するということですね。工場が2つありますと、忙しい時期に細川で忙しい時に作れないものをオーブンで作ることもできますし、逆にオーブンが忙しいところで、細川が作れる商品があればそこで作るということもあって」
「細川食品は基本的に営業がいなかった会社なんですけれども、オーブンは全国的に営業所があって営業マンがおりますので、彼らの営業ルートを使って細川食品の商品を売っていくということもスタートしております」
細川食品に足りなかったのは営業でした。オーブンに足りなかったのは繁忙期の生産能力でした。それぞれの弱みを、相手の強みで埋めています。決算資料によれば、細川食品は設備投資後に売上が1.2倍になっています。
実例2:ラインを2本から1本にした
楽陽食品(チルドシウマイ)の例は、もっと地味です。
「ラインとして元々10粒と12粒という規格があって、工場には2ライン別々にあったんですけれども、これを去年から12粒に集約しています。これによって生産効率と収益性の向上を図っております」
あわせて老朽化した成型機と冷却設備を更新し、決算資料では工場の歩留まりが8%改善したと示されています。新商品でも新市場でもなく、規格を1つ減らした話です。
実例3:本社が一括で契約し、資金を一元管理する
2026年7月のQ1決算説明では、グループ共通の取り組みが5つ挙げられています。
1. コストダウン:保険、通信機器、事務備品、工場備品をホールディングスが一括契約。CMS(グループ内の資金を一元管理する仕組み)で借入残高を減らし、支払利息を下げる
2. システム導入:統一した管理システムで情報を一元管理
3. 売上向上:資本業務提携先の国分グループからの出向者が主体となり、新商品開発と販売先開拓、グループ間の販路共有を進める
4. 品質管理:ホールディングスの品質管理部門が各社を定期巡回し、第三者の視点で改善提案。食品関連法令の改正情報を随時発信
5. 内部管理:規定と決裁権限基準をグループで統一
香り芽本舗の現社長、三島氏(工場長、総務部長を経て取締役、その後社長)の言葉が、受け入れる側の実感を伝えています。
「これまでの香り芽本舗は、予算管理・計画といったものをあまり行っておりませんでした。知識としては当然あったのですが、実際に管理しはじめると『なるほど!』と思うところは多々あります」
実例4:弱みを補う相手は、グループの外にもいる
2021年2月、同社は食品卸大手の国分グループ本社と資本業務提携を結びました。上で触れたとおり、国分からの出向者が商品開発と販路開拓を担っています。決算資料には、小林製麺(札幌。業務用生麺)が国分グループと連携して初の市販商品を共同開発した例が載っています。小林製麺で製造した麺を、同じグループの楽陽食品で包装し、国分北海道の専売品としてスーパーへ出した、という流れです。
さらに2022年4月には、博報堂DYメディアパートナーズの子会社だったONESTORY(地域の食や文化を再編集するマーケティング会社。野外レストラン「DINING OUT」を2012年から開催)の株式70%を取得しています。食品メーカーではない会社を引き受けた理由を、吉村氏はこう説明しました。
「ここ最近は、後継者がいないという理由だけで、既にしっかりと利益や高い収益を出している素晴らしい会社を引き継ぐケースが非常に増えています。これは10年前にはなかった状況です。そうなると、従来の『コストを抑える、効率的にオペレーションする』といった支援だけでなく、より売上を増やすための『新しい商品の開発』『新しい販路の開拓』『どのようなお客さんに、どう売っていくか』を考えるノウハウが極めて重要になります。このノウハウを内製化するために、ONESTORYが培ってきたノウハウや人材にグループに加わってもらうことが、時間を買うという意味でも最大のポイントでした」
引き受ける会社の質が変わったので、補うべき弱みも「赤字を消す」から「売上を作る」に変わった。だから必要な機能を外から足した、という順序です。
実例5:「穴」が見えている会社を引き受け、餃子は1種類のまま
2026年7月のインタビュー(Invest Leaders)で、吉村氏は引き受ける基準を「穴を埋められるか」と表現しています。
「買収する前の段階で、全部完璧な会社ってないんです。何かどこか穴がある。だけど、良いところがあるから中小企業として生き残っていて、倒れていないわけです」
例に挙げたのが、静岡県浜松市のまるかわ食品(餃子)です。創業オーナーが病気になり、従業員の前で「もうできないから廃業します」と告げた会社でした。商品は地域で売れ続けていて、足りないのは設備投資の資金と気力でした。
「まるかわ食品の場合、キャパシティはいっぱいで、売れ過ぎてしまっている。そこに設備投資をして、効率性を上げて、たくさん作れるようにして、売上を伸ばしました。それでも足りないので、新しい工場を作ります」
そして、その会社の強さをこう説明しています。
「まるかわ食品の何がすごいかというと、餃子は1種類しか作っていないんですよ。8時から17時まで、週5日作る。商品を絞っているから、効率よく作れるわけです」
引き受けた後も、商品を増やしていません。1種類のまま、作れる量を増やしました。
実例6:本社は戦略と資金配分だけ。管理の集約は一度失敗している
ホールディングスと事業会社の線引きについて、吉村氏は2024年の講演でこう語っています(TCG REVIEW)。
「事業会社の判断や権限の線引きについては、できる限り事業会社の経営者に委ねるスタンスである。CEOとしての私の役割は戦略を練ることや資金の配分を決定することであり、それ以外のことは基本的に口を出さない」
「そもそも私自身に食品業界は専門外で知識がなく、現場のマネジメントを任せざるを得なかったという背景もあるが、それが私自身の性格とも合っていたし、結果的にうまく機能したと感じている」
前回のダナハーの記事で、創業者に製造の経歴がなかったことを元幹部が「天の恵み」と呼んでいた話を書きました。同じ構図が、ここにもあります。
ただし、最初から今の形だったわけではありません。安東CFOは2023年の講義で、試行錯誤の経緯を説明しています(TCG REVIEW)。最初は「グループ一体感の創出」を目指し、事業面では全社視点の連携、経営面では管理業務の集約による効率化を打ち出した。しかし「愛社精神や帰属意識、勤務地転換の難しさ等に直面し、必ずしも思うような成果は得られなかった」。そこで商品提案力や生産管理といった機能面からシナジーを作る方向に切り替え、「各社の強みを活かし、弱みを補い合う仕組み」が生まれた、という順序です。
管理部門をまとめて効率化する、という最初の発想はうまくいかなかった。 6つの機能で弱みを補う今の形は、その失敗の後に出てきています。
実例7:成果は会社ごとに開示されている
決算資料に載っている成果を並べます。いずれもM&A前と直近期の比較で、母集団はその1社です。
| 会社 | 引き受けた時期 | 成果 |
|---|---|---|
| ダイショウ(ピーナッツ加工) | 2014年2月 | 営業利益2倍 |
| 森養魚場(鮎の陸上養殖) | 2019年6月 | 約7年で売上約1.6倍、営業利益約1.4倍 |
| 純和食品(ゼリー) | 2016年7月 | M&A5年後に売上1.5倍(シンガポール中心の海外販路) |
| 十二堂(梅の実ひじき) | 2022年1月 | 約4年で売上約1.6倍、営業利益約2.7倍 |
| 小林製麺(業務用生麺) | 2022年12月 | 約3年で売上約1.3倍、営業利益約1.4倍 |
| 楽陽食品(シウマイ) | 2008年12月 | 規格集約と設備更新で工場歩留まり8%改善 |
| 細川食品(冷凍食品) | 2022年9月 | 設備投資後に売上1.2倍 |
なお、小林製麺では「M&A実行後、既存の従業員の中から経営人材を登用し、現場の実態を踏まえた迅速な意思決定が可能な体制を構築」と資料にあります。一方、小田喜商店(栗)には本社から人材を派遣しています。社内から上げる型と、外から送る型を、会社によって使い分けています。
あなたの会社でできることは
グループを持たない会社にとって、このポイントで移植できるのは「6つの機能で自社を棚卸しする」ことと、「弱みは外と組んで埋める」という考え方です。
チェックリスト:こんな状態になっていませんか
- □ 自社の強みは言えるが、弱い機能を1つ挙げろと言われると口ごもる
- □ 予算と実績の差を、毎月見ていない
- □ 保険、通信、消耗品などの契約を、何年も見直していない
- □ 同じ地域に同業がいるが、繁忙期に仕事を融通し合ったことがない
- □ 製品の規格や品目が、売上に対して多すぎる気がしている
- □ 新しい販路を開く人が、社内に1人もいない
- □ 売れている商品があるのに、作れる量が足りていない
すぐにできる改善策
1. 6つの機能に、自社で点をつける
販売、製造、商品開発、品質管理、経営管理、海外(または新しい販路)。この6つに、5点満点で点をつけてみてください。経営者だけでなく、幹部2人にも別々につけてもらうと、認識のずれが見えます。
最も低い1つが、今期に手をつける機能です。全部を上げようとしないことが、ヨシムラ・フードの型です。
2. 最も弱い機能は、外と組んで埋める
細川食品は、営業をオーブンから借りました。国分の出向者が商品開発を担っています。
自社で人を採用して育てるのが間に合わないなら、その機能を持つ相手と組む。同業、取引先、卸、地域の商工会議所のつながりが候補です。地方企業やスタートアップに共通する、低リソース・ブランド無しの戦わない戦略で書いたとおり、同じ顧客を取り合っているように見える相手でも、バリューチェーンを分解すれば組める場所があります。細川食品とオーブンは、かき揚げとかきフライで顧客が重なる同業同士でした。
3. 規格と品目を1つ減らす。売れているものは、増やす前に量を作る
楽陽食品は10粒と12粒を12粒に集約しました。まるかわ食品は餃子1種類のまま、設備投資で作れる量を増やしました。自社の商品一覧を粗利額の順に並べ、下位の規格や品目で「これがなくても主要顧客が困らないもの」を1つ選ぶ。上位の商品で「売れているのに作れていない」ものがあれば、新商品より先にそこへ投資する。吉村氏の言う「穴」は、多くの場合ここにあります。
4. 契約を束ねて、資金を一元で見る
保険、通信、備品の契約は、複数拠点があるなら本社で一括にする。拠点が1つでも、契約一覧を1枚にまとめて年1回見直すだけで差が出ます。口座が複数あるなら、残高と借入を1枚で見る。ヨシムラ・フードがCMSでやっていることの、手作業版です。
5. 予算と実績を、月1回並べる
三島氏の「実際に管理しはじめると『なるほど!』と思うところは多々あります」は、予算管理を始めた側の率直な言葉です。月の売上と粗利の予算を決め、実績と並べて見る。それだけで、次に打つ手の順番が決まります。
ポイント② 「買って売らない」を最初の面談で言い切る
「買います」ではなく「引き受けます」
吉村氏が2008年に始めたとき、M&Aという言葉の印象は今より悪かったと本人が語っています。社長名鑑のインタビューです。
「創業当時は、企業を買収することに対して今よりもずっとネガティブなイメージが社会全体にありました。そのため、そのネガティブなイメージをいかに払拭するかに最も知恵を絞りました。私たちは、オーナー社長に対して『中小企業を買います』とは決して言わず、『中小企業を引き受けます』という言葉をあえて使いました。会社名に私の名前を入れたのも、実体の見えないハゲタカファンドのようなイメージを無くし、責任を明確にするためです」
そして、最初の面談で必ず説明したことがあると言います。
「一般的なプライベート・エクイティ・ファンドは、外部の投資家からお金を集めて会社を買い、投資家にお金を返すために数年でその会社を高く売却しなければなりません。しかし、私たちは外部の投資家からファンドのようにお金を集めていません。一度引き受けた会社は、売る必要がありません。買って売らない、ずっと一緒に成長していく会社です」
前回のダナハーの記事で、創業者が「事業を売ることに情熱はない」と語りながら、3つの部門を分離して上場させていた話を書きました。ヨシムラ・フードは、その約束をもう一段はっきりさせています。売り手が中小企業のオーナーだからです。
売る側は、この言葉で選んでいる
藤原氏が20社から選んだ理由は前に引きました。2024年12月に引き受けた富強食品(1958年創業、春巻きの皮で国内トップシェア)では、吉村氏が面談の場面をこう語っています。
「今回のM&Aを進める中で、創業者の奥様と息子様から後継者不在の課題についてご相談をいただきました。最初の面談の際、創業者の奥様から『吉村フードの事業内容と理念に深く共感したので、ぜひ株を譲りたい』と温かい言葉をはっきりいただき、大変強く印象に残っております」
THE INDEPENDENTSでは、買う側の姿勢をこう言い切っています。
「我々は中小企業と一緒に同じ船に乗り、途中で逃げないと関係者にコミットします。株式売却益が目的ではないので、社員も安心して一緒に船を漕いでくれます。株主が腰を据えて経営に取り組む姿勢を見せないと会社全体は変わりませんし売上も増えません」
「経営と資本は分かれていた方がいい」
吉村氏は2019年の取材で、この型の前提をこう語っています(TCG REVIEW)。
「儲からなければラインを減らしたり、廃業して次の道を探すのが欧米流ですが、日本の中小企業には”お家大事”とでも言うべきマインドがあって、家業だからこのラインは止められない、赤字を出してもこの味は守る、となりがちです。社長にとってはそれでよいかもしれませんが、付き合わされる社員や後継者の家族にとっては、ダメージが大きい。若くて、カリスマ性に満ちた社長なら、そんな状況でも社員はついてきたでしょうが、年をとればどうしてもその力は失われてしまいます。だからこそ、資本と経営は分けた方がいいと思うのです」
一方で、持株会社と事業会社の関係が上下に見えることの危うさも、自覚されています。安東CFOは2023年の講義で、ホールディングス経営のデメリットとして「HDとグループ各社が見かけ上、上下関係の構造になる」ことを挙げ、「HDとグループ各社の対等な関係性を築くか」が極めて重要だと説明しています。三島氏が覚えていた「大きな声で言ってください」は、この自覚から出た言葉だと読めます。
元オーナーを残す形も、1つではない
香り芽本舗では、ホールディングスから北堀氏が社長として入り、藤原氏は1年の期限付きで顧問に残りました。2023年3月のマルキチ(網走市。ホタテ加工)では、別の形を取っています。
「今回のケースでは、元のオーナー社長である値田社長が引き続き30%の株式を継続して保有し、代表として経営を引っ張っていただきます。これは値田社長の経営手腕を高く評価し、引き続きの成長を託すための国内初のスキームです」
同社は「過半数未満の出資は原則行わない」としていますが、元オーナーが3割を持ち続けて経営を続ける形は認めています。ONESTORYでは博報堂DYメディアパートナーズが30%を残しました。過半数は握る、ただし残し方は相手に合わせるという運用です。
ただし、この形には後日談があります。2025年1月29日、証券取引等監視委員会は、マルキチとワイエスフーズの役員2名を金融商品取引法違反(内部者取引および情報伝達)の嫌疑で札幌地方検察庁に告発しました。2名は1月31日に起訴され、同日付で役員を辞任。後任として安東CFOが両社の代表取締役に就任しました(適時開示)。同社は2月に再発防止策を公表し、原因を「当該元役員のインサイダー取引に対するコンプライアンス意識の欠如」とし、4月には「経営上の責任を明確にするため」としてCEOの月額報酬30%、CFO20%の減額を決めています。
元オーナーに株を残して経営を続けてもらう形は、承継される側の安心と引き換えに、上場会社としての規律を相手にも求めることになります。同社の再発防止策には「M&A実施時、相手先に対し当社株式の取引禁止を周知し、基本合意書締結時等の適切な時期に誓約書を取得」「グループ入りした企業の役員・社員に対し、PMIの一環としてインサイダー取引防止に関する研修を実施」が入りました。これは、買う側が上場会社であるときに固有の手順です。
引き受けた側の最初の言葉
統合が始まった後、受け入れる側が何を感じたか。三島氏の言葉です。
「上場企業の方にお会いしたこともなかったので、当初はやっぱり不安でした。ですがM&A後にヨシムラ・フードHDの方と最初に打ち合わせをしたときに『気に入らないことがあったら、大きな声で言ってください』とおっしゃられて。同じ目線での言動から、香り芽本舗を本当に良くしようという心意気が感じられました」
最初の打ち合わせの一言が、その後の関係を決めています。
人は、引き受けた会社から本部へ上がる
本部の作り方も語られています。
「当初は大和証券時代の繋がりがあった優秀な人物に『一緒にやらないか』と声をかけ、最初は2人で、その後現在の取締役も含めた3人で会社を立ち上げました。その後は、実際に引き受けた中小企業の中から優秀な人材にホールディングカンパニーに転籍してもらい、本部機能を構築していきました。外部からも採用していますが、根幹は3人からスタートした組織です」
本部を外から固めてから買ったのではなく、引き受けた会社の中の人が本部に上がって機能を作った、という順序です。
あなたの会社でできることは
1. 承継を考える側なら、相手に「売らないか」を最初に聞く
藤原氏が20社の中から選んだ基準は、転売の有無でした。候補先に最初に聞くべき質問は、金額ではなく「この会社を、何年持つつもりか」です。答えに詰まる相手は、外します。
2. 引き継ぐ側なら、最初の打ち合わせの一言を決めておく
三島氏が覚えているのは「気に入らないことがあったら、大きな声で言ってください」でした。新しい責任者が着任する場面、部門を統合する場面でも同じです。最初の会議で何を言うかを、前日に決めておく。
3. 言葉を変える
「買う」を「引き受ける」に変えた話は、社内の言葉にも応用できます。「人員整理」を「配置換え」と言い換えるような誤魔化しではなく、相手がどう受け取るかを基準に言葉を選ぶ、という意味です。
4. 次を任せる人を、社内から上げる前提で見る
ヨシムラ・フードの本部は、引き受けた会社の人材が上がって作られました。小林製麺でも社内から経営人材を登用しています。マネジメントとは、今のリソースでやりくりすること、リソース調達力を上げること。バフ人材とデバフ人材を見極める。で書いたとおり、今いる人で回す力と、外から連れてくる力は別物です。社内から上げる候補を、役職とは別の軸で3人挙げてみてください。
ポイント③ 買う側の作法と、集中のリスク(M&Aをする会社向け)
ここからは買収をする側の話です。このシリーズの読者の多くには優先度が下がりますが、ヨシムラ・フードには、うまくいった型と、集中した結果の代償の両方が数字で残っています。
2つの買い方
2026年4月の中期経営計画は、M&Aの戦略を2つに分けています。
ロールアップ戦略は、核となる会社を中心に同業を束ね、シェアと効率を取る買い方です。具体例が北海道のホタテ加工で、2023年3月のマルキチ(オホーツク海側)と同年10月のワイエスフーズ(噴火湾側)が核です。吉村氏の説明です。
「噴火湾のホタテ漁獲期は主に2月から5月。オホーツク海は6月から10月です。それぞれの繁忙期と閑散期が異なるため、お互いの工場や人員を融通し合うことで、工場の稼働率を大幅に向上させ、人手不足を補うことができます」
「オホーツク海のマルキチと、噴火湾のワイエスフーズがグループに加わったことで、当社グループは北海道全体のホタテ漁獲量の約10%を扱う、最大級のホタテ加工グループとなりました」
ニッチ戦略は、市場は小さくても高いシェアと利益率を持つ会社を引き受ける買い方です。富強食品の春巻きの皮(売上約5億円、営業利益8,000万円前後で安定と説明)、森養魚場の鮎(養殖量700トン、全国1位)が例です。中計資料は、ニッチ戦略の対象を「売上3億円以上、売上高EBITDA比率10%以上」と数字で示しています。
「今後も、このように特徴的な商品を作り、ファンに直接販売できる手段を持った、小ぶりながらも高い収益性を持つ会社を戦略的に増やしていきたい」(十二堂の説明動画)
規模の目安まで、公開している
中計資料の「M&Aターゲット」は、戦略別に数字を置いています。
- ロールアップの核となる企業:売上20億円以上、営業利益5億円以上
- ロールアップで束ねる周辺企業:売上3億円以上、シナジー重視
- ニッチ戦略:売上3億円以上、売上高EBITDA比率10%以上
- 形態:株式の過半数以上の譲受。過半数未満の出資は原則行わない
買う側が条件を公開すると、紹介する側(同社の場合、M&A仲介会社、地方銀行、弁護士、会計士)が案件を絞って持ってこられます。年570件の紹介は、この公開の結果でもあります。
ワイエスフーズ:過去最大の案件と、予見していたリスク
2023年10月のワイエスフーズは、株式70%を60億2,000万円で取得しました。グループ売上170億円弱、営業利益17億円弱で、同社にとって「圧倒的に過去最大の規模」だったと吉村氏は説明しています。
この発表の直前、2023年8月に中国が日本産水産物の輸入を全面停止しました。吉村氏は発表動画で、影響を「短期的には影響があるものの、中長期的にはほとんど影響がない」と説明し、理由を3つ挙げています。ワイエスフーズの中国向け売上約30%の大部分は中国で加工して第三国へ再輸出される経由分であること、約89億円を投じた道内最大級の冷凍保管設備があり冷凍ホタテの賞味期限は2年から3年なので市況回復まで在庫を持てること、そして買収価格の算定に処理水放出の影響をあらかじめ織り込んだことです。
2026年2月期:集中の代償が数字に出た
結果はこうなりました。2026年2月期の営業利益は15.7億円、前期の41.6億円から62.3%の減少です。CFOの安藤氏の説明を要約します。
- 前期は、輸入停止を受けて評価を下げていた在庫を販売したことで一時的な大きな利益が出ていた。その反動が出た
- ホタテの漁獲量が減り、仕入価格が上がって製造原価が上昇した
- 国内向けのボイルホタテは販売単価が下がり、期末に約4.8億円の評価減を計上した
- シンガポールで外食、ホテル、小売向けの販売が落ちた
さらに2027年2月期のQ1では、噴火湾の漁獲が稚貝の大量死の影響で例年の2分の1から3分の1に減りました。同社は「ワイエスフーズが噴火湾、マルキチがオホーツク海側に位置しており、それぞれの地域に仕入れのネットワークを持っているため、地域によるリスクをヘッジすることができております」と説明していますが、ホタテそのものへの集中は残っています。
そして中期経営計画のサマリーには、数値目標について「足元の状況を勘案し、再度検討中」と書かれています。
この減益を受けて、運用も変えています。2026年7月のインタビューで、吉村氏はホタテ事業の価格と在庫の管理を本社主導に切り替える方針を語りました(Invest Leaders)。これまで販売価格、販売数量、販売先の判断は各社の裁量を尊重してきたが、今後は本社が価格、数量、販売先、在庫を把握して管理する、という内容です。
「現場の知見を活かしながらも、グループ全体として販売・在庫・価格管理を強化し、より安定的な収益管理につなげていく」
「できる限り事業会社に委ねる」と語ってきた会社が、市況で業績が大きく動く事業については本社が握る方向に動いた、ということです。任せる範囲は固定ではなく、事業の性質で変える。これも1つの判断です。
ロールアップで核を大きくするほど、その核の市況がグループ全体を動かす。 技術承継機構が「製造業の中で分野分散することを非常に意識しています。半導体に特化しますといった考えは非常に危険」と語っていたのと、対になる事実です。
調べても分からないことがある
正直に書いておくべきことが、2025年には重なりました。1月にはマルキチとワイエスフーズの元役員2名のインサイダー取引が起訴に至り(前述)、8月には子会社のワイエスフーズが製造設備の補助金の一部を不適切に受給していたと報道されました。同社は同日、「当社がワイエスフーズを子会社化する以前に発生した事案であり、当社は当該補助金申請に一切関与しておりません」と公表し、関係当局の調査に協力するとしています。あわせて2025年2月期には、2017年に取得したシンガポールの日本食製造販売会社ののれん7億6,600万円を全額減損しました(適時開示。競争環境の悪化と米をはじめとする原材料高が理由)。
買収前の調査で分かることには限りがあります。前回のダナハーの記事で、同社のCEOが「デューデリジェンスで分かることには限りがあります」と語っていたのと同じことが、日本の事例でも起きています。吉村氏自身、2024年の講演で「会社は人が集合している”生き物”なので、会社を増やすと想定外のことが起きるのは日常茶飯事である。それを前提に会社を引き受けている」と語っています(TCG REVIEW)。
それでも続ける理由と、次の手
2026年6月30日、同社は函館市のはこだてわいん(売上約5億円、北海道で3番目の規模のワイナリー)をグループに加えました。吉村氏は函館の出身です。激流のインタビューで、こう語っています。
「私は函館の出身で、子どもの頃は毎日獲れたてのイカを売りに来ていました」
同誌は、函館の駅前が「夜真っすぐ歩けないほどの混雑ぶりだった」という母親の言葉と、その人混みが今は見られないことを紹介し、吉村氏の「だから地域活性化にすごく興味があって、中小食品企業支援に行き着いた」という言葉を載せています。
そしてQ1決算説明では、統合の手順そのものを標準化する動きが語られました。
「特にM&A後のPMIには時間と労力がかかりますが、これまでのノウハウをAIでマニュアル化・標準化する作業を進めており、今後のM&A実行件数の増加に対応できる基盤作りを進めています」
技術承継機構がNGPを週次で更新し、まん福が「まん福メソッド」として経験を標準化し、ダナハーがDBSを40年続けてきたのと、同じ方向です。
ただ、吉村氏が最大の制約として挙げるのは、案件でも資金でもなく人です(Invest Leaders)。
「新しく案件を見たり、デューデリジェンスをする人はいるんですけど、引き受けた後に経営してくれる人とか、経営をサポートしてくれる人は、実はすごく少ない」
2019年の取材でも「事業を支援し、プロジェクトを完遂させることのできる人材は、育成しなければ現れません」と語っており、7年経っても同じ課題が残っています。年570件の紹介があっても、年3件にとどまる理由の1つがここにあります。
あなたの会社でできることは(買収を検討する場合)
1. 買う条件を、数字で公開する
売上、利益、業種、形態。ヨシムラ・フードはサイトと決算資料に書いています。条件を出すと、紹介する側が絞ってくれます。
2. 2つの買い方のどちらかを、先に決める
同業を束ねて効率を取るのか、小さくても利益率の高い会社を足すのか。ヨシムラ・フードはこの2つを分け、目安の数字を別々に置いています。
3. 核に寄せるなら、核の市況が全体を動かすと知っておく
ホタテへの集中は、2025年2月期の営業利益41.6億円を作り、2026年2月期の15.7億円も作りました。1つの原料、1つの市場に寄せる判断は、上振れと下振れの両方を引き受ける判断です。
4. 調べても分からないことがあると、最初から織り込む
価格の算定にリスクを織り込んだ案件で、別のリスクが後から出ました。買収前の調査を丁寧にやることと、調査では出ないことがあると前提に置くことは、両立します。
M&Aをすぐに行わない企業でも使える、4つの原則
原則1 弱い機能を1つだけ選んで、そこを埋める
販売、製造、商品開発、品質管理、経営管理、販路。6つに点をつけ、最も低い1つに今期の手を集中する。全部を上げようとすると、何も変わりません。管理部門をまとめて効率化する発想は、同社自身が一度うまくいかなかった道です。
原則2 弱みは、外と組んで埋めてよい
細川食品は営業をオーブンから、ヨシムラ・フード全体は商品開発を国分から借りています。自社で育てるのが間に合わない機能は、持っている相手と組む。同業でも、分解すれば組める場所があります。
原則3 最初の言葉を、相手の側に立って決める
「買う」を「引き受ける」に変え、最初の打ち合わせで「気に入らないことがあったら、大きな声で言ってください」と言う。体制が変わる場面で最初に発する言葉は、前日に決めておけます。
原則4 1つに寄せる判断は、上と下の両方を引き受ける判断だと知る
ホタテへの集中は、利益を一度大きく押し上げ、翌年に大きく押し下げました。自社の売上が1つの顧客、1つの商品、1つの原料に寄っていないか。寄せるなら、下振れのときに何で持ちこたえるかを先に決めておく。まるかわ食品の「餃子1種類」が成り立つのは、グループという受け皿があるからでもあります。1社で1種類に寄せるなら、手元の資金か、組む相手を先に用意しておく必要があります。
まとめ
ヨシムラ・フード・ホールディングスから学べることを、6つに整理します。
1. 支援は6つの機能に分けて、弱いところだけ補う
販売、製造、商品開発、品質管理、経営管理、海外。全部を良くするのではなく、弱い機能を特定して埋める。強い機能は、逆にグループの他社へ教える側に回ります。
2. 成果は地味な施策から出ている
同業2社で工場と営業と管理を分け合う、規格を2つから1つに減らす、契約を一括にする、予算と実績を並べる。決算資料の成果(営業利益2倍、歩留まり8%改善、4年で営業利益2.7倍)は、こうした施策の積み重ねです。
3. 「買って売らない」を最初の面談で言い切る
元オーナーは20社の中から、転売しない相手を選びました。「買う」ではなく「引き受ける」、社名に自分の名前。言葉の選び方まで、売り手の不安に合わせています。
4. 条件を公開し、年570件から年3件を選ぶ
売上3億円以上、実質黒字、過半数譲渡。条件を出すから、紹介する側が絞ってくれる。2つの買い方(ロールアップとニッチ)にも、別々の数字の目安があります。
5. 集中は、上振れも下振れも連れてくる
北海道のホタテへの集中で、営業利益は41.6億円に上がり、翌期に15.7億円へ下がりました。中期経営計画の数値は再検討中です。1つに寄せる判断の両面を、この会社は数字で示しています。
6. 調べても分からないことがある
2025年には、子会社の元役員2名のインサイダー取引での起訴、子会社化の前に起きていた補助金の問題の報道、海外子会社ののれんの全額減損が重なりました。買収前の調査を尽くすことと、それでも出ないことがあると前提に置くことは、両立させる必要があります。同社は「想定外のことが起きるのは日常茶飯事。それを前提に会社を引き受けている」と言い切っています。
吉村氏は、最初の3社がすべて赤字だったころを「本当に必死に試行錯誤を繰り返しました」と振り返っています。そこから18年で38社です。
自社の6つの機能のうち、最も弱いのはどれか。それを埋めてくれる相手は、どこにいるか。この2つの問いは、M&Aを検討する段階でなくても、今日から使えます。
「ビジネス知の機会格差をなくす」という私たちのミッションに向けて、これからも実践的で価値ある情報を発信していきます。この記事の内容について、さらに詳しく知りたい方は、ぜひご連絡ください。

執筆者 : 佐久間 一己 (さくま かずき)
つなぐスタジオ株式会社 代表取締役社長 / ローカルグローススタジオ Director
リクルート営業マネージャー、ユーザベースFORCAS(現Speeda)カスタマーサクセスマネージャー、スタートアップ役員、地方起業を経て、地方企業向けのマーケティング代理店を設立。BtoB事業でWEBメディアを立ち上げオーガニック流入を3か月で20倍に伸ばすなど、シード/シリーズAの知名度・ブランドが乏しい時期のマーケティング手法を地方企業向けにアレンジします。



















