ローカルグローススタジオは、「地方企業にスタートアップのような成長を」というテーマで、コンテンツ発信と支援サービスを展開しています。この記事では、実践的なビジネスノウハウを、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。
この記事は、「顧客獲得コストを下げるには「ストック>フロー」を意識しよう」について記載しています。
広告偏重マーケティングの落とし穴
マーケティング施策を考えるとき、多くの地方企業やスタートアップは「とりあえず広告を出そう」と考えがちです。確かに広告は即効性があり成果も見えやすい、しかし、このアプローチには大きな落とし穴があるのです。
それは「コストの継続的な発生」という問題です。広告は出稿をやめれば効果もすぐに消えてしまいます。そのため、売上を維持するためには広告費をずっと支払い続ける必要があるのです。
この記事では、持続可能な顧客獲得の仕組みを作るための考え方として、「ストック>フロー」というマインドセットをご紹介したいと思います。
基本用語の整理
まず、議論の前提として、いくつかの重要な用語を整理しておきましょう。
CPA(Cost Per Acquisition)
顧客1人を獲得するためにかかるコストのことです。例えば、広告費50万円で10人の購入者を獲得した場合、CPAは5万円となります。
これは単純に「マーケティングコスト÷獲得顧客数」で計算できます。多くの企業では、この数値が低ければ低いほど良いと考えられています(ただし、のちほど説明するように、業界や商材によって適正値は大きく異なります)。
オーガニック流入
広告を使わず、自然に検索などから訪れてくれるお客様のことです。Google検索で上位表示されたり、SNSでシェアされたりすることで生まれる流入がこれにあたります。コストがかからない(または広告費として明示的には計上されない)分、効率が良いのが特徴です。
ドメインランク
サイトの信頼性を表す指標の一つです。Googleなどの検索エンジンは公式にこの数値を公開していませんが、SEO業界では「Domain Authority」や「Domain Rating」などの指標が用いられています。大手メディアからリンクされるなど、外部からの評価が高まると上昇します。
ドメインランクが高いサイトは、新しいコンテンツを公開した際も検索順位が上がりやすいという特徴があります。つまり、長期的なSEO戦略において非常に重要な要素なのです。
ブレンデッドCPAという考え方
ここで重要な概念が「ブレンデッドCPA(総合的な顧客獲得コスト)」です。これは、すべての流入経路を合わせた平均的な顧客獲得コストを指します。
例えば、月間の新規獲得100件のうち:
- リスティング広告:40件(1件3万円)
- SNS広告:30件(1件2.5万円)
- オーガニック流入:30件(コスト0円)
この場合の総コストは: (40件×3万円)+(30件×2.5万円)+(30件×0円)= 195万円
したがって、1件あたりの平均獲得コストは: 195万円÷100件 = 1.95万円
これが「ブレンデッドCPA」です。
広告のみで見ると1件あたり2.5〜3万円かかっていますが、オーガニック流入を含めると約1.95万円まで下がります。このブレンデッドCPAを下げることが、マーケティングの長期的な効率化において非常に重要なのです。
業界別の適正CPA設定法
適正なCPAは、業界や商材によって大きく異なります。ここでは具体例を見てみましょう。
EC事業の場合
- 平均顧客単価:1万円
- 想定リピート率:3回/年
- 顧客生涯価値(LTV):3万円
この場合、一般的には「LTVの3分の1以下」が適正CPAとされるため、1万円以下が目標となります。
BtoBサービスの場合
- 月額単価:10万円
- 想定契約期間:24ヶ月
- 顧客生涯価値:240万円
同様に計算すると、適正CPAは80万円以下となります。
この「LTVの3分の1ルール」は厳密な法則ではありませんが、持続可能なビジネスモデルを構築するための一つの目安として参考になります。ただし、成長フェーズや企業の戦略によっては、意図的にこの比率を超えて投資する場合もあります。
なぜオーガニック流入が重要なのか
ここで重要なのが、オーガニック(自然検索流入)の割合です。広告は費用が常にかかり続ける「フロー型」の施策ですが、オーガニック流入は一度構築すれば継続的に効果を発揮する「ストック型」の施策です。
例えば、月間5万円のコンテンツ制作費で、毎月5件のオーガニック流入による成約が生まれるようになったとします。この場合、初月のCPAは1万円ですが、2ヶ月目以降も同じペースで成約が続けば、実質的なCPAはどんどん下がっていきます。
- 1ヶ月目:5万円÷5件 = 1万円/件
- 2ヶ月目:5万円÷10件 = 5千円/件(累計)
- 3ヶ月目:5万円÷15件 = 約3,333円/件(累計)
これが「ストック>フロー」の考え方の本質です。一度構築したコンテンツが長期間にわたって価値を生み出し続けるのです。
特に地方企業においては、広告予算に限りがあることが多いため、この「ストック型」の施策の重要性はより高くなります。
オーガニック流入を増やすための具体策
では、具体的にどうすればオーガニック流入を増やすことができるのでしょうか。主要な施策を見ていきましょう。
1. 検索エンジン対策(SEO)の基本
タイトルタグの最適化
検索結果に表示される青文字部分です。重要なキーワードを前に持ってくることが効果的です。 例:「小浜市の美容室|カット・パーマなら○○サロン」
メタディスクリプションの工夫
検索結果に表示される説明文です。ユーザーを惹きつける文章を工夫しましょう。 例:「創業30年の実績。カット3,000円〜。お客様の『なりたい』を叶える技術と丁寧なカウンセリングが自慢です」
内部リンクの充実
サイト内の記事同士をつなぎ、回遊性を高めることで、サイト全体の評価向上につながります。
2. コンテンツマーケティングのコツ
ユーザーの悩みに応える記事作り
単なる商品紹介ではなく、ユーザーの課題解決に焦点を当てたコンテンツが効果的です。 例:「髪の悩み別・おすすめヘアスタイル」「パーマの持ちを良くする方法」など
専門知識の体系的な発信
あなたの業界での専門知識を体系的に発信することで、信頼性を高めます。 例:「美容師が教える正しいシャンプーの方法」「髪質改善トリートメントの種類と効果」
地域に特化した情報提供
地方企業の強みを活かし、地域に特化した情報を提供することで差別化できます。 例:「小浜市のヘアサロン選びのポイント」「地域のイベント・観光情報」
3. 検索流入を増やす具体的な取り組み
重要キーワードでSEO1〜3位を目指す
・競合分析を行い、上位表示されているサイトの特徴を研究 ・自社の強みとなるキーワードを特定 ・記事の文字数は2,000字以上を目安に(ただし、質が重要)
関連キーワードの記事を網羅的に作成
・キーワードプランナーなどのツールで関連ワードを抽出 ・よくある質問(FAQ)のページを充実 ・業界用語の解説コンテンツを作成
自社ドメインの評価(ドメインランク)を上げる
・定期的なコンテンツ更新 ・ソーシャルメディアでの情報発信 ・他サイトからの被リンク獲得
4. 外部からの評価を高める
プレスリリースの戦略的な配信
・新商品・新サービスの発表 ・イベント開催の告知 ・業績や事例の紹介
他社サイトからの被リンク獲得
・業界ポータルサイトへの掲載 ・地域メディアとの関係構築 ・インフルエンサーとのコラボレーション
共催セミナーによる相互リンク施策
・異業種との協業 ・地域企業とのネットワーク作り ・オンラインイベントの開催
よくある失敗パターンと対策
オーガニック施策を実施する際によく見られる失敗パターンと、その対策を見ていきましょう。
1. 初期施策の誤り
- 失敗例:とにかく大量の記事を書けば良いと考える
- 正しい対応:ユーザーの検索意図を理解し、質の高いコンテンツを提供する
単純に記事数を増やすだけでは効果は限定的です。一つひとつの記事がユーザーの課題をしっかり解決するものであるかが重要です。
2. 予算配分の間違い
- 失敗例:予算の90%以上を広告に投入
短期的には広告の方が効果が出やすいですが、中長期的にはオーガニック施策への投資が効いてきます。バランスの良い予算配分が重要です。
3. 効果測定の不備
- 失敗例:PVだけで効果を判断
- 正しい対応:CVRやCPAなど、複数の指標での総合評価
単純なトラフィック数だけでなく、それが実際の成約につながっているかを測定することが重要です。
4. 検索順位を上げるためのチェックポイント
技術面
・サイトの表示速度 ・スマートフォン対応 ・SSL証明書の導入 ・サイトマップの整備
コンテンツ面
・独自性のある情報提供 ・定期的な更新 ・画像やグラフの活用 ・読みやすい文章構成
ユーザー体験
・分かりやすいナビゲーション ・適切な内部リンク ・コンバージョンまでの導線設計 ・お問い合わせフォームの使いやすさ
中長期視点でのマーケティング計画
ここからは、より長期的な視点でのマーケティング計画について考えていきましょう。
短期的な施策に目を向けすぎると、結果的にコストが膨らんでしまうのです。
1. 事業計画から許容できるCPAを算出する
- 商品・サービスの利益率を考慮
- 顧客の生涯価値(LTV)を計算
- 投資回収期間の設定
例えば、平均利益率30%の商品で、顧客の平均購入回数が3回、平均購入単価が1万円の場合、LTVは約9,000円(3万円×30%)となります。この場合、CPAは3,000円程度に設定するのが妥当でしょう。
2. 必要な顧客獲得数を見積もる
- 月間の売上目標から逆算
- 季節変動も考慮
- 複数のシナリオを用意
例えば、月間売上目標500万円、平均購入単価1万円の場合、必要な顧客数は500人となります。ここから現在の既存顧客からの売上を差し引き、新規獲得が必要な顧客数を算出します。
3. オーガニック施策を早めに始める
- コンテンツ制作の計画立案
- 必要な人員・リソースの確保
- PDCAサイクルの構築
SEOの効果が出始めるまでには通常3〜6ヶ月程度かかります。そのため、早めに着手することが重要です。
業界別のオーガニック戦略
業界ごとに効果的なオーガニック戦略は異なります。ここでは代表的な業種ごとの戦略を見ていきましょう。
EC事業の場合
- 商品レビューの充実
- 使い方ガイドの作成
- 比較記事の展開
EC事業では、「購入前の不安を解消する」コンテンツが特に効果的です。商品の詳細情報や使用感、他商品との比較など、購買判断に役立つ情報を提供しましょう。
サービス業の場合
- 地域密着型コンテンツ
- よくある質問の網羅
- 事例紹介の強化
サービス業では、地域性と専門性をアピールするコンテンツが有効です。「○○市の△△サービス選びのポイント」など、地域に特化した情報提供が差別化につながります。
BtoB事業の場合
- 専門用語の解説
- 業界レポートの発行
- 導入事例の詳細解説
BtoB事業では、意思決定者の「学び」をサポートするコンテンツが重要です。業界の動向分析や専門知識の解説など、相手の知見を広げるコンテンツが信頼につながります。
まとめ
短期的には広告費の投下も必要かもしれません。でも、その比率を下げていくための投資を、今すぐ始めることが大切です。
フロー(広告費)に依存しすぎず、ストック(オーガニック)の割合を高めていく。それが、持続可能なマーケティングの基本となります。
具体的なステップとしては:
- 現在のCPAを正確に把握する
- 業界・商材に応じた適正CPAを設定する
- オーガニック流入を増やすための施策を開始する
- 定期的に効果を測定し、改善を続ける
これらのステップを着実に実行することで、長期的に安定した顧客獲得の仕組みを構築することができるでしょう。
「ビジネス知の機会格差をなくす」という私たちのミッションに向けて、これからも実践的で価値ある情報を発信していきます。この記事の内容について、さらに詳しく知りたい方は、ぜひご連絡ください。

執筆者 : 佐久間 一己 (さくま かずき)
つなぐスタジオ株式会社 代表取締役社長 / ローカルグローススタジオ Director
リクルート営業マネージャー、ユーザベースFORCAS(現Speeda)カスタマーサクセスマネージャー、スタートアップ役員、地方起業を経て、地方企業向けのマーケティング代理店を設立。BtoB事業でWEBメディアを立ち上げオーガニック流入を3か月で20倍に伸ばすなど、シード/シリーズAの知名度・ブランドが乏しい時期のマーケティング手法を地方企業向けにアレンジします。